いつかまた
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「モビーって誰ですか?」
家に帰って、
小さいテーブルに麦茶を2つ置いて、
質問会。
気になってることは全部言えよい、と言ってくれたのでこれを機会に色々聞こうと思います。
「モビーは船の名前だよい」
「船・・・そっか海賊船ですね」
人の名前じゃなかったんだ。
「クルーは1600人。俺達の居場所だい」
「せっ・・・・!1600人!?」
「傘下も入れりゃもっとだよい」
「・・・すごい船ですね」
「あァ。モビーが居なきゃ俺たちは生活出来ねェからよい」
・・・・1600人で住んでるのかぁ。
それじゃ私と2人の生活じゃ物足りないだろうなあ。
「・・・そういえばナースさん居るんでしたっけ」
前にナースが、とか言ってたのを思い出した。
「ああ、居るよい。怪我した奴らの手当てしたり・・・まぁ基本的にはオヤジのことだがねい」
「あ、お父さんですか?」
「・・・・血は繋がってねェけどよい」
「でも素敵ですね。そんな人と一緒に旅が出来るなんて」
血が繋がってなくたって、
『オヤジ』と呼べる人と旅が出来る。
いいなあ。
「・・・そうだねい」
嬉しそうな、どこか懐かしそうな笑顔を浮かべるマルコさんに、
・・・・込み上げてくる複雑な気持ち。
無事に元の世界に帰してあげたい。
その為に休みの日はネットで調べてはいるけど、
いまいち情報は掴めない。
・・・・その一方で、マルコさんが帰ってしまった後のことを考える自分がいる。
・・・駄目だなあ、私。
「好きな食べ物は何ですか?」
「・・・・基本的には何でも食べる。あえて言うなら肉、ってところだねい」
「じゃあ・・・・あ。えーっと」
「・・・何だよい」
好きな食べ物、の後に自然と口から出てこようとした言葉を慌てて止めた。
危なかった。
・・・・向こうの世界に、恋人はいますか?
好きな人は、居ますか?
そう聞こうとしてた。
聞きたいけど・・・聞きたくない。
「アコ?どうした?」
「あ・・・海賊って楽しいですか?」
慌てて違う質問をぶつける。
「楽しいよい。・・・まぁ、楽しいだけでもねェけどよい」
「命がけですもんねー」
「それは構わねェんだよい」
「・・・・他に問題が?」
あ、人間関係とかかな?
「食い逃げしたり面倒かける奴が多くてよい」
はあ、とマルコさんはため息を吐くけれど。
・・・その顔は何処か優しい。
「・・・でも楽しいんですね」
「何より・・・海賊は自由だからよい」
海賊は自由。
そう話すマルコさんの瞳は遠くて。
・・・無性に、寂しくなった。
「素敵・・・ですね」
言ってから、麦茶に口をつけた。
ごくり、といい音がした。
「・・・アコは海が好きかい?」
「好き・・・・です。海の青、とかも。あ、マルコさんの好きな色は?」
「紫と青・・・それと白、だよい」
「ほうほう。全部・・・マルコさんに似合う色ですねえ」
「アコの好きな色は?」
「私も青好きです。あとは黒と赤」
「黒と赤?」
「黒は大人っぽい色だし無難に色んなのに合わせられますしー。赤は気持ちを明るくしてくれます」
青は癒し。
「・・・アコには白と青が似合うと思うよい」
「あ、ほんとですか?今度白着てみようかなー」
昔買った真っ白のワンピースがある。
実は1回も着てない。
「楽しみにしてるよい」
「あはは、頑張ります」
笑ったところでもう1口麦茶を、と手を伸ばしたら、
「あ」
変なとこに手が当たって、
グラスが、
「ああああ・・・・・!」
・・・・テーブルから落下。
あっという間にガチャン!と音がして、
見るも無残な姿に。
「ごめんなさいマルコさん、布巾持ってきてもらえますか?」
砕け散ったグラスの欠片を拾おうとしたら、
手を掴まれた。
「危ねェだろい?俺がやるから、アコは拭くモン持って来いよい」
怒ったような、真剣な眼差しで見つめられた。
「あ・・・有難う御座います・・・」
ぱっと手を離してお礼を言って、
台所に向かった。
・・・・・・っ、顔熱いよ!?
手も・・・熱い。
・・・心臓の鼓動が、大きくてうるさい。
布巾・・・用意しなきゃ。
顔・・・赤いかな、大丈夫かな。
1階深く深呼吸して、
気持ちを落ち着かせる。
よし。
「マルコさん布巾持ってきましたー大丈夫ですか?」
「終わってるよい」
「早っ!」
見れば確かに今まで存在していたグラスの残骸は袋にまとめられていて。
私が深呼吸して布巾してる間に・・・やること早いなあ。
あとは布巾で濡れたとこを拭いて終わり。
「欠片残ってないかい?」
「大丈夫ですー」
ふきふき、床を拭いてたら、
マルコさんに腕をがっと掴まれた。
「な、」
と思ったら。
ごつん。
額と額が、ぶつかった。
「あ・・・・・あの」
ワタクシは何かしでかしましたか!?
再びばっくんばっくん言い始めた心臓。
「熱は・・・ねェな」
「は!?」
「様子がおかしいから、よい」
また熱でも出てんじゃねェかと思ったよい、と。
マルコさんが苦笑した。
「・・・マルコさんてお兄ちゃん属性ですか?」
「・・・1番隊の隊長だからねい、一応。そうなるかもしれねェよい」
「・・・・隊長なんですかマルコさん」
「そうだよい」
・・・・・すごい人なんだ。
1600人も居る中で、1番隊の隊長とか。
私は今そんな人と一緒に住んでて、
そんな人にご飯を作ってもらってるんだ。
「・・・アコ?」
そして私は、
そんなすごいマルコさんのことを、
「・・・マルコさん、恋人とか好きな人とか居るんですか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・好きに、
なってしまったんだ。
「いねェよい。それどころじゃないからねい」
「・・・・と、言いますと?」
「オヤジと仲間のことだけで精一杯だよい」
幸せそうに微笑むマルコさんに、
・・・・・・・私は何も言えない。
+言えないこと 終+