自由を求めて三千里
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「あ」
するりと私の手から滑り落ちた船長さんお気に入りのお酒の瓶は、地面に落ちてガシャンと音を立てた。
「あああああああ・・・・・・!」
どどどどうしよう!!
いくら海賊にしては温厚で優しい船長さんでも、
お酒好きな人だから・・・!
お気に入りのお酒を割ったなんて知られたらきっと悲しむ。
ショック受ける、よね。
・・・・・・・・・・・どうしよう。
夜の宴中、手元にお酒がなくなったから適当に持ってきてくれないか、と言われて喜んで取りに来たものの。
・・・・・・・・とりあえず割れた瓶が危ないから掃除をしよう。
ガラスの破片を手に取って、
「痛っ」
指に刺さったらしい。
血が出た。
「何してる、アコ」
後ろから声をかけられて思わず肩が跳ねた。
「あ、トレバーさん。申し訳ないんですけどこのお酒船長さんのとこに持って行って頂けませんか?」
トレバーさんは怪しげに私を見つめてて。
それでも代わりになりそうなお酒を怪我してない方の手で手渡すと、
「わかった」
と受け取ってくれた。
去っていくトレバーさんの後姿を見送って、ふう、とため息。
怪我はたいしたことなかったらしく、血はすぐに止まった。
片付けもほぼ終わったし、
・・・・・・・・・・とりあえず部屋に戻った。
持ってきた荷物からお財布を出して。
中身を確認。
・・・・・・・・・・・・次に着いた島で、1番いいお酒っていくらするんだろう。
この金額で買えるもんなんだろうか。
否、買える訳がない。
絶望に打ちひしがれたその時ドアのノック音がした。
「おーいアコ、お頭が心配してたぞー」
ヤソップさんの声だ。
「あ・・・・・はい」
・・・・返事はしたけど、このまま戻れない。
何か私駄目過ぎて。
顔、合わせられない。
ドアを開けて、廊下に誰も居ないのを確認して部屋を出た。
・・・・・・私にはもう、あそこしかない。
「アコはどうした?」
酒を取ってくると言いながら、
持ってきたのはトレバーだった。
ヤソップが部屋に入るのを見かけたらしく、声を掛けたら返事はした、と言っていたが。
遅すぎる。
「色々あるんだろ、女ってのは」
「・・・・ベンが女を語るってのは不思議なモンだな」
「ほっとけってことだ」
それもそうか、と納得しかけた時、
トレバーが思い出したように口を開いた。
「そういやアイツ、指怪我してたような」
「怪我?」
「ガラスの破片の掃除してたみたいですよ」
「ガラス?何でまた」
「お頭の好きな酒でも割っちまったんじゃないですか」
「・・・・・・・ちょっと見に行って来る」
嫌な予感がする。
まさか責任とって死ぬ、とかはないだろうが。
アコの部屋まで行って、
「アコー?居るかァ?」
声をかけてみるが、返事はない。
・・・・・・・・俺の部屋、ってこともねェだろうから。
あそこ、だな。
頼む居てくれ、と願いながらその部屋のドアを開けた。
たくさんある荷物の中の1つ。
目をつけて開く、と。
「・・・・こりゃ驚いた」
「・・・・こりゃ驚いた」
なんて言いながら酷く優しく船長さんが笑って、そこに居た。
驚いたのこっちなんですけど!
「・・・・・・・・・・・・あ。えーと」
まさか自分の居場所がバレるなんて思ってなくて。
でも何処か心の中で、ああ初めて船長さんに見つかった時と同じだなあなんてのんびりしたことを考えてた。
「宴に戻って来ないと思ったらこんなとこで何やってんだ、アコ」
それから船長さんは少し怒ったような顔をする。
「・・・・・・・反省を少々」
「怒らねェから、出て来い」
あの時と同じ、倉庫の中の荷物の1つ。
その中に私は隠れた。
「や、むしろ怒って下さい」
「・・・・酒を割ったのを怒られんのが嫌でこんなとこに居たんじゃないのか?」
「・・・・・怒られるのも半殺しにされるのも覚悟してます」
あ、やっぱりそれもバレてる。
ただ今は1人で居たかった。
・・・・・・・本当は何より1番に謝らなきゃいけないのに。
「じゃあ何でこんなとこに1人で居るんだ?」
「・・・・仲間だ、って言ってくれたのに。自分の駄目っぷりに自信喪失、といいますか」
言い終わったところで、
「ふおおおお!?」
身体が宙に浮いた。
引き上げられた、というべきか。
船長さんの片腕だけが、私の身体を支えてて。
すごい、力だ。
「仲間だって思ってくれてんならちゃんと戻って来い」
すとん、と地面に降ろされて力が抜けた。
「・・・・・・・・はい、皆の前でちゃんと謝ります」
「そうじゃない。一緒に飲んで騒げ」
今はしっかりとお叱りを受けて、皆の前で謝ろう。
そう覚悟した私に船長さんは真面目な顔で何を言うのか。
「それが仲間ってもんだ」
「・・・・・・・・・・・・・船長さんカッコイイ」
「おう、まあな。ほら、もう気が済んだろ?行くぞ」
ぽんぽん、と私の頭を叩いて。
嬉しそうな笑顔の船長さんは、それから、
「あ。そーいやお前怪我してんだったな。先に船医んとこだな」
「え?何でそれまでバレてるんですか!?」
「トレバーが言ってたぞ。皆見てんだよ、仲間のことはな」
にし、と子供のように笑う船長さんを見てこみ上げるこの気持ちは何だろう。
心が震える、というか。
ああ、すごい人だなあ。
「船長さん」
「ん?」
「お酒、ごめんなさい。有り難う御座います」
すんなりと出て来た言葉は、
きっと船長さんが言わせてくれた、私の言葉。
次の島に着くまで、
あと1週間。
+震える 終+