いつかまた
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「・・・・ないのかい?」
「ないです・・・」
1日休みを取っておいて良かった。
心の底からそう思った。
でも本来なら、旅行から帰って1日ゆっくり休んで余裕を持って翌日の仕事に行くはずだった。
・・・・なのに。
大事な書類が、ない。
「・・・この間俺が持って行ったやつだろい」
「・・・・・です」
本来なら私の責任なんだけど、
この間マルコさんが持ち出したからってマルコさんまで責任感じてるし。
「や、でもたぶんすぐ見つかりますからマルコさん休んでて下さい」
「さっきからどんだけ探してんだい」
「・・・・朝からですね」
朝食の後ふと思い出して、ないことに気づいてからずっと探してる。
今はもう昼過ぎだ。
「捨てた・・・ってことはねェんだな?」
「あり得ませ・・・・・ん」
たぶん。
「・・・・あり得ると」
「・・・・・・はい」
無意識にぽい、とかよくある。
でもなあ、大事な書類だしなあ。
「あ、引き出しとかまだ見てなかったですね」
数少ない戸棚の引き出し。
2つあって、まず右を開けて探ってみるもなさそう。
「うーん・・・・・」
次に左を開けようとしたら、
「そこにはねェよい」
・・・・・とマルコさん。
「あ、ここ探しました?」
「・・・ああ」
真顔で答えるマルコさん。
その様子に違和感を感じたけど、
まあマルコさんにも見られたくないものがあるのかも。
左の引き出しはよくマルコさんが使ってるし。
「うぁー・・・・・ないよう」
早くも弱音が出て来た。
「そろそろ休んだらどうだい?」
「・・・・・・・お腹すきました」
気が付けばもうお昼なんだもんなぁ。
「何か作ってやるよい。腹が減っちゃ戦も出来ねェだろい」
「え、いいんですか?」
「適当でいいかい?」
「勿論ですぅ!」
作ってもらえるだけで有難い。
マルコさんが作ってくれるご飯は特別に美味しいし。
・・・・焦ってるのに、
ピンチなのに。
マルコさんがご飯を作ってくれるというだけでのほほんとした気持ちになる。
ご飯を待つ時間がこんなにも幸せなんて。
確かに、休むことも大事。
待つこと十数分。
「出来たよい」
「わーい有難う御座います!」
目の前に出されたのは美味しそうなスパゲティ。
「いただきまーす!」
「熱いから気を付けろよい」
「熱ッ!」
「・・・・だから言っただろい」
「・・・すみません」
「火傷してねェだろうな?」
「だいじょーぶですこれくらい日常茶飯事です!」
「・・・駄目だろいそれ」
マルコさんが笑ったので、私も笑った。
・・・・こんな風に、
2人で食べるお昼ご飯も日常茶飯事で。
ずっと続けばいいなあ、と思う。
「あ、今日デザートあるんですよ!」
「デザート?」
「とっておきのやつです!ダッツです!」
「・・・・高いやつかい」
ダッツ、と聞いてマルコさんの顔が曇った。
前はダッツ、なんて言っても首を傾げるだけだったけど今は理解してる。
それだけこの世界に・・・この家に馴染んで来てる証。
「この間特売だったんで仕事帰りに買っておいたんですよ!」
「特売たって2つ買ってりゃ意味ねェだろい」
「うちに2人居るのに1つだけ買ったって意味ないじゃないですか」
「俺の分はいらねェっていつも言ってるはずだよい」
「でもすーっごく美味しいんですよ。ハゲ」
「・・・・・誰がハゲだ」
ものすんごい顔で睨まれたので結構本気で驚いた。
・・・・覚えとこう、ハゲは禁句。
「ハーゲンのことですよ、アイスのことですー」
「・・・変な言い方すんなよい」
「とにかく!美味しいものは2人一緒に食べないと美味しくないんです!」
私1人で食べたって気まずいだけだ。
そう言ったらマルコさんの表情がとても柔らかくなった。
あ・・・知ってる。
こういう顔をマルコさんがする時は、
「エースみてェなこと言うよい」
「エース、さん?」
仲間のことを口にする時。
もうわかっちゃうんだなぁ。
「末っ子だよい」
「前もお名前口に出してましたね・・・仲、良いんですね」
「手がかかるからねい」
・・・・何かちょっともやもや。
「・・・・マルコさん」
「何だい」
「もし・・・マルコさんがご自分の世界で私の話しする時も、同じように話してくれます?」
「同じように?」
その、優しい笑みで。
「・・・嫌な顔で話したりしないで下さい」
こういうお願いって子供っぽいかなあと思ったら自然と小声になった。
でもマルコさんはちゃんと聞いてくれてて、
私の頭をぐしゃぐしゃにした。
「心配しなくても馬鹿にした顔で話してやるよい」
「・・・・絶対アイス食べさせますからね」
こうなったらもう意地だわ。
無言で立って無言で座り、アイスを開封。
そして、スプーンで一掬い。
「はいマルコさんあーん」
マルコさんの前にスプーンを差し出してみるけど、
「あっ」
一瞬でアイスごとスプーンを奪い取られてしまった。
「自分で食うっての」
「・・・・・・・・・酷い」
「酷くねェ」
淡々と答えながらマルコさんはアイスをぱくり。
仕方なく私も自分の分のアイスを開封したところで、
「・・・・美味いよい」
「私が食べさせた方がもっと美味しいと思いますよ!」
「これで十分だい」
「・・・・欲ないですねー」
なんて話しながらも、
私も美味しいアイスを堪能した。
・・・・・・・で、午後も書類を探してはみたけど、見つからない。
「・・・・・もう、いいです。諦めます」
「必要なんだろい?」
「そうなんですけどー・・・・ないですし」
「夕飯も俺が作ってやるから探してろよい」
一緒に探してくれていたマルコさんが台所に立ち上がったので、
「私も手伝いますよー」
私も台所に向かう。
休みなのに昼も夜も料理させる訳にいかない。
「いいから探してろよ・・・・い」
「・・・・・・・・・・・マルコさん」
私を振り返ったマルコさんが驚いた顔をしたので、
自然と私も後ろを振り返った。
・・・・・そこに見えたのは、
うちにあるはずのないもの。
「・・・・音も、聞こえます?」
「・・・聞こえるねい」
うちの床に、穏やかで綺麗な波。
波はだんだんこちらに近づいてきて。
「・・・・・・嘘、ですよね」
まさか、まさか。
思い出す、
『マルコさんも波にさらわれちゃったりして』
あの胸のざわつき。
待って待って、だって。
・・・・まだ、嫌だ。
こんなの、
ダブルピンチじゃないか。
+重なるものか 終+