鏡花水月、のように
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一瞬鏡にぶつかったら大怪我で血まみれになっちゃうんじゃないの私、なんて思ったりもしたけど。
手がすり抜けてるくらいだし平気か、という考えに落ち着いた。
・・・・と、落ち着いてる場合もなく私は鏡を、
すり抜けた。
強い力に引っ張られて、
すぽんと収まった、その先には。
「・・・・・やっちまったよい」
「・・・・・・・・・・・ま」
酷く驚いた顔の、
マルコさんが居た。
ああ、鏡で見た幻と同じだ。
・・・・あれ、ってかこれ幻?
思わずぎゅうっと抱き着いてみた。
マルコさんはそのまま優しく抱きしめ返してくれた。
・・・・・マルコさんが優しい。
ああやっぱりこれは幻なんだ。
実際のマルコさんなら逃げそうだもんね。
「はあ・・・・マルコさん」
「何だい」
「・・・・・・・あれ」
おかしいぞ幻覚は返事をしない。
・・・・・というかそもそも幻覚って感覚あるもん?
いやいやないから幻覚なんじゃなかった?
・・・・・あれれ。
「少し痩せたんじゃねェのかい?」
「え」
「ちゃんと食ってたのかよい」
「え、っと」
「少しは出来る料理も増えたんだろうねい」
「・・・・・・・う、そ」
「・・・・腕、痛くないかい」
気まずさそうに笑って、
私の頭をぐしゃぐしゃにした。
・・・パイナップル頭の。
本物の、
「・・・・・・マルコさん?」
「今まで何だと思って抱き着いてたんだよい」
「だっだって幻覚かと思っ・・・・・ええええ!?」
本物のマルコさん・・・・・!!
今更ながらめっちゃ驚いてる。
「驚くのが遅ェよい」
「・・・・・手、伸びてきて」
「ああ、俺が伸ばした」
「・・・・引っ張られて」
「俺が引っ張ったんだよい」
「・・・・マルコさんて」
「・・・・何だい」
「・・・・・腕も伸びるんですか?」
「ンな訳あるかい!ゴムゴムの実なんか食ってねェってんだい」
「ゴムゴムの実!?そんなのあるんですか!へー!!」
「・・・・相変わらずだねい、アコ」
「マルコ、さんも。・・・・・・お元気、そうで・・・・」
呆然とマルコさんを見つめた。
・・・・夢じゃない。
今ここに、私の目の前に本物のマルコさんが居る。
信じられない。
・・・・信じ、られない。
「・・・・・・っまるこしゃぁぁん・・・・!!」
「・・・・だから泣くのが遅いんだよい」
マルコさんと会えた。
その実感が本当に今更湧いてきて、涙が溢れた。
「だって・・・・だっ、て私ずっと会いたくて・・・!!」
「・・・・あァ」
「仕事も頑張ってたのに降格確定だし・・・!!」
「何かやらかしたのかい?」
「ラインのID教えられなかっただけなのにー!!ドライブ断っただけなのにー!!」
「こっちじゃそんなことは関係ねェ。気にすんなよい」
久しぶりのマルコさんの慰めは心に染みる。
ああ、懐かしいなぁ。
「・・・マルコさん無事に本当に居場所に戻れてたんですね・・・良かった」
「ここがモビーだよい」
「は!ここがあの・・・船?」
「俺の部屋だよい」
「・・・・マルコさんの、部屋」
・・・・・・・綺麗にしてるわ。
私の部屋とは大違い、さすがマルコさん。
「・・・・ところでよい」
「あ、はい」
「思わず引っ張っちまったんだが」
「そうですね、引っ張られました」
ごつん、と音がした。
「・・・・見ての通りだよい」
・・・・マルコさんの拳が、鏡に当たった音だ。
「じゃああの時すり抜けたのは奇跡だったんですね!すごーい!!」
「・・・・・感動してる場合じゃねェだろい?」
「え、何がですか?」
久しぶりのマルコさんの呆れ顔。
「通らねェってことは帰れねェってことだい」
あ、そっか。
私鏡通ってきたんだもんね。
通れなかったらそりゃ帰れないわ。
「あーなるほど。・・・・・・・なるほど」
「事の重大さを理解出来たかい?」
「今思いっきりいったら絶対顔面血まみれになるなってのは理解しました!」
来る時はならなかったけど。
元気良く答えてみたらマルコさんが深い深いため息。
・・・・そんなことにすらいちいち嬉しく思えてしまうのは馬鹿だろうか。
「帰れねェんだよい?」
「みたいですね」
「・・・・・ここは海賊の世界だよい」
「そう、でしょうね」
マルコさん海賊らしいし。
「・・・アコ」
真面目な顔でマルコさんが私をじっと見つめる。
「・・・駄目ですか?」
「・・・何がだい」
「今はただマルコさんと会えたこと馬鹿みたいに喜んでちゃ駄目・・・・ですか?」
だってこんなに嬉しいのに。
ずっと会いたくて会いたくて、
でも諦めてたから。
「・・・・アコ」
「だってマルコさん呼んだら飛んで会いに来るって言ったのに全然来てくれないし」
「・・・・悪かったよい」
「・・・だから今は、まだ喜んでてもいいですか?」
どんな顔されても。
何て言われても。
どんな状況だったにしても。
・・・・・マルコさんが引っ張って、
受け止めてくれたこと。
嬉しかったから。
「・・・・・俺だって嬉しくない訳じゃねェよい」
拗ねたような表情と、
少しだけ赤い頬が、
・・・・やっぱり好きだなぁとしみじみ思った。
+夢幻と心得 終+