「・・・一応私引き留めるように言われてるんですけど」

「長くなりゃしねェよい」

「・・・・うーん、いいんですかね私」

サッチさんの部屋に行かせないように引き留めることがサッチさんへのお詫び、ってことになってるんだけど。

「文句は言わせねェよい」

「・・・・誰に？」

その顔があまりにも怖かったので、

思わず聞いてみた。

「調子に乗ってるフランスパンだよい」

あ、もうこれ止めても駄目なやつだ。

サッチさんごめんなさい。

「・・・・行ってらっしゃーい」






「どういうつもりか聞かせてもらうよい、サッチ」

「・・・・アコちゃーん引き留めてって言ったのに・・・・」

「無駄だよい」

「・・・・怒ってる？」

「怒ってないと思うかい？」

正直言えばそこまで怒っちゃいねェ、が。

サッチの言動に気になるものがあるのは確かだ。

不可解、とも言う。

「あー・・・・アレだろ？アコちゃんの腹見せてって言ったやつ？」

「それは１つ目だよい」

「・・・えーっと、じゃあ２つ目はあれだ、デートに誘ったことだ」

「それも不可解だ、聞かせてもらおうかい」

サッチは目を泳がせて、

恐らく言い訳を考えている。

「・・・・いや、その、あれよ」

「正直に言わねェなら・・・・」

「ひぃ・・・っやめて言うから！！」

アコでさえあの時何らかの違和感には気づいていた。

俺が気付かないはずがねェ。

「俺を挑発してただろい？」

「・・・・アコちゃんが可哀想だと思って」

「アコが・・・可哀想？」

「お前アコちゃんのこと真剣に考えてないだろ？」

「・・・・何が言いてェ」

「ずっとこっちに居てくれ、って言えばいいだろ？」

・・・・アコがこっちにきてからもう何度も話題になったことだ。

「何度も言ってるだろい？アコはこっちの世界の人間じゃねェ」

「でもアコちゃんはお前の側に居たい、しかも本気。わかるだろ？」

サッチの言いたいこともわかる、が。

「俺が・・・アコの幸せを奪う訳にはいかねェんだよい」

「・・・・アコちゃんの幸せならアコちゃんに聞いてみなって」

「俺は怖ェんだ、サッチ」

「怖い？何がよ」

今は笑って隣にいてくれたとしても。

それがこの先永遠とは限らない。

「・・・元の世界に帰りたいと、アコが言うことがだよい」

・・・・アコの口からそんな言葉を聞きたくねェんだよい、俺は。

とんだ臆病者だ。

「・・・やっぱわかってないのなーマルコは」

「・・・はっきり言えよい」

「言わないと思うぜ、アコちゃんは」

「言い切れるのかい？」

「アコちゃんはマルコが好きだよ、何があってもな」

サッチの勝ち誇ったかのような笑みに軽く戸惑う。

・・・・俺が１番アコを見ている、と思っていた。

・・・・１番見てなかったのは俺、だったのかもしれねェよい。







「あ、おかえりなさいー」

マルコさんが帰って来た。

でもスッキリとした様子でも、

憤慨した様子もない。

・・・・酔っぱらってもいない。

・・・・何話してきたんだろう。

そういえば、マルコさんとサッチさんて。

仲良さそうだけど・・・なんか不思議な空気出す時あるんだよね。

２人には２人にしかわからないものがあるんだろうな。

・・・羨ましい。

「まだ起きてるのかい？」

「早く寝ます！睡眠不足は乙女の敵！」

ダイエットの敵！でもある。

「マルコさんはまだ起きてます？」

「・・・・そう、だねい」

「・・・・・マルコさん？」

何だか元気がないような。

「もうちっと起きてるよい」

「・・・・・サッチさんと喧嘩したんですか？」

「喧嘩・・・・ならしてねェ」

喧嘩ならしてない？

「・・・・じゃあマルコさんがふて腐れた？」

口にした瞬間じろりと睨まれた。

「あ。ビンゴだ」

「・・・・一応睨みきかせてるってのによい」

「怖くないですもん」

マルコさんだから。

「可愛くないねい」

「・・・・・・・・・・・・はぅ」

可愛くない・・・・可愛くない・・・・マルコさんの言葉が頭の中で反芻される。

ショックを受けた私の額に軽いデコピンが喰らわせられた。

「・・・・ダブルパンチ」

「可愛いよい」

「え」

「そんな阿呆なこと気にするアコは可愛い、って言ってんだい、自信もて」

・・・・阿呆と言われようとなんだろうと。

好きな人に可愛いと言われれば。

「マルコさん一緒に寝ましょうっ」

「却下。調子に乗るない」

「・・・・ぶー」



・・・・・調子にも乗るってもんです。


























　　　　　　　　　　　　＋好きな人に　終＋