短編②
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男の人ががっくりと肩を落として部屋から出て来た。
・・・・次は私の番、と。
ごくりと唾を飲んだ。
・・・・・大丈夫。
「頑張ってアコさん!」
「頼むよ!」
仲間の声援を受けて、
「・・・・はい!」
精一杯の返事をして私はそのドアをノックした。
今日は社長と1対1のプレゼンの日。
企画が通って喜ぶ人も居れば、
今の人みたいにNOを突き付けられて最初からやり直しの人も居る。
プレゼンはそのチームのリーダーが1人で社長と対峙する為、仲間からのプレッシャーは計り知れない。
・・・・・・でももうここまで来たら頑張るしかないんだ。
頭重い、けど。
・・・・・・皆の為にも!
「失礼しますっ」
「お、今度はアコんとこか。楽しみだな」
「ご期待に添えられるよう・・・頑張ります・・・!」
普段穏やかで心が広く、
優しくて信頼のあるシャンクス社長。
でもプレゼンの時だけは厳しい。
・・・だからこそやり甲斐もある。
「では、始めさせて頂きます・・・」
心臓がばっくん、ばっくん、うるさい。
顔も熱い。
ああでも頑張らないと。
「アコ?」
「はいっ」
「大丈夫か?」
「はい、準備は整っておりまふ」
「アコ」
「あ、す・・・すみませ、少し頭、が」
くらくらして。
呂律が上手く回らない。
言葉が、出てこない。
「プレゼンは中止だ」
「えっ」
更に頭に衝撃。
そんな、今まで今日の為に頑張って来たのに。
皆に何て言ったら、と色んな思いが頭を駆け巡った瞬間。
「失礼」
「は」
失礼、と言われた途端身体が宙に浮いた。
いや違う、私の身体をしっかりと支えてくれてるシャンクス社長の腕を感じる。
・・・・・っお姫様抱っこ!?
「医務室に連れて行く」
「えっあのっ大丈夫ですっ」
「社長命令」
「せせせせめて自分で歩きます、ろで!」
「普通に話せる奴の言うことしか信用出来ないな、悪いが」
「・・・・・っすみませ・・・・」
ドアを蹴って開けて、
社長は医務室に連れて行っていくれた。
皆がびっくりしてたけど、
気遣う余裕はもう残ってなかった。
ピピピ、と電子音が鳴った。
「あと2、3分は測っておいた方がいい。その方が正確だ」
「・・・・はい」
医務室のベッドに寝かされて、体温計で熱を計測中。
「いつから具合悪かった?」
「・・・・わかりません、プレゼンの少し前から緊張はありました、けど」
「まったく無理をする」
「・・・・ご迷惑をおかけして、すみません」
「生憎とそこまで仕事熱心じゃねェんで気にするな」
「・・・嘘、です・・・そんなの」
「そろそろどうだ?」
「え?あ・・・・37度・・・です」
一瞬何のことかわかんなかった。
すぐに体温計を確認。
「平熱は?」
「35度ないくらいです・・・」
「・・・・高いな。苦しいだろう」
「・・・少し」
社長は私の髪を優しく撫でてくれて。
「すぐ戻る。眠かったら寝てていいからな」
そう言って部屋から出て行った。
・・・横にはなったけど。
不思議と眠くはない。
・・・・でも苦しい。
迷惑かけてしまったことが。
大好きな社長に、仲間に申し訳ない。
「お、起きてるな。これ風邪薬だ、飲めそうか?」
社長が戻って来て慌てて飛び起きた。
「あ・・・すみませ、」
「それと」
「ひゃっ」
急に頭に冷たい物が当てられて驚いた。
「冷えピタ買ってきた。薬飲んだらポカリ飲んどけ」
「ももも申し訳ありませっ」
「他に欲しいのあるか?」
「いえ、大丈夫、です」
有難く渡された薬を飲み、
ポカリもごくり。
すると顔全体が冷たさに包まれて、
「うぎゃあっ」
また声が出てしまった。
今度の正体は社長の両手。
「しゃしゃしゃちょっ」
「熱いな」
「だだだ駄目です風邪が移ります!」
「俺は構わねェ」
「駄目です・・・!」
「社員が苦しんでる時に助けられねェんじゃ意味がないからな」
「駄目です、よ」
そんなの社長の仕事じゃない。
私が、私だけが悪いのに。
「キスすりゃ移るか」
「だっ駄目です絶対!」
「・・・絶対?」
「絶対!」
バレたら社長のファンに怒られる。
・・・・この状況も本当は。
すごく嬉しいけど。
「絶対駄目、か。嫌ではないと。覚えておこう」
「・・・・・っ」
・・・・・・嫌じゃない。言わないけど。
・・・・・好き、だから。
「・・・社長、聞いてもいいですか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「プレゼン・・・何で社長と1対1、なんですか?」
ずっと疑問に思ってた。
仲間が居た方が心強いのにって。
しかもリーダーは誰もがやらされる。
社長は私の疑問に何故か嬉しそうな笑みを浮かべた。
「俺の楽しさをわかって欲しいからだ」
「・・・社長の楽しさ、ですか」
「仲間の思いを背負って挑む。勝てた時の楽しさは何ともいえねェモンがあるのさ」
・・・・すごいなあこの人は。
「風邪治ったら私も体験したいです」
「ああ、アコならわかってくれるだろう」
・・・したかったなぁ、今日。
「ところでアコ」
「あ、はい」
「アイス好きか?」
「好き、です」
「そうか。好きな味は?」
「・・・・バニラ、です」
「俺もだ」
にィ、と笑った社長は私の目の前に、
「ほら、口開けろ」
・・・・・ダッツ(高級アイス)のバニラ味を突き出した。
「ええええ!?」
「買ったばっかだと固くてな。いい頃合いだ」
「じじじじ自分で・・・・っ」
「いいから、ほら」
まさかの高級アイスに、社長からのあーん・・・!!
恐る恐る口を開けたら、
そっと丁寧に口の中にアイスが運ばれた。
口の中でじんわりと融けていくアイスの甘さ、冷たさが気持ちいい。
・・・・ていうか美味しい。
「美味いか?」
「はい、とても」
「じゃ俺も」
「は・・・・・っ」
社長は私の口に入れたスプーンでそのままダッツを掬い自分の口に入れた。
かかかか間接キス!じゃなくて!
「風邪が菌がウィルスが!!!」
「もっと甘えて欲しいんだがな・・・」
「これ以上社長に甘える訳にはっ」
「恋人なら素直に甘えてくれるか?」
「・・・・・・・・・・こ」
こい、びと?
「アコ」
「しゃっ」
驚きで開いた唇は社長の唇で一瞬だけど確かに塞がれた。
「セクハラで訴えられちまうな」
なんて社長は困ったように笑って、
優しい目で、
優しい手で、
優しく髪を撫でてくれた。
・・・・・恋人、だったら。
そんな言葉が頭をぐるぐると回る。
「辛そうだな・・・寝た方がいい」
「あ・・・はい」
「寝付くまで側に居るから」
「そっそんな・・・・!」
「安心して寝ればいい」
「社長、仕事・・・っ」
「シャンクス」
「・・・・え」
「1度でいい、呼んでくれると嬉しい」
「・・・・・シャンクス」
ゆっくりと名前を呼んだら嬉しそうに微笑んで、
それから横たわった私の手をそっと握ってくれた。
「おやすみ、アコ」
「・・・・・おやすみ、なさい」
・・・・・寝れないかもだけど。
後日風邪が治って改めてプレゼンした私。
結果は見事採用で、
でも同時に、
「俺は俺自身をプレゼンしたいんだが」
と社長が名乗り出て。
資料と言う名のラブレターが渡された。
・・・・・それも勿論、採用です。