鏡花水月、のように
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「・・・・・・・・げほ」
やば、咳も出て来た。
「・・・飯、持ってきたよい」
「わーい有難う御座います!!」
味覚異常の理由が風邪だと判明したものの、
マルコさんの作るものだけは美味しいと感じるので。
マルコさんが作って来てくれたお粥でお食事。
「味の保証はしねェよい」
「マルコさんなら大丈夫です!」
「・・・・ったく」
「・・・・あーん、とか」
「甘えんない!!」
して欲しいなーって言ったら怒られた。
「病人なのにー」
「・・・・・自分で食えるだろい」
苦々しい顔のマルコさんを見て思わず苦笑した。
「食べられますよ、そこまでご迷惑はおかけしません。いただきまーす」
そうだよね、ただでさえ面倒見てもらってる上にベッドまで借りて、
更に我が儘いってお粥まで作ってきてもらったんだもん。
・・・・何より今、マルコさんが側に居てくれる。
それだけで、幸せだ。
湯気の出る熱そうなお粥を掬って口に運ぼうとした瞬間、
「あ」
・・・・レンゲを取られた。
「マルコさんひどっ・・・・・・・・・・・・い?」
・・・・・抗議の言葉は途中で止まった。
私からレンゲを奪い取ったマルコさんは、
とても不本意そうな顔で、
それでもそのレンゲを私の前に突き出して来た。
「誰がやったところで味は変わらねェだろうよい」
「変わりますよ!マルコさんからのが、むがっ」
最後無理やり口に突っ込まれた。
「あづっ、あふ、っ、・・・・・っ!!」
「随分美味そうに食ってくれるねい」
お粥は想像通り熱々。
冷ましもしないで突っ込むんだもんー!!
なのにマルコさんはニヤニヤ。
優しくない!!
「ああっでも美味しい!!」
さすがマルコさん!!
「食ったら薬飲めよい」
ちらりと覗く粉薬っぽいもの。
「・・・・・・苦いです?」
「甘くはねェよい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワタシゲンキナリマシタ」
「ならこれは没収だい」
「ぎゃー嘘嘘!!ごめんなさい飲みますぅぅ!!」
慌てて御粥のお椀を掴めばマルコさんがくつくつと笑った。
「ガキじゃあるめェしよい」
「子供じゃなくたって苦いのは嫌なんですぅ」
「飲めよい」
「うーん・・・・・あっお酒と一緒に飲みます!」
勢い良く答えた瞬間ごつんと頭に拳が当てられた。
「・・・・・マルコさん病人にも容赦ないですね。こほっ」
「馬鹿なこと言ってるからだろい。病人に酒なんざ飲ませねぇよい」
「えー」
「ましてや薬と一緒に、なんざ絶対させねェ」
「でもほら、酒は百薬の長って」
「薬の効果をアルコールが消すとは考えねェのかい」
「・・・・・おう」
そんなこともあるかもしれない。
言われて初めて気が付いた。
「・・・・・まさかアコ、今まで酒で薬を飲んでたのかい?」
怖い顔のマルコさんがぐぐっと近づいて来たので思いっきり首を横に振った。
「みみみ水で飲んでましたよぅ!・・・・・たぶん、はい」
「・・・・俺が居る限り酒で薬は飲ませねェ」
「・・・・あい」
「薬も飲むところをしっかり見届けるからねい」
「・・・・・飲みますよ、ちゃんと」
「・・・・ならいいよい」
納得してくれたマルコさんはお粥をしっかり食べさせてくれて、
恥ずかしくも幸せな味。
「ごちそーさまでした・・・・ごほっ」
「・・・・飲むと言ったねい?」
「・・・・飲みますって」
仕方なく薬を受け取って、
覚悟を決めて薬を口に入れて水で飲みほした。
瞬間。
「ふぐぁぁ・・・・・にがぁぁぁっ!!まずっ!!」
強烈な苦みと不味さが喉に張り付く。
「・・・そんなに苦いのかい」
「まっ、マルコさんまさか私に毒を・・・っ」
「んな回りくどいマネしなくてもやれるよい」
「ですよね!でもこれホント殺人的な不味さですわ・・・」
あまりの不味さに泣きそうだよ大人だけど!
「・・・・一応言っておくと、よい」
「はい?」
「治るまで食後のこの薬だよい」
・・・・・絶望的な言葉を聞きました。
「・・・・マジですか」
「口移しでもしてやろうかい?」
こんな時に限ってマルコさんがそんなこと言うから、
「駄目ですよ!」
必死に拒否。
「・・・・へェ、駄目、ねぇ」
「マルコさんに風邪移っちゃうじゃないですか」
「そんなんで移る程ヤワじゃねェよい」
「でも駄目ですっ」
万が一ってこともあるし。
「・・・馬鹿だねい、アコは。食って飲んだら寝てりゃ治るよい」
マルコさんは何処か呆れたような笑みを浮かべながら優しく私をベッドに横たわらせてくれた。
「うぅ・・・食べて寝たら豚になるぅ」
「美味しく調理してやるよい」
「・・・・それなら本望ですハイ」
「阿呆なこと言ってねェでさっさと寝ろよい」
「はーい。・・・・マルコさんお仕事は?」
ふと疑問に思って尋ねれば、
「ここでやるよい。気が散るってんなら出て行くが」
あったかい言葉。
「・・・・ここに、いて下さい」
「・・・そうするよい」
目を閉じてすぐに紙をめくる音が聞こえ出した。
「・・・・マルコさん」
「気になるかい?」
「マルコさん、マルコさん」
「・・・・何だよい」
「・・・・えへへ、マルコさん」
「・・・・・アコ。喧嘩売ってんなら買うよい」
あ、怒った。
でも今はそれすらも嬉しい。
「・・・マルコさんが居なくなってすぐ、私高熱出て倒れたんですよ、会社で」
「・・・ちゃんと休んだのかい?」
「先輩に強制退社させられました。でも家に帰っても1人だから」
寂しかった。
「1人布団に寝ながらマルコさんマルコさんて呼んでたんです。来てくれなかったけど」
「・・・・悪かったよい」
「あははっ、いいんです。来てくれないのわかってて呼んでましたから。毎日」
・・・・毎日、マルコさんマルコさんと。
名前を呼んだ。
来てくれないのがわかってたから。
呼んできてくれるんだったら毎日呼んだら怒られちゃうし。
「・・・アコ」
名前を呼ばない日はなかった。
返事がないことがわかってても。
だから今は。
「だから今は・・・返事してくれるだけで嬉しくて」
「返事くらいいつでもしてやるよい。だから今は寝てろよい」
「・・・・はーい」
「あの薬飲まされたくねェだろい?」
「絶対飲みたくないです」
「・・・・なら寝てろい」
「・・・・・は、い・・・」
おやすみなさい。
そう言ったら優しい手が私の髪を撫でて。
それを合図に私の意識は完全に途切れた。
+マルコさん 終+