いつかまた
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ざざん、ざざん。
緩やかに、ゆっくりと。
でも確かに近づいてくる波。
何で私の家に波が。
そんな疑問と同時に、何故か頭では理解している。
きっとこの波がマルコさんへのお迎えだと。
待って、嫌。
まだ、駄目。
もう少し一緒に居たいのに。
・・・・側に、居たいのに。
「・・・・マルコ、さん」
名前を呼んでみたら、
ぎゅ、と抱きしめてくれた。
・・・・・・・・信じたくない。
これが、最後になるなんて。
でも、それでも。
笑ってマルコさんを見送りたいと思うのも事実。
突然来たように・・・突然帰っちゃうんじゃないかと思ってたから。
こんな風にお別れの心の準備が出来るなら。
さようならが、言えるなら。
「・・・アコ」
「は・・・・い」
「今まで・・・世話になったよい」
「・・・・・いえ」
「戸締り、ちゃんとしろよい」
「・・・・はい」
「飯、ちゃんと作れよい。火の始末も忘れねェように、よい」
「・・・・マルコさん過保護」
「いいから聞けよい、アコ」
そんなこと言ってるうちに、
波がもうすぐそこまで来ていた。
あと何分、なんだろう。
ああ、泣きそうだ。
「何かあったら呼べよい、すぐに駆けつける」
「飛んで?」
「飛んだ方が早いからねい」
「・・・・ですね」
「それから俺が居なくなったら、あそこの左の引き出しを開けろい」
「・・・左の引き出し?」
「ちゃんと片付けもしろよい」
「頑張り・・・ます」
「・・・んな顔すんない。また、会える」
「その時は逃げないで下さいね、マルコさん」
「当たり前だろい」
「・・・・っ、そん時は思いっきり抱き着きますからね!」
「望むとこだい」
「ちゃんと受け止めて下さいよ・・・っ」
「わかってるよい。・・・アコ、目閉じろ」
「・・・嫌です」
だって閉じたら、マルコさんが見られない。
最後まで見ていたいのに。
こんなに涙が溢れ来て、きっと可愛くない顔でだっていい。
どんな顔でもマルコさんに覚えていて欲しい。
そう思ってたのに、
「ん、っ」
急に唇を奪われて、驚きで自然と目を閉じた。
それでも必死に目、開けなきゃと思うのに。
深く深く求められて、息苦しくて開けることが出来ない。
涙味の、しょっぱいキス。
「心配しなくてもアコの阿呆面は忘れねェよい」
・・・・何でこんなにわかっちゃうんだろう。
何でこんなに、好きなのに。
もう離れなきゃいけないんだ。
大きなマルコさんの身体をぐっと掴んだけど、
その感触はすぐに消えた。
はっと見たら、
私の大好きなマルコさんの笑顔。
「まっ・・・・」
名前を呼ぶ前に、消えた。
波は私の足元まで来ていて、
ざざん、ざざん・・・・。
やっぱり静かな波の音を残して、波も消えた。
「マルコ・・・・・さん」
台所に立ち尽くす、私1人。
「マルコさん」
さっきまで、確かにここに居た人。
「マルコさんマルコさん」
呼べばいつでも、来てくれるって言ったのに。
「・・・・っまる、まるこさ、マルコ、さん」
もう何回も呼んでも、返事はないんだと。
わかってはいても呼んでしまう。
目から零れる涙が口に入るのなんか気にならない。
・・・・・突然別れるのも嫌だけど、
こうしてお別れ出来るのだって。
・・・・・・・嫌だ。
台所の床にしゃがみこんだ私は、
マルコさんの言葉を思い出した。
「・・・ひだりの、ひきだし・・・」
涙で視界が定まらないまま、ふらふらと歩いて行き、
左の引き出しを開けた。
「・・・・・・・あるじゃん書類」
今日ずっと探してた、書類があった。
・・・・マルコさん隠してたの?
酷い人だなあ。
「・・・・あ、れ」
書類の下に、紙袋。
何だろうコレ。
・・・・・・恐る恐る開けてみると、
そこにあったのは、
まるで海の青みたいなとんぼ玉のガラスのネックレス。
・・・・綺麗。
そして同じ場所に、小さいメモ紙。
「マルコさんの・・・字?」
とても丁寧な字で、短く書かれてた手紙。
『書類を届けに行ったら見つけたから買ってみた』
・・・・マルコさんらしい。
っていうかじゃあ、あの時・・・これを買ってくれてたんだ。
振り返って台所を見る。
・・・・さっきまで、居たはずの人。
今はもう居ない。
その事実を確認して、
私は携帯を見た。
撮った写真。
2人で撮ったもの、それから。
・・・旅行でマルコさんが撮った、私だけの写真。
私、こんな顔してたんだぁ。
・・・・今夜は柿ピーで飲み明かそう。
このネックレスをつけて。
「おふぁよう御座います・・・・」
「・・・大丈夫?」
「あ、ちゃんと書類は持ってきました・・・」
「じゃなくて。目ぇ赤いしふらふらしてるじゃない」
頭ガンガンする。
マルコさんが居たらきっと、呆れ顔だっただろうな、とかつい考えてしまう自分が憎い。
「大丈夫・・・・・・です」
「・・・ねえ、あんたにその気があるなら正規雇用するって上が言ってたけど、どうする?」
「え」
「辛そうなら断っておくけど」
・・・・正規雇用されたら、収入は上がる。
「お受けします。よろしくお願いします」
「わかった、言っておく」
いつかまた、マルコさんに会えた時。
お金のことは心配しなくていいですよ、って言う為に。
またマルコさんに会えたら、
笑えるように。
しっかり働こう今は。
きっと会える。
1度あったことは2度ある。
・・・・・それは何処であっても。
きっと、いつかまた、どこかで。
+会いましょう 終+