いつかまた
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「あ」
シャンプー買い忘れてた。
うっかりしてたなあ、と思いながらお風呂に入った。
1日の仕事の疲れを癒すお風呂。
足も伸ばせないしぼろっぼろだけどいいの。
「ふぃー」
湯船につかれるだけで幸せ。
髪は洗わなかったけど、サッパリしてお風呂を出た。
「・・・・・・・・・・・・・おぉう?」
ボロだけど私の家、
しかも私の部屋。
・・・・・・・・・ちなみに言おう、
私は1人暮らしである。
恋人も居ない。
・・・・・・・金髪で、
パイナップルなんだかバナナなんだかわからないような髪形のヤンキーな友人も居ない。
「・・・・・・・・おい、女」
「・・・・・・・・・・・・・はい」
ああ、イメージ通り偉そう!
しっかり鍵はかけたはずなのに何処から現れたのか。
金髪のお兄さん、いやおっさんが私の部屋で大変に怖い顔で立っている。
しかも上半身が、裸に刺青、
紫の上っ張りを簡単に羽織っただけの無精ひげはやしたおっさん。
「ここは何処だい」
「私の部屋ですが」
「・・・・・・・・・邪魔したよい」
「・・・・・・・・・お粗末サマでした」
あ、これなんか違った。
それでも出て行ってくれたことにほっとして、
さて風呂上りの麦茶でも、と冷蔵庫に手を伸ばしたとき。
ガチャ、とまたドアが開いた。
・・・・・・・・・・鍵かけとこ。
そして入ってきたのは何とも複雑そうな顔の先ほどのおっさん。
「あの、何か・・・・?」
さすがにこれは110番?
と思いきや、
「海がねェんだよい」
「うみ・・・・・海?」
「俺はもともと船に居たはずなんだい」
「そう・・・・なんですか?」
よくわからない言葉たちに首を捻ってると、
おっさんは思いつめた顔で呟いた。
「・・・・ここは何処なんだよい」
さっきと同じ台詞。
「・・・・・・・・海からいらっしゃったんですか?」
「俺ぁ海賊だよい」
・・・・・・・・・海賊、だって。
初めて見た。
この人が海賊。
「で、海賊さんが何故うちに」
「気がついたらここに居たんだよい!」
その必死さに、本当に焦ってるんだと理解した。
同時に、困ってるんだとも。
「海は・・・・この辺にはないです」
「海がねェ?・・・・・・・・・すまねェが地図はあるかい」
「あ、はい」
慌てて机の引き出しからもう何年も見てない地図を取り出した。
・・・・・・・・持っておいて良かった。
最近はスマホのマップで十分だと思ってたから。
「・・・・・・・何だい、これは」
おっさんは渡した地図を見て渋い顔、いや怖い顔になった。
「・・・・・・日本地図ですけど」
「こんなの見たことねェよい。グランドラインは何処だい」
「グランドライン?あ、海外の方ですか?」
日本語通じるけど外国の人?
だから金髪なのか、染めてる訳じゃなくて。
えーとえーと、流石に世界地図は持ってなかったような・・・・・あ、あった。
「これ、世界地図ですけど」
「・・・・・・・・・・これじゃ、駄目だ」
「え?」
愕然とした様子で地図を見つめるおっさんは、何だか可哀相に見えた。
「駄目、なんだよい・・・・・」
「・・・・・・・・あ、えーっと。海なら明日ご案内しますよ私!」
「は?」
「だからとりあえず今日は寝ましょう!私1人暮らしですし、私の布団どうぞ!」
「・・・・・・・でも、よい」
「家もボロですが布団もボロ!でもないよりマシですよたぶん!それにほら、明日になったら戻ってるかもですよ!」
ね、と言い聞かせるように言ってみたんだけど、
「外で十分だよい」
と言っておっさんは出ようとする。
「あ、でも外で寝てたら警察に職質されて捕まっちゃいますよ」
ただでさえ怪しいのに。
「・・・・・・・・あんたは、いいのかい?」
「ぼろいし狭いですけど、それでいいなら」
「さっきも言ったが俺は海賊だよい」
「うん、聞きましたねそれ」
「・・・・・・怖くねえのかい」
・・・・・・・・・結構いい人?
気遣ってくれてるっぽい。
「怖いか怖くないかわかんないんで知りたいんです。私海賊さんって会うの初めてだし」
「この辺には来ねェのかい?」
「来ないですねえ、全然」
「・・・・・・・・・そうかい」
ぽつり、と呟いたおっさんは寂しそうだった。
やばい、元気づけなきゃ!
「あああ!なので!寝ましょう!あ、その前に何か食べます!?」
「・・・・・・・・・世話になるよい」
「ど、どぞっ、座ってください!散らかってますけど!」
散らかってます。
それは社交辞令でも何でもない。
ただの真実だ。
あえて言わせてもらえるなら、
足の踏み場はあるよ。的な。
おっさんは周りを見渡して、
「・・・・・片付けくらいならさせてもらうよい」
「・・・・・・・・・・・・・すみません」
いたたまれない。
さらに私は、
「ちなみに私料理苦手なんで冷凍物ですが・・・・」
「文句は言わねェよい」
「有り難う御座います・・・・」
というか、家事全般苦手。
料理はほぼ外食かコンビニもの。
たまにスーパーの半額物狙っていったりする。
だって1人分なら作るより買ったほうが安く済むもーん、なんて言い訳して数年。
おかげで貯まるもんも貯まらない。
男の人だし筋肉あるしいっぱい食べるかな?
この間冷凍半額のときに買っておいたから揚げとチャーハンを出して、電子レンジに入れた。
ちら、と部屋を覗いて見ると、
何とも器用にてきぱきと片付けてくれてるおっさんがいた。
・・・・・・・そういえば私、まだ名前聞いてない。
ピーッと音がして、熱々のチャーハンとから揚げを持っていった。
「さあどうぞ!!」
「・・・・・・いただく、よい」
「どうぞ!」
冷凍物チンしただけだから全然威張れないけどね!
「・・・・・・・美味いよい」
ふ、と笑ってくれた。
その顔が優しくて、ほっとした。
「あ、申し遅れました私アコといいます」
「マルコ、だよい」
「マルコさん、ですね。色々聞いてもいいですか?」
「・・・・・・全部には答えられねえよい」
「あ、勿論答えたくないことには無言で結構です」
マルコさんはぱくぱくとチャーハンを食べながら淡々と会話してくれる。
「海賊って普段何してるんですか?」
「あー・・・・飲んだり食ったり、戦ったり、だよい」
「どんな物食べてるんですか?」
「肉、魚。野菜に果物だねい」
「結構普通ですね」
「美味い飯を作るコックが居るんだよい」
「へー・・・・・ちなみに」
「・・・・・・・何だい」
「その・・・・・よい、っていうのは何か意味が?」
思い切って気になってたことを言って見たらじろりと睨まれた。
「・・・・・・・・ただの口癖だい。気にするな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
マルコさんは何だかんだ言いながら、
私の質問にほとんど答えてくれて、
夜はどうしても譲らなかったので、
私が自分の布団、
その隣に敷いた薄い座布団の上でマルコさんが寝ることに。
・・・・・・・・・寝顔は何だか可愛くて、
ドキドキして少し眠れない夜でした。
・・・シャンプー買っておけばよかった。
+眠れない夜 終+
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