いつかまた
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「嫌いな訳じゃないんですよ。ただちょっと・・・苦手なだけで」
朝食の目玉焼きを頬張りながら弁明してみる。
結局、仕送りのあった次の日は忙しくて電話出来なかった。
で、マルコさんに今日するのかい?と言われたので。
「別に無理にしろとは言わねェよい」
・・・・マルコさんもそう言ってくれてるし、
本当は電話したくない。
しなくても、いいのかもしれない。
「・・・・・でもやっぱり、仕送りに対してはそろそろお礼しないといけないとは思うんですよ」
「そろそろ?」
「家を出て一人暮らし始めて、1回も家帰ってないし電話もしてないんです」
「で、気にしてんのかい?」
「仕送りだって今回が初めてじゃないんです。でも・・・何も言ってないんですよ私。最低、なんです」
いつもは美味しいはずのウィンナーの味が今はちょっとわからない。
・・・わかってたことだけど、
今までずっと逃げてきたから。
落ち込む。
私が、最低だって。
「・・・・てめェが送ったもん喜んで食って、生きてるだけで十分だろい」
「・・・・でも私、親の思うような子になれなかったですし」
電話しても、
淡々とお説教くらうだけだろうなあと思うと。
気が重い。
更に帰ってこい、なんて言われたりしたら。
「何で親の思う通りの人間にならなきゃいけねェんだよい」
はぁ?と言わんばかりの憤慨した様子のマルコさんにちょっと戸惑う。
「や、まあそうなんですけど。でも育ててもらった恩もありますし」
多少は親孝行しないと、ねえ?
思いながらも何も出来ない私。
「・・・俺からしたらこんだけまともに育って何の文句があるってんだい」
「・・・・まともですか私」
「俺は海賊だからねい」
「マルコさんて海賊にしたらかなりいい人だと思うんですけど」
下手したらその辺のちんぴらより優しくて紳士的だと思いますが。
そう言ったらマルコさんは変な顔をした。
「・・・私、1人っ子っていうのもあるせいか、生まれたときからずっと女の子らしく育てられてきたんですよ」
「んなもん普通だろい?」
「とりあえずピアノと習字の稽古に行かされて、おしとやかに、女の子らしくって」
「・・・・そりゃ面倒だねい」
「でも、ピアノも習字も両親の望む結果は得られなかったんです。ご存じの通り料理も出来なかったですし」
私は、不器用だった。
いろんな意味で。
「ピアノも習字も楽しかったし、行かせてもらったことには感謝してます」
「家を追い出されたのかい?」
「自分から出たんです。両親のため息が嫌で」
出来ない度に悲しい顔。
呆れのため息。
「だから怒ってるだろうなあ、と」
「怒ってる奴に仕送りするかい」
「・・・・頑張ります」
ご飯の美味しさに勇気をもらったから。
「それより、そろそろ時間だろい?」
「はうぁあああああ!!!」
ゆっくり朝ごはん食べすぎた!
遅刻するぅぅ!!!
「ご馳走様でした!マルコさんごめんなさいこのままで!行ってきます!」
慌てて鞄を取って、
「・・・・騒がしいねい」
というマルコさんのある意味『行ってらっしゃい』を聞きながら(違うかもしれないけど)、
私は会社へ急いだ。
で。
「・・・・ただいまですー」
「ああ、おかえり」
・・・・・・・・帰って来ちゃった。
「マルコさーん今日のお夕飯はいかに!」
「カレーだよい」
「やっほい!!カレー大好物ですー!!」
カレーにテンションをあげつつ、
私本当にこれでいいのかしらとも思う。
でも今は、私にはやらなければいけないことがある。
カレーを食べて、
実家に電話すること。
カレーのいい匂いに食欲をそそられ、
「私ご飯大盛りにしちゃいます。マルコさんは?」
「特盛」
「りょーかいです!」
ご飯は大盛りで頂く。
「いただきまーす!」
ぱくり。
「・・・・・これマルコさんが作ったんですか?」
「まずいかい?」
「すっごい美味しい・・・!お店の味!」
どうしたらこんな味になるというの!
「・・・普通だろい?」
「想像以上に美味しいです。ていうかいつもすみません・・・」
「俺はアコの作る飯も好きだよい」
「う・・・・有難うございます」
ずきずきと痛む胸。
この前から、ちょっと考えてたことがある。
思い切って言ってみよう。
「あの・・・マルコさんにお願いがありまして、ですね」
「・・・珍しいねい」
「今度から私が休みの日に料理教えてほしいんです」
「料理?」
「いくら働いてるとはいえマルコさんに任せてばっかりじゃダメだと思うんです」
男だったら離婚されても仕方ないほどのダメ男だ。
「別に構わねェけどよい・・・ンなことしなくてもアコはダメじゃねェよい」
「いいえ!甘えてはいけません!よろしくお願いします!」
「・・・・頑張れよい」
「はい!」
それから2人で美味しいカレーを堪能して、
デザートのアイスもしっかり食べた。
「勇気の充電完了です!」
「・・・・いいのかい?」
「なあに、親に電話するくらいで緊張なんて!」
「手、震えてるよい」
「・・・・・・・・してます・・・ハイ」
携帯を持つ手が、震えてる。
たかが、電話くらいで。
仕事上の電話なら、こんなことないのに。
落ち着こう。
深く深呼吸して、
携帯のボタンを押そうとした時。
もう片方の手に、マルコさんの手が重なった。
「早くかけろい、アコ」
「・・・・・っはい!」
強い口調とは反対の、優しい笑顔と、
手から勇気が伝わって。
手の震えはおさまった。
ピッ、ピッ、ピッ。
1つ1つボタンを押していく。
最後に、通話ボタン。
・・・・息をするのも忘れる程の緊張の中、
コール音が始まった。
『はい』
数回でコール音が途切れて、聞こえてきた声は女性のもの。
・・・・母さん。
「・・・・アコです」
『・・・アコ?』
「・・・・お久しぶりです」
何年振りかに聞く母の声。変わってない。
『あらあ、貴方からかけてくるなんて・・・帰ってくる気になった?』
がつん、と心臓を攻撃された気分になった。
ああ、やっぱり。
そのまま倒れそうになった時、
繋がれた手に力が入ったのがわかった。
もう、やめよう。
親の前で偽るのは。
「私、帰らないよ。今男の人と暮らしてる、料理の上手な人」
『貴方結婚したの!?』
「してない。恋人でもない。でも・・・大切な人」
『バカなこと言ってないでさっさと帰ってきなさい!』
「ごめんね母さん。私バカでいいや。だってその方が楽しいもん」
『アコ!』
「仕送り有難う。でも無理しなくていいから。父さんにもよろしく」
ごめんね、有難う。
それだけ言って、私は通話を切った。
「・・・・・・まるこさん」
「よく頑張った、よい」
携帯を置いて、私の身体はふにゃふにゃと崩れ落ちた。
「死ぬかと・・・思いました」
バカみたいだけど、本当に。
それくらいの覚悟だった。
「アコの覚悟は見届けたよい。よくやった」
そして、
いつもと違う優しく頭を撫でてくれたマルコさん(それでも髪は多少乱れるけど)。
「・・・・・・マルコさん、今度付き合ってくれませんか?」
「どこにだい?」
「血が繋がってない母さんのとこに」
今日頑張った、ご褒美に。
「血の繋がってない母親?」
「あ、でもその前にカレーおかわりしたいでっす!」
「・・・ったくホントに、騒がしいねい」
マルコさんが側にいてくれて、
本当に良かったと、思った。
+騒がしい 終+