いつかまた
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「これが電話です。この世界はこれで連絡をとります」
「・・・・・・・これで、ねい」
電話、と呼ぶ機械。
「ここに数字ありますよね?これ順番に押してくと繋がりますから。あ、これ私の番号です」
何かあったらいつでもかけて下さいね、と言いながら心配そうに俺を見つめる女に、
過保護か。
とツッコミたくなる。
「大丈夫だよい」
「これから音が鳴ったら、ここをとって、ここで話してください」
「ああ、わかったよい」
細かく説明を聞くのは面倒だが、
一生懸命話すアコを無碍には出来なかった。
・・・世話になってるのは、事実だ。
「明日は仕事に行かないといけないので・・・・心配、ですけど」
「サボんなよい」
「行きますよう。あ、お昼はパンとおにぎり買ってありますから!」
「・・・・ああ」
「お茶は冷蔵庫に入ってますからね!あ、さすがに昼からお酒は控えた方がいいって言っておきます」
「わかってるよい」
口やかましいのに、
嫌じゃねェ。
「火はなるべく使わないで下さいねー。あ、本置いておきますけど字読めそうですか?」
「読めそうだよい」
「良かった。あとは、えーっと」
「・・・・アコ」
「はい?」
「もう寝た方がいいんじゃねえのかい?」
「あ。・・・・・そう、ですね」
俺に言われてハッとなったアコは、
この過保護っぷりを明日も発揮することになる。
「この世界は危険じゃねェのかい?」
「毎日のことですから、大丈夫ですよー」
「送って行く必要は・・・なさそうだねい」
「必要があったら遠慮なく甘えるんで、その時によろしく御願いしますー」
朝、のんびりと飯を食いながらアコは言う。
・・・確かに、海賊も居ねェなら危険でもないのだろう。
それから慌ただしく玄関に向かい、
「じゃあ、行ってきますね・・・・?」
泣きそうな顔で言う。
「大丈夫だって言ってるだろい?」
モビーでは心配されることはほとんどねェから、
最初こそ新鮮だったものの、
今は困惑している。
「お腹すいたら冷蔵庫とか戸棚にあるの食べていいですからね!」
「ああ、そうさせてもらうよい」
「誰か来ても開けなくていいですから、ちゃんと鍵かけておいて下さいね」
「わかってるよい」
「暇だったら本は好きに読んで下さい、テレビ見方わかります?」
「・・・・・アコ」
「はい?」
「時間、大丈夫なのかい?」
「・・・・・・・・・・・・行ってきます」
「・・・・よい」
ここまで来たら笑いすらこみ上げてきた。
・・・・・・・それでも、悪い気はしない。
「時間見て電話しますね。・・・・じゃあ、ほんとに行ってきます!」
最後に苦しそうな笑顔を見せて、
ばたん、とドアが閉まった。
・・・ったく、やっと静かになった。
騒がしいのには慣れてはいるが、
静寂の方がいいと、思っていた。
そう安堵したのも、一瞬。
俺はこんなことをしてる場合じゃねェんだ、と焦りが出てくる。
モビーに居たはずなのに、
部屋に入ったら突然知らない世界、だ。
冗談じゃねェ。
・・・・早く、戻らねェと。
アコが用意した本は、
せっかくだが読む気はしない。
テレビとかいう映像機器も。
・・・とはいえ、簡単に帰れそうにはないのが現実だ。
他の海賊も海軍も居ないのがせめてもの救い、ってやつかねい。
・・・・それと、アコ。
初めて会った時は妙な女だと思ったが、
実際食い物も寝るとこもあるのは助かっている。
・・・・簡単に男を住まわして、
平気な顔して。
あんな、顔して。
ひとッ飛びしてこの辺見て回りてェとこだが、
この世界でそんなことをしたら目立つことは予想出来た。
世話になってる以上、アコに迷惑をかける訳にはいかない。
さてどうしたもんか、と悩んで結局アコが用意した本に目を留めて、
「・・・・・・・・・アイツ」
馬鹿な奴だよい、と呟いた。
そこに詰まれていたのは、
『全世界の海写真集』
『海賊の世界』
『あなたの知らない世界へ行く方法』
など。
・・・・全部俺の為って訳かい。
海に行った帰りになんか買ってるとは思ってたが。
呆れた御人好しだ。
これで帰る方法がわかるとは思わないが、
暇つぶしにはなるか。
知らない世界の海を見るのも悪くない。
そうして本を読みふけっているうちに、
時間は過ぎた。
・・・・・・そろそろ昼か。
いつもならサッチの作った飯、だが。
今日はこんびに、とやらが作った握り飯。
・・・・・・あいつら、今頃何してんのかねい。
ある意味で心配ではある。
大事な、家族だ。
そして同時に思い浮かぶ、今ここに居ない、
この家の主。
ちら、と目にやったデンワバンゴウのメモ。
・・・・・・・仕事の邪魔する訳にはいかねえよい。
思った瞬間、
機械から音が鳴った。
・・・・確か、これをとりゃいいんだったな。
「これで、いいのかい」
『あ、マルコさん。大丈夫ですーちゃんと通じてますよ、良かった』
「仕事はちゃんとしてんのかい?」
『してますって。今お昼休憩ですー。マルコさんご飯食べました?』
「適当にやってるよい」
『あ、あと今日帰りちょっと遅くなるかもしれないです』
「・・・迎えに行く、よい」
『え、でも』
「することもねェんだ、それくらいさせろい」
『・・・・・じゃあ、駅着く前に電話します』
「わかったよい」
通話はそこで切れて、
軽くため息が出た。
・・・・・・遅くなるなんて聞いてねえよい。
んじゃまあ、とりあえず。
部屋の片付けでも、するかねい。
アコから連絡があったのはそれから2時間後。
『もうすぐ駅着きますー』
女1人で出歩く時間じゃねえだろうに、よい。
駅まで行ったら、
袋をたくさん持ったアコが居た。
「あ、マルコさーん!」
「・・・・・・・・サボったのかい?」
思わずそう聞いていた。
「心外です!ちゃんと仕事しました!終わった後買い物行ったんですー」
「ならいいけどよい」
少し怒ったようなアコから荷物を奪うと、
「おぉぅ!いいですよー持てますって」
必死に取り返そうと手を伸ばしてきた。
それをするりとかわして、
「大人しくしてろよい」
俺よりだいぶ背の低いアコの頭をぽんぽん、と軽く叩いてやった。
「な・・・・!頭!やめて下さいよぅ!背が高いからって・・・背が高いからってー!!」
わー!!と叫ぶアコは、ガキにしか見えない。
・・・少し、エースに似てるかもしれねェな、と思った。
「で、何買ったんだいこんなに」
「えっとーマルコさんの服とー下着類とー色々です!全部マルコさんの!」
「・・・・・・・俺の?」
「ずっと同じ服って訳にもいかないですし。あった方が便利かなあって」
「・・・・金はねえ、よい」
「仮にも働いてる身ですから!大丈夫です!」
にこにこと嬉しそうに話すのんきさが、
・・・・・俺にも移っちまったみてェだよい。
変な、女だ。
「・・・・・ありがと、よい」
「あとで着てみて下さいねー!」
「・・・・・・よい」
世話になったり、
世話が焼けたり。
+のんきな保護者 終+