いつかまた
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「・・・・・・・・・おはよう御座います」
「・・・・・・・ああ」
気まずい。
ものすんごい気まずい。
朝は無事にやって来た。
でも、マルコさんは目の前に居る。
しかもすんごい不機嫌そうな顔で。
『朝になったら戻ってるかもしれないですよ!』
なんて気軽に言った手前、
・・・・・・・・・気まずすぎるよ。
「・・・・・・・あ、えーとよく寝れました?」
「寝心地は悪くなかったよい」
「それは・・・良かったです、ハイ」
「・・・・俺が怖くなったかい?」
「寝顔可愛かったし、全然」
流れで言ってから、はっとした。
・・・・・・・・可愛い、とか。
言うべきじゃなかった。
案の定目の前のマルコさんは憮然とした顔。
「あ、ご飯!今用意しますね!海!行かないと!」
「・・・・あんたが気にすることじゃねえよい」
「あ・・・・・・・・・・・はい」
ふ、と苦笑を浮かべたマルコさんに募る申し訳なさ。
海、行かないと。
パンを2枚焼いて珈琲と一緒に出したらマルコさんは喜んでくれて、
美味しいと言ってくれた。
それから、
「マルコさん申し訳ないんですけど後片付け御願いしてもいいですかね?」
「ただ飯喰らいになるつもりはねェよい」
数少ない食器の片づけを御願いしてる間に私はくっそ狭いベランダに出た。
持ってきた携帯でかけたのは、
会社。
「・・・・・・あ、もしもしー。すみません今日なんですがどうしても行けなくなってしまいまして」
今日は絶対にマルコさんを海に連れて行くんだ。
だから、休まないと。
「・・・・ええ、はい。申し訳ありませんー。はいー失礼しますー」
幸い急ぎの仕事も、
私じゃなきゃ駄目な仕事もないし休みをもらえた。
有給にしとくね、とのこと。
良かった。
「あ、片付け終わりました?」
「少なかったからねい、これくらいすぐ終わる」
「有り難う御座いましたー。もう少し休んだら海行きましょうかね」
マルコさんの素早さに驚きながら話しかけたら、
「そこまで迷惑かけられねェよい。場所さえわかりゃ1人で行ける」
・・・・・・さっくり断られた。
「駄目ですよ!迷子になります!」
迷子になった海賊っていうのもちょっと見てみたい気もするけど!
「ガキじゃねェんだ、問題ねえよい」
「でもここはマルコさんの世界じゃありませんし、戻れなかったらうちに帰って来ないと」
そう言ったらマルコさんが驚いた顔をした。
「・・・・・・・いいのかい、またここに来て」
「あ」
・・・・・言われてはっとした。
「っていうか私めっちゃ養う気満々でした。ごめんなさい」
「・・・・・・アコが謝ることじゃねェだろい?」
「うん、でも何となく」
「面白い奴だねい」
「・・・・お褒めに預かり光栄で御座いますハイ」
ああ恥ずかしい!
「なら・・・また言葉に甘えさせてもらうことにするよい」
「・・・・・・どん、と甘えて下さい!」
何でだろう、
私はこの人の力になりたいと思ってる。
「そしたらもう行けます?」
「ああ、行ける」
「じゃあ、行きましょう!」
と言っても貧乏な私は車なんてないし、
免許もないから電車なんだけど。
家から歩いて数分の駅。
「・・・・・・・何だい、これは」
「電車です」
「デンシャ・・・・ああ、海列車みたいなもんかい」
「・・・・・・まあ、列車です」
なんだか海賊さんの移動手段て船しかないのかも、なんて思った。
ごとんごとん、と電車に揺られることこれまた数分。
聞きたいことはまだいっぱいあるんだけど、
何となく話せなかった。
・・・・・・・聞いたら、
思い出させちゃうし。
寂しい思い、させちゃうかもしれないし。
今日海に連れて行ったからってマルコさんが元の世界に帰れるって保障もないし。
「ここで降ります!」
海のある最寄り駅で降りて、
「ちょっと歩きますけど大丈夫ですか?」
「俺ぁ海賊だよい?体力なら心配されることはねェ」
「・・・失礼しました」
「いざとなったら飛びゃいい」
「・・・・・・・・・・・・飛ぶ?」
空を?
え、海賊って空飛べるの?
「・・・・忘れろい。何でもねェよい」
「・・・・・・・・・はい」
あ、聞かれたくないことだったのかな。
マルコさんは周りを興味深そうに見渡しながら、
私の隣を歩く。
・・・・・・・・マルコさんは昨日と変わらない半裸だし。
刺青してるし。
金髪のパイナップルだし。
周りからはどう見られてるんだろうか。
ヤクザに絡まれてる一般人に見えてたりして。
・・・・でもこの人は、
見かけによらず優しい人なんだよなあ。
「あ、コンビニ寄っていーですか?」
「こんびに?」
「お店です。買い物」
「ああ、構わないよい」
途中でコンビニを見つけたので寄らせてもらって、色々買い物をした。
荷物は、
「あ。持ちますよ?」
何の違和感もなくマルコさんが持ってくれたので私が、と手を出すも、
「言ったろい?ただ飯喰らいにはならねェ」
・・・・・・・・うん。やっぱ優しい。
「や、でも後片付けとかもしてもらってますしそんな気にしないで下さいね」
私も好きでやってることだし。
それから何気ない話しをしながら、
海に着いた。
平日だし夏でもないしで、
人はほとんど居ない。
「いー天気!あ、泳ぎます?」
「・・・俺は泳げねェよい」
「あ、そうなんですか?」
「海に嫌われてるからねい」
は、と何処か自嘲気味にマルコさんは笑った。
「よーしじゃあはい、これ」
「・・・・何だいこれは」
マルコさんが持ってくれてる袋から出した、
さっきコンビニで買った缶ビール。
私はチューハイ。
「乾杯しましょう!海に!」
しんみりとした空気になってもいいように買っておいた。
「宴、かい?」
「そうです!宴です!」
ツマミに柿ピーも買っておいたし。
「アコは海賊に向いてるかもしれねェよい」
「え、そうなんですか?」
「海賊は皆宴好きだからねい」
そう言って笑ったマルコさんは、
何処か嬉しそうな気がした。
・・・・・・元気、出たかな。
「もっともそれだけじゃ海賊にはなれねェが・・・・」
「あ、怖そうなんでなる気ないです」
「俺のことは怖くないんじゃなかったかい」
「マルコさんは怖くないですよ?でも海賊って命がけじゃないですか。私には出来ないですよー」
「・・・・ろくなモンじゃねェよい。海賊なんて」
なんて言いながらマルコさんの表情はとても柔らかくて、愛おしそう。
だからつい、言ってしまった。
「でも好きなんですよね、お仲間さんのこと」
「・・・・・・大事な、家族、だよい」
あ・・・・・また。
寂しそうな笑顔。
き・・・・気まずい。
仕方なく私はプルタブを開けた。
ぷしっ、といい音がして、すぐに口につけた。
ごくごくごく、と喉を鳴らして飲むレモンチューハイ。
「ぷはー!!」
「・・・・・・・アコ?」
それからマルコさんに渡した缶ビールも開けてあげた。
「今じゃなくても・・・・きっと、帰れます。だから・・・」
「・・・・・・気ィ遣わせちまって悪いねい」
「微力ながらお力添え致しますとも!」
「気持ちは嬉しいが、無理はしなくていいよい」
「無理なんてしてないですよう、全然!」
あはははーなんて笑った瞬間に悪魔はやって来た。
「急用ってデートのことだったんだぁー」
・・・・これは、朝電話越しに聞いた声。
「・・・・・・・・・あれ、先輩?」
割と仲の良い女の先輩が悪魔の笑みで、
何故か私の前に立っていた。
あれ。何故だ。
「仕事サボって男と・・・・いい度胸してるわねえ?」
「あ、いや、これには深い事情がありまして」
「それは今度聞いてあげる。デート楽しんでねー?」
「あ・・・・・・・・・・・・はい」
マジすか。
ちーん。
頭の中でそんな音が響いた。
そして私とマルコさんの間に流れる気まずい空気。
・・・・・・・・・気まず過ぎるよ!
「・・・・・・・・・仕事、サボったのかい?」
じろ、と睨まれた。
「・・・・有給にしたから大丈夫、デスヨ?」
てへ、と誤魔化そうとした私の腕がぐっと掴まれた。
「え、っと」
それからマルコさんの顔が近づいて、
ごつん。
額同士がぶつかった。
・・・・・・・結構痛い。
「・・・・もし次に同じようなことしたら、許さねェよい」
目の前ですんごい目で睨まれてる。
怖い、んだけど。
・・・・・・怖くない。気がする。
マルコさんは私のことを心配してくれてるのに、
「・・・・・・・・・っはい」
・・・・・・・ドキドキしちゃった。
これってなんだかすごく、
気まずいです、ハイ。
+気まずいのさ 終+