短編②
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「エースの馬鹿」
私の呟いた声はざぁざぁ降りの雨音にかき消された。
大きいショッピングモールの、入り口で1人立ち尽くす私。
・・・・・私の手に傘はない。
天気予報で雨なんて言ってなかったはずなのに。
エースはどうしてるだろう、
もう帰ってしまっただろうか。
それとも私のことなんか忘れて買い物とか映画とか楽しんでるかもしれない。
・・・・美味しいものを1人で食べてるかもしれない。
楽しみにしてたのに、今日のショッピングデート。
些細なことで喧嘩して、
もういい、って来ちゃった。
来た時は雨なんか降ってなかったのに、
今は土砂降りの雨。
周りを見れば知っていたかのように折り畳み傘を鞄から出して出て行く人や、
友達と楽しそうに出て行く人、
恋人と1本の傘で嬉しそうに外に行く人たち。
・・・・・お腹すいたなぁ。
エースに、会いたいなぁ。
よし、もう1回戻ってエース探そう。
すんごいすんごい広いけど、頑張ろう。
そして謝ろう。
「1人?」
「え?」
涙が滲んで来た時、
知らない男の人にそう声をかけられた。
「傘ないの?俺入れてってあげよっか?駅まで?」
「あ・・・・いえ、大丈夫、です」
「遠慮しなくていいって。なぁ、行こう?」
「いえ、ほんとに」
本当は1人じゃない。
エースが居るのに。
・・・・エース、今は居ないけど。
・・・・・・・エース。
「今日もう雨やまないよ?」
「・・・いいんです、ほんとに」
「そう言わないでさぁ」
・・・しつこい、いい加減に怒鳴ってやろうかと口を開いた時、
「こいつには俺が居るんで」
さっと私の前に出てくれた、
見慣れた背中。
「・・・・エース?」
「何だ、連れが居たのか。こりゃ失礼。じゃあお嬢さん、ご縁があればまたいずれ」
エースを見た男の人はあっさりと雨の中に出て行った。
「あ・・・・・」
・・・・何だったの今の人。
っていうか、
「馬鹿」
「え・・・エース・・・・」
「1人になるからこういうことになるんだよ」
「ごめん・・・・っていうかエース何でここに」
「携帯」
「え?」
答えになってない答えに首を傾げたら、
「何回鳴らしたと思ってんだ。全然出ねェから心配したんだぜ?」
「・・・・雨の音で全然気が付かなかった・・・」
言われて慌てて携帯を確認したら、
着信26件。
「ったく・・・ここ広ェし出入り口何か所もあるしでよ」
「・・・うん、ごめん」
それでも探してくれたんだ、エースは。
そして私を、見つけてくれた。
「・・・俺も、悪かった」
「・・・・私も」
エースとのケンカの原因は、
好き嫌いが多い私のせい。
ほとんど好き嫌いがないと言っても過言ではないエースから、
「好き嫌いすんなよ」と釘を刺されて、
ついかっとなってしまった。
「嫌いなモンは簡単に好きにはなれねェよな」
「・・・ううん、頑張る」
「んじゃあ・・・仲直り、だな」
「うん、仲直り」
握手したところで、
ぐぅぅぅ・・・・と私のお腹から空気の読めない音。
・・・・恥ずかしい。
「・・・腹、減ったな」
「お昼ご飯まだだったもんね」
「飯食いに行くか」
「ラーメン食べたい!」
「すぐそこに美味いラーメン屋があるんだ、行こうぜ」
「あ、でも傘ない。・・・エースもないよね」
「あるぜ?」
「あるの!?」
「さっき買った」
「・・・・さっき?何処で?」
「この中の100円均一」
・・・・そっその手があったか。
そうだよね、ここはショッピングモール。
ここで傘買えば良かった。
・・・でも、買わなくて良かった。
ここに居て、
エースが見つけてくれたから。
「ほら、入れよ」
エースが傘を広げる。
「1本?」
「1本で十分だろ?・・・・来ねェのかよ」
「お邪魔します!」
傘に当たる雨音も、
少し濡れる肩も、
もう気にならない。
その日2人で食べたラーメンはとても美味しかった。