短編②
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グランドラインは、不思議な海。
それはわかってたけど。
まさか、こんな。
・・・・・・こんなことって。
今私の目の前に居るのは誰なんだろう。
私はただ、エースと一緒におやつが食べたかっただけなのに。
30分前。
夕飯の下ごしらえを終えた私は、
サッチさんからおやつをもらった。
「サッチさん特製のおやつ、エースに食わせてみ?」
とか言われて。
・・・エースに?
私は食べちゃ駄目なの?と疑問に思いつつ、
美味しそうなポテトチップスだったから私も食べちゃおう、と思って。
「エースー」
部屋に行ったらエースが居たので、
「おーアコ。美味そうな匂いだな」
「サッチさん特製のおやつだって。一緒に食べよ?」
「なんだ、サッチのか」
「何だ、って。サッチさんの作るお菓子美味しいよ?」
エースは少し肩を落としたので首を傾げたら、
「サッチのも美味ェけど、俺はアコが作ったやつがいい」
・・・なんて、思いっきり笑顔で思いっきり嬉しいことを言ってくれた。
「有難う、エース」
お礼を言いながらポテトチップスを齧った。
あ、美味しい。
「これも美味しいよエース」
「ん、美味ェ。でもこの間アコが作ってくれたやつの方が美味かった」
言いながらエースも美味しそうにポテトチップスを頬張ってる。
「・・・・何だっけ」
エースには結構色んなものを作って、
部屋に持って行っては一緒に食べてるので思い出せない。
「じゃがいものやつ」
「・・・・パイユ?」
「ああ、たぶんそれだ」
そっか、エースはじゃがいものパイユが好きなのか。
覚えておこ。
「じゃあまた今度作って来るね」
「・・・まァ、アコの作るモンは全部好きだけどな」
・・・ぼそっと、幸せそうに呟いたエースの顔。
胸がきゅうっと締め付けられた。
・・・・・・・好きだな、って思う。
ふ、と気づけばエースがじっと私を見ていて。
その熱の籠った視線から私は逃れられない。
「あ・・・」
自然と顔が近づいて。
あと数センチで唇が重なる。
心臓の音しか聞こえなくなった、その瞬間。
ぽんっ、と音がして。
・・・・・気づけば目の前のエースは居なくなっていた。
代わりに私の目の前に居るのは、
・・・・いや、私の目の前にある、のは。
「・・・・・・・・・・・・う、そ」
エースのような、そうでないような。
・・・・小さい、手のひらサイズの・・・ぬいぐるみ?
エースの恰好をした、エースによく似た顔の。
私はそれをちょこんと手のひらに乗せてみた。
・・・・ぬいぐるみっていうより、
「むぎ」
「・・・・・え?」
今しゃべった!!
何かしゃべった!!!!
「ムギッ」
「むぎ・・・むぎ?むぎむぎお手玉?」
そう、今私の目の前にあるのは、
ぬいぐるみというよりお手玉、といった方がしっくりくる。
小さいけど、確かにエースの帽子。
つぶらな瞳、かすかなそばかす。
・・・・・まさか、まさか。
「・・・・・・エース、なの?」
恐る恐る問いかけた私に、
「ムギッ!ムギムギッ」
元気良くお返事が返って来た。
・・・・正直何て言ってるのかはよくわからなかったけど、
エース以外に考えられない。
「嘘でしょ・・・・エース・・・・」
「ムギ・・・・」
呆然と呟いた私に心なしかおてだまエースも悲しそう。
「ちょっ、ちょっと待ってねエース!」
どどっどうしよう!
とりあえず原因作ったサッチさん呼ぶ!?
それとも船医さん!?
えーとえーと!
「サッチさん呼んでくる!」
「ムギッ!ムギムギィッ」
「・・・・・・嫌、なの?」
必死に叫ぶおてだまエース。
ああっせめて言葉が話せたら良かったのに!
・・・・でも考えてみたら嫌だよねこんな姿サッチさんに見られるの。
「じゃ、じゃあとりあえずエースに異変が起こって心当たりないかって聞いてくる」
「ムギ」
諭した私におてだまエースは頷くように返事をした後、
俺も行く、と言わんばかりに私の腰ポケットにすぽっと入り込んだ。
「サッチさんっあのお菓子に何か入れました!?」
まだ厨房に居たサッチさん。
サッチさんは平然とした顔で、
「おー入れた入れた。何、何があった?後で見に行こうと思ってたんだけど」
「何入れたんですか!?私も食べちゃったんですけど!」
「え、アコちゃんも食べちゃったの?エースにって言ったのに」
「何を!入れたんですか!?」
「いやよくわかんねェんだけどさ。前の島で怪しいおっさんにもらった」
「何で!」
「怪しい調味料で、口に入れると面白いことが起こるんだって。何、何があったの?」
ワクワク、といった感じのサッチさんに若干イラッ。
「解決方法は!?」
「知らない」
知らないんかーい!!
「もらうだけもらって・・・大惨事になったらどうするつもりだったんですか・・・!」
っていうか既に大惨事だけど!
「エースがカエルになったとか?」
「・・・そんなとこです」
「じゃあアコちゃんがキスすれば戻るんじゃね?」
「きっ・・・・・」
キス・・・・・っ!
「見に行っちゃ駄目?」
「駄目!絶対!」
「ちぇー」
次!次は船医さん!
「船医さん!もし・・・もしもの話しですけど・・・っ人がぬいぐるみとかになったら戻せますか!?」
「何だそりゃ。そりゃ無理だろ。時間がたてば戻るか・・・あるいは」
「あるいは!?」
「異性のキスが定番じゃないか?」
「・・・・キス以外は!?」
「知らん」
「・・・・ごめんねエース役に立てなくて」
私のポケットの中ですべてを聞いていたであろうおてだまエース。
「ムギッ」
ああ、可愛い。
この可愛さは癒しだよ・・・・!
思わずおてだまエースを自分の頬にぎゅうっと押し付けた。
「可愛いよぉエース!!!」
「ムギィ・・・っ」
でもおてだまエースの悲鳴にも似た泣き声に我に返った。
「・・・そうだよね、エースは早く戻りたいよね」
・・・・・でも、その為には・・・キス。
エースと、キス。
そりゃさっきはあんな雰囲気になったけど、
恋人でもなんでもない。
・・・・私は、好きだけど。
でもエースの気持ちがわからない以上キスなんて出来ないし、
おてだまエースじゃ本当の気持ちなんてわからない。
この口じゃパイユ作ってもたぶん食べられない。
・・・エースの美味しい、が聞けないなんて。
そんなの嫌。
「・・・ごめんねエース」
何も出来なくて。
どうしよう、このまま夜になって。
宴の時にエース居なかったらきっと騒ぎになる。
でもこんな姿見られたくないだろうし。
「・・・私が、守るからねエース」
「ムギッ」
まるで大丈夫だ、と言ってくれてるようで少し嬉しかった。
私は思わずぎゅっとおてだまエースを胸に抱いた。
「む・・・ムギッ・・・」
「あ・・・く、苦しかった?」
いかにも苦しそうな声に慌てて離して、
おてだまエースを改めて見つめた。
・・・・可愛い。
でも。
「・・・・・・・早く戻って、エース」
早くいつものエースに戻って欲しい。
そして、
好きだって。・・・・伝えたい。
おてだまエースになる前のように、
見つめ合った。
勇気がなくて、ごめんねエース。
不甲斐ない私に目頭が熱くなった時。
目の前におてだまエースが飛びかかって来て。
「わ、」
驚いたのも束の間。
ぼんっ、と本日2回目の音がした。
・・・・・・・そして目の前に、
「・・・・・・えー・・・・す・・・」
いつものエースの姿が見えた。
「・・・・アコ」
エースは少し気まずさそうにしながら、
「悪ィ、した」
「した?」
「・・・・キス」
「・・・・・・・あ」
そういえばさっきの。
き・・・キスで戻ったんだ・・・・本当に。
「なかなかアコがしてくれねェから俺からした。でも謝らねェからな」
「・・・・あーうん、良かったよ戻って」
ほっとしたのは事実。
でも何だか責められているようで何処か胸が痛んだ。
「戻らなくてもした」
「へ?」
「戻らなくてもしたし・・・あんなんにならなくても、俺はしたからな」
「・・・・・・キス?」
真剣なエースに戸惑いながら聞いたら、
そっと腕を掴まれた。
ぐっと身体を引き寄せられて。
「・・・・・あのな」
「う、ん」
「忘れろ」
「な・・・何を」
「さっきまでのアレ。・・・カッコ悪いだろ」
「か・・・可愛かったよ?」
エースの顔が近い。
そばかすがよく見えて、ドキドキ。
「忘れろよ。でないと・・・言えねェだろ、好きだって」
「私は・・・どんなエースも好き、だけど」
「・・・ほんとか?」
「・・・・・好き」
「俺も、好きだ」
そして今度こそ本当に唇が重なった。
で、何でエースだけがおてだまになってしまったのかっていうと、
たぶん食べた量が多かったからだろうとのこと。
「でもよく動けたねエース。私のポッケに入ったりとか」
「気合入れたら動けた」
「・・・・すごいね」