短編②
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「忘れろとは言わないし、代わりになろうとも思ってねェ。ただ俺は」
あんたのことが好きなだけだ。
・・・・・真っ直ぐな目で、
彼は私にはっきりとそう言った。
ポートガスDエース、君。
たまたま近所にあった喫茶店。
こんなところあったっけ、と入ってみたのがきっかけで。
常連になった私をいつも笑顔で出迎えてくれた。
住んでるのが近所、ということは最近知った。
少しだけ年下の男の子。
・・・・・もっと昔に出会っていたら、私の人生は違ってただろうか。
あの人と出会う前に会っていたら。
・・・・恋を、していたら。
私はエース君のこの言葉を素直に受け入れてたのかな。
「エース君、私は」
・・・・私、には。
「俺のこと見て欲しいんだよ・・・アコさん」
・・・・私の心はまだ、あの人が。
亡くなった主人が居る。
結婚してすぐに、まだ若かったのに先に逝ってしまったあの人。
・・・・忘れられる訳、ない。
「気持ちは、嬉しいけど」
「絶対ェ無理、嫌だって言われねェ限り諦めねェ」
「・・・エース君」
「・・・・とりあえず店には来てくれよな。明後日新作メニュー出すんだ、考えたの俺なんだぜ?」
「・・・ええ、有難う」
・・・・エース君は本当に真っ直ぐで。
私なんかには勿体ない。
何より、あの人のことを絶対に忘れられない私とどうにかなっちゃ駄目な人。
だからもう店には行かないようにしないと。
・・・・・・そう、思ってたのに。
自然と足がお店に向いていた。
駄目だってのはわかってた。
・・・・それでも言わずにおれなかった。
周りからは色々言われた。
『好きになるだけ損だろ、旦那亡くしたばっかの未亡人だぜ?』
未亡人だとか、損だとか関係ねェ。
・・・好きだと、思ったんだ。
好きになっちまったんだ。
「そんで今日待ってる訳だ、純情なエース君は」
「・・・・来る、よな」
「来ると思うか?心にもう会えない旦那を想ってる女が」
「・・・・・やっぱ無理か」
サッチの言うこともわかる。
アコの心から前の旦那は消せねェ。
・・・・消そうとは、思ってない。
ただいつまでもあんな寂しそうな笑顔のままでいさせるのは嫌なんだ。
俺がもっと笑わせたい。
・・・・俺が、側にいて。
俺が。
カラン、と鈴が鳴ってドアが開いた。
「いらっしゃ・・・・・アコ、さん」
来ないかもしれないと思ってたその人の姿が、あった。
・・・・・来ちゃった。
「来てくれてすっげェ嬉しい。こっち、アコさんの席」
顔を赤くして照れたような笑顔でエース君は出迎えてくれて、
ドキッとする。
・・・・・同時に少し痛む胸。
窓際の2人席。
そこに書かれてた、
『アコ様専用お席』
「私専用なの?」
「おう、ここからの景色は特別にいいからな。アコさんだけの席」
「・・・すごい」
「そんなことより俺の考えた新作メニュー、食ってくれるんだよな?」
「そう、それを食べに来たの」
・・・ってことにしておこう、今は。
「俺の考えたケーキ、今出すから」
「有難う、楽しみ」
・・・ドキドキ。
いつ来ても笑顔で迎えてくれて、静かで。
落ち着くお店。
働いてるエース君の横顔をちらりと見る。
・・・楽しそう。
「アコさん、どうぞ」
「わ・・・・」
すっと差し出されたそれは、
「ベリー系平気だったよな?」
「大丈夫。可愛いケーキね」
白いお皿の真ん中に2つ、
笑顔と泣き顔の描かれたロールケーキ。
周りにちょこんちょこん、と赤い丸のソースが飾られて。
上には生クリームも。
「俺の自信作。食ってみて」
ワクワクした彼の顔が私の心をくすぐる。
「いただきます」
顔を切ってしまうのは勿体なかったけど、
食べないことの方が勿体ないので。
悲しい方の顔から少しだけ切り分けて、ぱくり。
「・・・・・あ。美味しい」
ふわふわのロールケーキと、ちょうどいい甘さ。
ベリーの香り。
「ホントか!?」
「うん、すっごく美味しい。・・・何て言うか、ほわって感じ」
感想になってない感想が口から出て我ながら情けなく思ってたところ、
「へへ、そっか・・・・!!」
・・・・それでも嬉しそうなエース君に胸が締め付けられた。
・・・・うん、今日来て良かった。
「甘い、匂いね」
「・・・・アコさんからも、甘ェ匂いがするぜ」
不意に髪の毛を一房、彼の手に取られた。
「そ・・・・・っそんなこと、は」
「する。・・・・美味そう」
「・・・私からはお線香の匂いしかしないでしょ?」
「・・・・・ずりィよアコさん」
寂しそうな、悔しそうな。
・・・・拗ねたような。
今にも泣きそうな顔で手を離したエース君に、
それにもまた胸がぎゅうっと締め付けられて。
・・・・私はどうしたらいいんだろう。
「ご馳走さま、でした」
精一杯で笑いかけてお店を出た。
・・・・出てすぐに、寂しくなった。
『ご馳走さま、でした』
たぶんあれは彼女の精一杯の笑顔だったんだろう、その顔を見送ってすぐに寂しくなった。
・・・悔しくなった。
何だよアレ。
・・・何だよ、『お線香の匂いしかしないでしょ?』ってよ。
あんなこと言われたら何も出来ねェ。
何も言えねェ。
・・・・・・・・情けねェよな。
「・・・・んっとに情けねェ!」
このまま引き下がれるか。
まだ追いかけられる距離だ、
「・・・・・アコ・・・・っ!!」
鈴が壊れるんじゃねぇかって程強くドアを開けて、
追いかけた。
「アコ・・・・・っ、俺は!」
寂しそうな背中を捕まえて、
「え、エースく」
目を丸くして驚く顔を腕に閉じ込めた。
「俺は誓う。これから俺はアコさんの笑顔の為に何でもする」
「・・・・駄目よ、エース君。そんなの可哀想」
「可哀想じゃねェ。誰にもそんなこと言わせねぇ。笑顔の為に思いっきり泣くことが必要なら泣かせてみせる」
「・・・もう、十分泣いたから」
「まだ足りてねェんだ。だから思いっきり笑えねェんだよ」
後ろから呼び止められて、
驚いて振り返ったらそのまま抱きしめられた。
彼は私の笑顔の為に何でもすると誓った。
駄目、駄目。
そんな可哀想なことさせられる訳ない。
「まだ足りてねェんだ。だから思いっきり笑えねェんだよ」
・・・・図星を突かれた気がした。
あの人が亡くなったと聞かされた時、
何がなんだかわからなかった。
お葬式の時は私がしっかりしないと、とほとんど泣けなかった。
あまり泣いてはあの人が可哀想だと周りに言われて、泣くことをやめた。
「・・・・私」
泣いてもいいの?
「でもって、1人で泣かせたりしねェ。涙も笑顔も全部俺が守る」
「・・・・・・エース君」
「どんな匂いだってアコさんはアコさんだ、好きなんだよ・・・・・っ」
力強い腕に、
声に。
優しい言葉に。
心臓が熱い。
頭が、
身体が、
目が。
・・・・・熱い。
いいのかな。
ねえ、あなた。
ごめんなさい。
好きな人がもう1人出来てしまいました。
「・・・・・・・・ずっと私の旦那様でいてくれる?」
「約束する。ずっと大事にする」
私にとって2回目の永遠の約束。
これで、最後の約束。