短編②
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子供というのは、えてして残酷だ。
例えそれが、
小さい頃の自分だとしても、だ。
『あたし達ずっと友達だよね!』
『当たり前だろ?友達だ、ずっと』
エースとそう約束したのは何歳の頃だったか。
私にとってエースは本当に大切な友達だった。
ずっと。
今はもう友達じゃない。
エースは、
私の好きな人になった。
「はあああああ」
「でっけェため息だな」
隣を歩くエースの呆れ顔をちらりと見て、
もう1回ため息。
「はあ・・・・・」
「悩み事かアコ?相談乗るぜ?」
悩みっちゃ悩みだけど。
「・・・・・・・・・や、いい」
「何だよ、仲間に隠し事か」
・・・・・・・・・・だからだよ。
エースにとって私は友達で仲間。
だから好きだよ、なんて言えない。
「エース今日本持ってきた?」
「本?」
「今日返してくれるって約束だったよね?」
「そうだったか?」
エースは知らん顔で呟く。
「もう、こないだもそうだったじゃん。今日こそって約束でしょ?」
そう、エースはこの間も持ってくると言って、私が貸した本を持ってこなかった。
だから今日は、という約束。
だからこそ今私はエースと一緒に大学に向かってる訳で。
「悪ィ忘れてた」
平然と言ってのけるエースに反省の色はない。
「来週の約束は忘れないでよ?」
「来週?」
・・・・・・・・・・ほんっとにもう。
「皆でバーベキュー」
「・・・・ああ、そうだったな」
答えるエースの異変に気づいた。
何か、落ち込んでる?
「エース?」
「ん?」
「エースこそ何か悩んでるんじゃないの?変だよ?」
何処か遠くを見てるようなエースに声をかけるけど、
やっぱりエースはそのままで、
「・・・・・いや、別に」
とだけ答える。
「でも、」
「何でもねェよ。本当だ」
「・・・・・・・そっか」
そんなにあからさまに変なのに。
話せないの?
私達友達ですらなくなったの?
なんてちょっと傷ついた。
今までなら、さっきのエースと同じようにきっと言ってた。
友達なんだから話してよ!って。
でも今は深く突っこめない。
嫌われるのが、怖くて。
友達ですらなくなるのが怖い。
そのまま無言で歩く私達は周りからどう見えてるんだろう。
別に喧嘩した訳でもないのに何だか気まずい空気。
てくてくとただ歩く中、先に口を開いたのはエースだった。
「・・・・・・・・俺さ」
「ん」
「約束、守れねェかも」
・・・って急にそんなこと言われても。
「・・・・本のこと?そんなに欲しいならあげるよ仕方ないなー」
アレお気に入りだったけど、エースが欲しいっていうならもう1回自分で買う。
まだ本屋にあるはずだし、最悪ネットで取り寄せ「違ェよ」
考える私の耳に入ってきた短い否定。
「・・・・じゃあバーベキューのこと?何か予定あるの?」
「ねェ」
「忘れそうなら私前日と当日でメールしよっか?何なら迎えに行くけど」
仲間と騒ぐのが大好きなエースからは考えられない言葉に、私は何とか力になろうと声を絞り出す。
でも何だかすごく、胸がざわつく。
エースの言葉にも、真剣な顔にも。
「・・・お前は俺のおふくろかっての」
不機嫌そうにそう呟いたエースに何とか空気を変えようと、
「こらエース!起きなさーい!宿題は!?」
わざとらしく、お母さんぽい台詞を言ってみた。
でもエースはそんな私に舌打ち。
・・・・・これは結構本気で怒ってる、かもしれない。
「・・・・・・・・エース、怒った?」
「予定はねェけど・・・・俺は行かない」
「な、んで?」
私の疑問にエースは立ち止まった。
つられて私も立ち止まる。
「俺、今日好きな奴に告るから」
「え」
「そんで来週はそいつとデート。・・・・の予定だ」
こんな時笑顔を作れるほど私は大人になれない。
「友情より恋を優先?エースひどい」
「あのな、俺だって一か八かなんだぜ?」
「エースがフられるなんてあり得ないじゃん。モテモテなんだから」
エースはそばかすの癖にモテる。昔から。
昔は可愛いーとか言って、
今はイケメン!とか言って。
でもエースはぶすっとした顔。
「全然。むしろ0パーセントだろーな」
「じゃあフられたら来たら?バーベキュー」
「無理」
「・・・・・・・何で?」
私よりその子を優先するエースなんてフられちゃえばいいと思う私は最低。
わかってるけど・・・・でも、思わずにいられない。
「元々メンバーに入ってっから。たぶんそいつは俺をフッたら行くんじゃねェかなバーベキュー」
「・・・・・・・・・来てよ、私待ってるから」
寂しい気持ちで呟いた私にエースはやっぱり、
「無理だな」
「・・・・・・っもう!さっきから無理だ無理だって!何なの!?」
いい加減にして!
と怒鳴ってやった。
私の気持ちも知らないで、
「お前だって俺の気持ちも知らねェで勝手なことばっか言ってんなよ」
「何それ!?」
「俺のおふくろ気取りすんな!」
「意味わかんない!本だっていつになっても持ってきてくれないし!バーベキューだって約束、したのに!」
「行ける訳ねェだろ!?お前が待ってんのに!」
「そんなに私のこと嫌い!?ずっと友達だって約束したじゃん!」
「だから約束は守れねェって言っただろ!?」
「だから意味わかんないそれ!」
ずっと友達だって約束だけは守ってくれると思ったのに。
本も、バーベキューもどうでもいいから、
その約束だけは・・・・っ!
「だーかーらー!!俺が好きなのはアコだって言ってんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「わかったか馬鹿」
「・・・・・・・・・は・・・・・・初めて聞いた、けど」
エースが、好き?私のこと?え?何が?
「仲間での思い出作り、って言ってただろ?」
「え、何が?」
「・・・・バーベキュー」
「ああ、うん」
「だから。俺はもうお前のことは仲間なんて思ってねェからな」
「・・・・・じゃあ、恋人同士ってことならいい?」
まだ追いつかない頭で何とか会話する。
エースはすっごく驚いた顔をして、
「い・・・いいのか?」
ほんとにいいのか、と2回も聞いてきた。
「わ・・・私も好きだった、から」
でもバーベキュー行きたい。
そう言ったらエースは破顔して、
笑った。
「俺今度は約束破らねェ。ずっと好きでいる。ずっと・・・愛してる」
「恋人として?」
「馬鹿。それじゃ夫婦になれねェだろ?」
「・・・・っ」
そしてエースは私の手を取る。
「んじゃまずは、約束破る儀式しよーぜアコ」
「え?」
私の疑問を塞ぐように、
唇が重なった。
『友達』の約束を破る儀式、だ。
そして私達はもう1回、
『恋人』としての約束のキスを、
した。