自由を求めて三千里
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「あ、おはよう御座います」
ご飯を食べ終えて洗濯物を干していたら、
船長さんが見えた。
何となく気恥ずかしいものを感じながら挨拶したら、
「ああ、おはよう」
爽やかに挨拶を返してくれながら、
「わ、」
ほっぺにちゅー。
「これくらいいいだろう?」
俺の女、なんだからな。
そう言って笑って船長さんは軽やかに笑う。
「や、いいんですけど・・・・心臓に悪いです・・・!!」
「だっはっは、そりゃ悪かった。それよりいい天気だなァ」
「ですねー。洗濯日和です」
雲ひとつない青空を見上げて呟けば、
船長さんは変な顔をした。
「アコ、いいのか?」
「え、何がですか?」
「無理しなくていいんだぞ?」
「無理・・・・ですか?」
はて、何のことでしょう。
首を捻る私に船長さんが言う。
「1人で背負わなくても、他の奴らにもやらせりゃいいだろう、洗濯とか」
「無理は・・・・してないですよ、今は」
うん、してない。
「そんなに洗濯好きか?」
「洗濯が好き・・・・っていうより、ここでするのが好き、なんです」
「ここで?」
「・・・・・・・・・ここに来たばっかりの頃は、実は結構大変でした」
洗濯、掃除。
量も全然違うし、勝手も違う。
わからないことばかりだったし、
かなり大変だった。
「でも頑張ってたのは、居場所を作る為でした」
私の居場所をここに作らないと、と。
必死だった。あの頃。
「だから船長さんに、そんなことしなくても誰も追い出そうとしない、って言われてドキッとしたんです」
でも同時に嬉しくもなった。
「今は違うのか?」
「今はもう慣れましたし、皆声かけてくれたり・・・・有り難う、って言ってくれるから」
大丈夫かー?何か手伝うぞ。とか。
いつも悪いな、助かるよ!って。
「だから・・・洗濯が好きな訳じゃないですけど、ここでの洗濯は好きです」
そう言って笑えば、
頭に乗った船長さんの手が私の髪をくしゃりと撫でた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねェか。よし、今夜は宴だな!付き合えよアコ」
「あはは、今夜も、ですね!お付き合いしますとも!」
「何なら俺の膝で飲めばいい」
「あ、それはやめときます」
「じゃあ俺の隣な。見せ付けてやんねェとなァ、あいつらに」
そのままぎゅうっと抱きしめられた。
うぅ、恥ずかしい!!
「せっ船長さん・・・・っ!!」
恥ずかしさに思わず名前を呼んだら、
「・・・・・・・・アコ、それなんだが」
「え?」
船長さんは私に何かを言おうとして、
「・・・・・・・・・いや、何でもない」
「・・・・・・・そう、ですか?」
「ああ。朝飯は?食ったのか?」
「あ、はい。頂ました」
「そうか・・・じゃあ俺は飯でも食ってくるかな」
「はい、行ってらっしゃい」
「ん。行ってくる」
何か言いたそうにしながら、それでも船長さんはそのまま食堂に向かって歩いていった。
そんな姿を見送って、
少しだけ幸せな気分。
誰かと付き合うとか、恋愛関係になるなんて。
今までなかったことだから、新鮮。
これからは、抱きしめられたりキスされたりすることが当たり前になるんだなぁ。
少しだけ不安で、かなり楽しみ。
「酒」
「・・・・・・・・嘘ですよねお頭」
「飲みてェなー酒」
あからさまに顔を引きつらせるコックに催促するも、
「朝から仲間困らせるな」
呆れた声で隣に立った、ベン。
「・・・・・わかってるけどよォ、ベン」
「そもそもそれはめでたい方か?それとも」
「どっちもだ」
それとも、の方なんか聞きたくもねェ。
「どっちも?」
どかっと座って朝飯に手をつける。
・・・・・アコのスープ美味かったな、なんて思っちまうのは仕方のないことだ。
「昨日俺の女になった」
「で?」
「・・・・・・・・無理やり、したんだ」
掃き捨てるように呟けば、
「ふん」
鼻で笑いやがった。
「・・・・・・・お前な、もうちっと俺を励まそうって気にならねえか?」
「無理やり襲ったのか?そりゃよくやった」
「・・・・・・・襲いてーなー」
「おい」
「アコが頼まれたら断れないのをいいことに、俺の女になれって言ったんだ、俺ぁ」
「卑怯な自分に嫌気がさしたか?」
「卑怯でも何でもいい、アコを俺のモンにしちまおうってことしか考えてなかったさ」
「なら問題ねェな」
「山積みだ、問題は」
「・・・・・・何が言いたい」
苛立つベンに苦笑する。
俺だってあん時は、何も考えなかった。
今までは待ってた。
待つ余裕があった。
でもあの時、アコに好きなやつが出来たのかと思った瞬間。
もう待てないと悟った。
元々俺は海賊だ。
欲しいモンは奪ってでも手に入れりゃあいい。
そんなことに疑問も持たず、
アコを俺のモノにした。
だが、
「まずアコが俺の名前を呼ばないことだな。いまだに船長さん、だぞ?」
「・・・・・・・だから何だ」
「言えねェもんだなァ・・・・俺にも罪悪感っつーのがあったとは思わなかった」
名前で呼んでくれ、と言えない。
「触れるのにもためらいが出る。キスすると身体が震えるんだよアイツ」
せっかく手に入れたっつーのに・・・・いや、
手に入れたからこそ怖がらせたくない。
嫌われたくない。
そもそも俺は好き、の一言ももらってねェんだぞ。
洗濯するのは好きーとか言ってたがな。
情けないことこの上ないぜ。
目の前で、はああああ、と深いため息が聞こえた。
俺は知らん顔で続ける。
「何より・・・・アコに海賊っつーのを背負わせちまった」
アコが今それをどれだけ理解してるかはわからないが。
「・・・・・・・・・ならとっとと手放しちまえ。スッキリするだろう」
「それが出来ないから悩んでんだよベンちゃん」
「・・・・付き合ってられるか」
煙草をふかしながらベンはさっさと行ってしまった。
・・・・・・冷てェなァ。
「・・・・・お頭、今の」
ベンと入れ違いに座ったのは、トレバー。
「おう、トレバー」
「アイツから好きだと言われた訳じゃなかったんですか」
「・・・・・・・ああ。卑怯な手を使った。怒るなら怒っていいぞ」
アコと親しいトレバーのことだ、
もしかしたらアコの好きな奴はトレバーだったのかもしれない、と思う。
「・・・・・・アイツは、嫌なことは嫌だと言う奴だと思いますがね」
「・・・・・・・・・いい奴だなあ、トレバー」
冷たいベンとは違って。
「アイツは馬鹿で間抜けだが、芯は強い。そこだけは買ってるんですよ。面倒くさいですがね」
「いやー可愛いぞアコは」
「・・・・・・・・・そりゃ何よりで」
アコの可愛さをいかに語ろうかと口を開いたとき、
「船長さんっ」
聞こえた愛らしい声。
「アコ?」
「あの、洗濯物置きついでにお部屋で待っててもいいですか?」
「ああ、すぐに行く」
「はい!あ、でもお食事はごゆっくり!」
そう言ってにっこり笑いかけて去って行く。
「・・・・・・・・な、可愛いだろ?」
早速トレバーに話しかけるも、
食後のお茶をすすりながらしきりに首を捻るトレバーだった。
罪悪感も、
違和感も。
今は気にしないことにした。
+見ないふり、知らないふり 終+