いつかまた
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「とうちゃーくっ」
電車とバスを乗り継いで、やって来た。
「ここから少し歩きます、大丈夫ですか?」
「問題ねェよい」
バス停から歩いて数分。
レンガが見えた。
「・・・・ここ、です」
レンガ造りの、趣のある建物。
「・・・・狭そうだねい」
「・・・・ちょっと」
狭いです。
大人6人は居ればきついだろうお店。
ブックカフェ。
「・・・何かちょっと緊張します」
「いつも来てんだろい?」
「そうなんですけど・・・いつもは1人なので」
誰かと来るのは勿論、
マルコさんを連れて来ることになるなんて思わなかった。
「じゃ・・・じゃあ開けますね?」
「手、握ってやろうかい?」
「だいじょぶです!!」
何か最近やたらと子ども扱いされてる気がする・・・。
・・・・ま、いっか。
気を取り直してドアを開ける。
「こんにちはーっ」
「あらーいらっしゃいませ」
ほんわかとした笑顔で出迎えてくれた店主さん。
「アコちゃん久しぶりじゃなあい?」
「お久しぶりです」
「ふふ、いつもの席どうぞ」
言われて、いつもの窓際の席に座る。
「わーい有難うございます!マルコさん、どぞっ」
「・・・・邪魔するよい」
「あら、こんにちは」
店主さんはマルコさんを見て少し驚いた様子で、
でも私を見てにっこりと微笑んだ。
「あらあらあらー?ゆっくりしていって下さいねー?」
「・・・・後で紹介します」
それからマルコさんにメニューを見せて、
「何にします?マルコさん」
聞いてみたら、
「アコに任せるよい」
「そしたらパスタ2つで、1つは大盛りでーあと珈琲2つとワッフル2つ!お願いします」
「はぁい、有難う御座いますー」
店主さんは私が10代の頃にこのお店を開店させて、それからの付き合い。
とっても可愛い人。
カチャカチャ、と準備してる音が響く。
ああ、落ち着く・・・・!
「気になる本あったら取って来て大丈夫ですよーマルコさん」
「ここは何でもあるのかい?」
「ジャンル問わないですよー。漫画本に小説、絵本に怪異モノまで何でも御座れ!」
「へェ・・・」
背が高くてがたいが良いマルコさんにとっては狭い店内。
でも難なく歩いて、数秒後。
早くも気になる本を見つけた様子。
1冊の本を手に取って、すたすたと席に戻って来た。
タイトルをちらっと見たら、
『うみ』
・・・・・あ、海の写真集だ。
マルコさんらしいなあ。
・・・・早く元の世界に帰してあげたい。
私は・・・・寂しいけど。
「お待たせしましたーパスタ大盛りと、普通」
「きゃー待ってましたぁっ!」
「それから珈琲です。ワッフルは食後で良かったかしら」
「おっけいでーす!」
ピーマンとベーコンのペペロンチーノ。
にんにくの香りがたまらないんだコレ。
マルコさんはカップを手に取って、
「・・・いい香りだ」
・・・・優しい顔。
うん。・・・連れてきて良かった。
「いただきますっ!」
私も珈琲をごくり。
うん、美味しい。
ここは珈琲にもすごくこだわりがあって、
本当に美味しい。
そしてパスタをぱくり。
「うーん、美味しい!」
「確かに美味いねい。サッチにも負けてねェ」
いつもマルコさんがべた褒めするコックさんにも負けてないとのお言葉を頂いた。
これは嬉しい。
「一応大盛りにしましたけど足ります?何なら私のもどうぞー!」
「十分だよい。・・・いつもここに1人で来るのかい?」
「はい。1人の時はいつも店主さんとお話しするんですよー」
そこまで話したら店主さんがひょこっと顔を出した。
「でも恋の話はまったく聞かなかったわよー?」
「・・・・げふん。あ、あの・・・紹介しますね?」
「まさかアコちゃんが男の人連れてくるなんて」
「今訳あって一緒に住んでます・・・マルコさんです」
マルコさんは珈琲を飲んでいたカップを置いて、
「世話になってるよい」
と軽く頭を下げた。
「そして、こちらが店主さん。私が10代の頃からお世話になってる人です」
「アコちゃんは子供のいない私にとって娘みたいな存在なんですよ、マルコさん。・・・だから、お願いしますね」
訳あって、を理解してくれたのか、
それ以上のことは言わなかった。
「・・・努力するよい」
マルコさんも自然と会話してくれて、ほっとした。
「あ、じゃあそろそろワッフルお願いしまーす」
「はい、お待ち下さいね」
ワッフルが出来上がるのを待つ間、
私も本を持ってきて、
2人で珈琲を飲みながら待つ。
その時間はただ静かで。
ワッフルを焼く音、
私とマルコさんが本をめくる音、
たまに珈琲を飲む音。
そんな音が響くだけ。
・・・いいなあ、この空間。
しばらくして、
「ワッフルお待たせしましたー」
運ばれてきたワッフルにメープルシロップをたっぷりかけて、
「ささ、マルコさんほっかほかのうちにどうぞ!」
マルコさんと一緒にいただきます!
「んふふふー美味しいー!!」
外側はカリッさくっ、で中はふんわり。
メープルの味とあいまって、美味。
「・・・アコがいつも1人でここに来る理由がわかったよい」
マルコさんも満足そうにワッフルを食べてる。
良かった。
「あ、わかります?落ち着くんですよねー。あったかくて、居場所があるっていうか」
「俺にとってそれは・・・モビーであり、オヤジの居る場所だった」
あ・・・初めて聞く名前。
モビー・・・って人の名前かな。
オヤジ・・・・ってマルコさんの本当のお父さん?
それとも。
あー・・・・聞きたい。
めっちゃ聞きたい。
でも、ここではやめとこ。
「・・・自分の居場所があるって、救いですよね」
だからこれだけ、言っておいた。
「例え狭くてぼろぼろでも、ねい」
「・・・・・それってうちのことですよね」
「俺は一言もそんなこたァ言ってねェよい」
けろっとした顔でそんなことを言う。
・・・・でも、ぼろぼろで狭いのは事実だし。
何より・・・私の家が、
マルコさんの居場所だと言ってくれたことが嬉しい。
「でも同棲だとアコちゃん家事大変ね」
心配そうに言うので言葉に詰まった。
「・・・・・マルコさんがやってくれてるので」
ノープロブレムです。
「あらぁ、素敵。料理も?お掃除も?お洗濯も?」
「・・・・マルコさんがしてくれてますー」
「適当にやってるだけだよい」
「家事やってくれるだけでいいのよ。素敵な旦那様で幸せねえ」
旦那じゃないです!と慌てて否定しようとしたら、
「・・・・俺は海賊だからよい。幸せには出来ねェ」
ぽつり、と。
マルコさんが呟いた。
「既に幸せそうだけど?」
そんなマルコさんに店主さんが笑う。
「・・・・そう、ですよ。私今幸せです」
だから私も笑う。
「・・・・アコ」
それでもマルコさんが辛そうな顔をするから、
「そんなことわかってると思ってました。マルコさんてバカだったんですねー?」
にやにやしてみたら、
「・・・・後で覚えてろい?」
「・・・・・うげぇ」
とってもいい笑顔が返ってきたのでちょっと怖かった!
「で、否定しないってことは2人はご夫婦だったのね?」
「・・・・あ。違います!夫婦じゃないです!」
そこ否定するの忘れてた!
「ふふ、顔真っ赤よーアコちゃーん?」
「店主さん!」
「手のかかる嫁だよい」
「マルコさぁぁん!?」
貴方そんなキャラでしたっけ!?
「ごちそうさまでしたー!」
「世話になったよい」
それから話し込むこと2時間。
居心地良くてずっと居たくなっちゃうけどそういう訳にもいかないので。
「また来てね、アコちゃん。マルコさんも是非」
「・・・・よい」
「有難う御座いまーす!」
私たちは重い腰を上げて店を出た。
「はー癒された!!」
改めて2人きりになったとこで、
「ほんとのとこどうでした?」
本音を聞いてみる。
「美味かったよい。飯も・・・空気も」
「お、言いえて妙ですな」
「何で俺を連れて行ったんだい?」
「私の大好きな場所だから。ですかね」
「・・・それで?聞きたいことがあんだろい?」
「は?」
「聞きたくて仕方ねェってうずうずしてただろい、さっき」
・・・・バレてた。
「でも・・・聞かれたくないことかもしれないですし」
「いいよい」
え、いいの?
あっさりと返って来た答えに驚きを隠せない。
「あ、でも答えたくないことは無理に、」
「いいから、言え」
「・・・・じゃあ、私たちの居場所に戻ってから」
たくさん、聞きますね。
マルコさんのことが、
知りたいと。
心が叫ぶから。
+居場所 終+