短編②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
疲れた。
すごーく疲れた。
もう帰りたい、って今日何度思っただろう。
窓の外はもう真っ暗。
残ってるのは、
私とシャンクス先輩と、
新人君の3人。
私達は残業真っ最中だ。
「じゃあ俺はそろそろ帰るけど、大丈夫かお前ら」
「シャンクス先輩帰っちゃうんですかぁっ!?」
言いながらシャンクス先輩が帰り支度を始めたので私は驚きの声をあげた。
先輩はそんな私にクッ、と笑った。
「何だアコ、そんな声出して。そんなに俺が居ないと寂しいか?」
く・・・!!
悔しい程余裕の笑みを浮かべた先輩に、
「寂しいですよ!」
思い切り気持ちをぶつけた。
先輩は意外そうな顔を私に向けて、
「何だ、珍しいなお前がそんなこと言うなんて」
ああ、駄目だ。
先輩だって大変なのに余計な迷惑かけちゃ。
「・・・・・・すみません、ちょっと疲れただけです。お疲れ様でした」
「・・・・ああ、お疲れ」
それから暫くして、
新人君も帰らせた。
もう夜の10時だ。
・・・・・・・ここんとこ最近ずっとそう。
残業しないと間に合わない。
シャンクス先輩は前から先輩だったけど、
私は新入社員から2年目になり、
後輩が出来た。
私も先輩、と呼ばれるようになった。
でも私だってまだ2年目。
すべてがわかる訳じゃない。
なのに割と責任ある役職に抜擢されて、この有様。
最近残業残業で、暗い夜道を1人で帰る。
そんな日が続いてる。
・・・・・・参っちゃうなあ。
よし、今日はちょっと高いけどダッツアイス買おう。
そんで今度の休みに食べよ。絶対。
「はあああ・・・・・」
深いため息を吐いて、パソコンを切った。
これで終わり!
来週使う取引先との書類は明日出す!
もう帰る!
荷物をまとめて、ふと目の前にあった鏡を見た。
・・・・・・・・髪、ぼさぼさ。
あ、目の下隈出来てる。
もう1回ため息を吐いて、
部屋を出た。
「あれ」
「終わったか?」
「シャンクス先輩?」
そこには何故か、帰ったはずのシャンクス先輩の姿。
「他の男に見えるか?」
「や・・・・だってもう帰ったものだと」
「あんな顔してる後輩を置いて帰る訳にはいかんだろう」
それから先輩は、ほら、と言って缶コーヒーをくれた。
「あ・・・・有り難う御座いますぅぅ!!!」
やばい、さっきとは違う意味で泣きそう。
「お疲れさん。大丈夫か?」
「だい・・・・・じょうぶじゃないです」
「最近頑張り過ぎだな。いつもこの時間だろ?」
「間に合わないんです・・・!」
もらった缶コーヒーを飲み干して、
「はあ・・・・・」
深いため息。
嫌なものを吐き出すように。
「でっかいため息だな。朝も吐いてなかったか?」
「ため息に始まりため息に終わるんです」
「そりゃまた、大変だな」
そう言って苦笑する先輩と会社を出て、
駅まで歩く。
「飯でも行かないかアコ?奢るぞ」
奢りにはときめくけど、
「・・・・・・・今日は帰りたいです」
そんな素敵な言葉にも負けちゃう程疲れてる。
「・・・・・そうか、悪かったな」
「いえ、有り難う御座います」
先輩には申し訳ないけど今日はこのままコンビニでダッツ買って帰らせてもらう。
いつまでこんなのが続くんだろう、とやっぱりため息が洩れそうになった時、
「じゃあ今度の日曜はどうだ?」
先輩が未来の話をし出した。
「日曜、ですか?」
「休めそうか?」
「・・・・・・・・たぶん」
日曜なんて先のことわからないけど。
でも言えるのは、
「休みたい・・・・です」
俯いた私の頭に、ぽん、と乗せられた。
大きな手。
「ああ、休めばいい」
「・・・・・・・・・休め、ますかね」
それからぐしゃぐしゃと髪を撫でられた。
「うわっ、もう先輩!ただでさえ髪ぼさぼさなんだからやめて下さいよっ」
2人で電車に乗り込んで。
ガタンゴトン、と電車に揺られながら話す。
「気にするな、元々すごかったから」
なんて笑う先輩に、
少しだけ疲れも癒された。
・・・・・・最近ずっと1人で帰ってたから。
誰かとこんな風に帰れるだけで、
こんなにも嬉しい。
「んで、日曜は休め。俺とデートな」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
今先輩何か言いました?
「好きなとこ連れてってやるし、好きなモン何でも奢ってやるから」
「え、でも」
「何か問題あるか?」
えーと、えーと、
「とりあえず来週使う取引先の書類がまだ全然」
「ああ、それならもう終わらせた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「他には?」
「会議で使う、資料・・・・」
「やっといた」
「・・・・・・・・・・え!?」
平然と話し続ける先輩に私の頭はパニック状態。
「残業はしたが自分の仕事は終わってたんでな。今日の残業で全部やっといたが」
「きょ・・・今日の残業って、もしかして」
「それだけじゃないがな。このままじゃあいつと2人で残業になるだろうと思ったんだ」
「・・・・・・新人君?」
「好きな女と他の男が2人で残業っつーのはちっとな」
「・・・・・・・はへ?」
あれおかしいな幻聴が聞こえる!
とか言ってる間に私の最寄り駅。
「あ、先輩私ここなんで!」
「家まで送っていこう」
「いえいえそこまで・・・・って」
はた、と気がついた。
「先輩の家・・・・・ってどちらなんですか?」
「向かいの3番線に乗って7つ目だ」
「そっ・・・・!!それって思いっきり反対!」
電車のドアが開いて一緒に降りて。
「家は駅から遠いのか?」
「・・・・自転車で10分」
「まあまあだな。気をつけて帰れよ」
「あ・・・有り難う御座いまし、た?」
それからすぐに向かいに来た電車に乗り込んだ先輩を見送って、
私はしばらくホームに立ち尽くした。
次の日渡された資料に混じっていた、
デートの詳細メモ。
・・・・お仕事、頑張りますか。