自由を求めて三千里
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「あんた、ちょっと来てくれ」
洗濯を終える頃何とも愛想のない顔で知らない人に呼ばれた。
この船にもこんな人居たんだなーなんて思いながら呼ばれるままついていくと、埃臭い倉庫のような場所に通された。
「・・・・・ここは」
「あんたにはこれから島に着くまでここで生活してもらう。ここから出ることは俺が許さない」
厳しい顔でその人がそう告げる。
ああ、そういうことか。
「ご飯は?」
「持ってくる」
「トイレは」
「・・・・許可する」
「暇つぶしに何か出来ること」
「本でも持って来てやる。ただし見張りはつけさせてもらうぞ」
「有り難う御座います」
ぺこりと頭を下げれば、目の前で怪訝な顔をされた。
・・・・・・・・・・あれ、失礼なこと言ったかな。
「抵抗しないのか」
「・・・・する必要がないです。元々私の目的は次の島まで行くことだし、乗せてもらえるなら何処でも」
元々見つかる予定はなかった。
こっそりバレないように隅っこの部屋で暮らしていくはずだった。
だからこんな明かりのある部屋で堂々とご飯も貰えてトイレにも行けて、なおかつ本も読ませてもらえるなんてそれだけで満足。
けれど男の人はますます胡散臭そうな目で私を見る。
「怪しすぎるんだよ、お前は。そんな奴をお頭に近づけさせる訳にはいかねえんだ」
「でしょうねえ」
そもそも他の人達が今まで怪しまなかったことが不思議なくらい。
「言う通りにしてもらえれば何もしない。・・・悪いな」
やっぱり無愛想な顔で、冷たい口調でそう言い放ってドアを閉めたその人は、正しい。
むしろ優しいくらいだ。
「ごほっ」
空気を吸うと咳が出た。
埃っぽいんだよねえこの部屋。
あらかたの場所は掃除したつもりでいたけど、こんな部屋もあったんだ。
こんなとこでご飯食べるの嫌だし、と私は掃除を始めることにした。
ドアの前に居る見張りの人に声をかけて、簡単なホウキとちりとり、雑巾をもらった。
「よし、こんなもんかな」
とりあえず、といったとこまでは綺麗になった。
うん、満足。
あんまり面白くないけど暇だから差し入れてもらった本でも読もうかなと、何冊かあるうちの1冊を手に取った時、
外で騒ぐ声が聞こえた。
なんだろ、喧嘩かな。それとも襲撃とか。
ま、いいかと本に目を落としたその時。
バン!とすごい音がして、目を向けるとドアが開いていて。
「何してるんだ、アコ」
「あ、船長さん。今本読もうと思ってたんですよー」
どうやらドアを乱暴に開けたらしい船長さんが怖い顔で立っていた。
「この部屋から出るな、と言われたな?」
「え、はい」
「何故俺に言わなかった?」
「・・・・・え、だって。ここに居ていいって言われたから」
睨みつける船長さんをじっと見つめ返しながら答える。
「嫌な時は言えって言った筈だ」
「・・・・嫌じゃないですよ?」
「監禁が?」
「だって、ご飯も食べれる、トイレにも行ける、本も読めます。明るいし。海に落ちろって言われたらそりゃ断りますが」
平然と言い返す私に、はあああ、と船長さんはとても長いため息を吐いた。
そして、
「ぎゃっ!!」
こつん、と頭を殴られた。
本当に軽く、で。
痛くはなかった。
声が出たのは驚いたから。
「仲間だ、って言っただろう?仲間をこんなとこに閉じ込められるか馬鹿」
また、仲間って言われた。
真剣な顔で。
私はそんな船長さんを不思議な気持ちで見つめる。
「でも・・・あの人は私を仲間だと思ってくれてません」
「ああ、だろうな。だいたいのことはトレバーから聞いた」
ちら、と後ろを見た船長さんの視線の先にはさっきの人。
トレバーさん、ていうのか。
「じゃあ、」
「だからお前の口から言え、アコ」
どん、と背中を押されてその人の前に突き出された。
言え、って何を。
仲間にして下さい、とか?
いやいや。
私を睨むように見つめるその人に、私が言うべきこと。
「・・・・私、やっぱり自分が間違ってるとは思いません」
「アコ」
「だって普通に考えたら怪しいですよこんな女」
船長さんの批判を含んだ声に私は抗議する。
「でもね、トレバーさん。あなたも見くびりすぎです。貴方がたの船長さんはこんな女にやられるような人じゃないでしょうに」
トレバーさんの視線に負けじと私も睨み返す。
「・・・・・・そうだな、悪かった」
ふ、と視線を逸らしたトレバーさんはふう、と諦めたようなため息を吐いた。
「いえいえ、私も悪かったんでお互い様です」
「は?」
きょとん、とするトレバーさんと船長さんに、苦笑しながら説明する。
「トレバーさんと船長さんに言ったこと、本音でしたけど・・・半分だけでしたから」
「半分?もう半分は?」
「半分はやっぱり寂しかったですねー」
この間の賑やかさと、温かさを知ってしまったから。
本当は少し寂しいと、思ってた。
「ほら見ろトレバー」
「・・・・・・まったくお頭には敵いませんや」
そう言ってトレバーさんは苦々しく笑った。
何がほら見ろ、なのかはわかんないけど。
「トレバー、さん」
「・・・・・・何だ」
「私この部屋使ってもいいですかね?」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
「せっかくご用意して下さった部屋だし、片付けもしたし。ここで暮らせると思うんですよねー」
駄目ですかね?と聞いてみれば、2人が揃って大きく口を開けた。
「お頭、申し訳ないが俺には手に負えない仲間のようだ」
「まあそう言うな。面白いだろ?」
「は、確かに。しかしお前・・・こんなとこでいいのか?」
「十分です!」
「お頭がいいなら、俺は別にいい」
トレバーさんの表情が最初に会った時よりたぶん柔らかくなったような気がする。
「船長さん、いいですか?」
私は勿論船長さんが頷いてくれるものと思っていたら、
「駄目だ」
と言う。
「何で、ですかね」
おずおずと聞いてみれば、
「俺が寂しくなるだろう」
がっくりと肩を落として。
トレバーさんを見れば、
ばっちり目が合って、少しだけ一緒に笑った。
+十分です 終+
洗濯を終える頃何とも愛想のない顔で知らない人に呼ばれた。
この船にもこんな人居たんだなーなんて思いながら呼ばれるままついていくと、埃臭い倉庫のような場所に通された。
「・・・・・ここは」
「あんたにはこれから島に着くまでここで生活してもらう。ここから出ることは俺が許さない」
厳しい顔でその人がそう告げる。
ああ、そういうことか。
「ご飯は?」
「持ってくる」
「トイレは」
「・・・・許可する」
「暇つぶしに何か出来ること」
「本でも持って来てやる。ただし見張りはつけさせてもらうぞ」
「有り難う御座います」
ぺこりと頭を下げれば、目の前で怪訝な顔をされた。
・・・・・・・・・・あれ、失礼なこと言ったかな。
「抵抗しないのか」
「・・・・する必要がないです。元々私の目的は次の島まで行くことだし、乗せてもらえるなら何処でも」
元々見つかる予定はなかった。
こっそりバレないように隅っこの部屋で暮らしていくはずだった。
だからこんな明かりのある部屋で堂々とご飯も貰えてトイレにも行けて、なおかつ本も読ませてもらえるなんてそれだけで満足。
けれど男の人はますます胡散臭そうな目で私を見る。
「怪しすぎるんだよ、お前は。そんな奴をお頭に近づけさせる訳にはいかねえんだ」
「でしょうねえ」
そもそも他の人達が今まで怪しまなかったことが不思議なくらい。
「言う通りにしてもらえれば何もしない。・・・悪いな」
やっぱり無愛想な顔で、冷たい口調でそう言い放ってドアを閉めたその人は、正しい。
むしろ優しいくらいだ。
「ごほっ」
空気を吸うと咳が出た。
埃っぽいんだよねえこの部屋。
あらかたの場所は掃除したつもりでいたけど、こんな部屋もあったんだ。
こんなとこでご飯食べるの嫌だし、と私は掃除を始めることにした。
ドアの前に居る見張りの人に声をかけて、簡単なホウキとちりとり、雑巾をもらった。
「よし、こんなもんかな」
とりあえず、といったとこまでは綺麗になった。
うん、満足。
あんまり面白くないけど暇だから差し入れてもらった本でも読もうかなと、何冊かあるうちの1冊を手に取った時、
外で騒ぐ声が聞こえた。
なんだろ、喧嘩かな。それとも襲撃とか。
ま、いいかと本に目を落としたその時。
バン!とすごい音がして、目を向けるとドアが開いていて。
「何してるんだ、アコ」
「あ、船長さん。今本読もうと思ってたんですよー」
どうやらドアを乱暴に開けたらしい船長さんが怖い顔で立っていた。
「この部屋から出るな、と言われたな?」
「え、はい」
「何故俺に言わなかった?」
「・・・・・え、だって。ここに居ていいって言われたから」
睨みつける船長さんをじっと見つめ返しながら答える。
「嫌な時は言えって言った筈だ」
「・・・・嫌じゃないですよ?」
「監禁が?」
「だって、ご飯も食べれる、トイレにも行ける、本も読めます。明るいし。海に落ちろって言われたらそりゃ断りますが」
平然と言い返す私に、はあああ、と船長さんはとても長いため息を吐いた。
そして、
「ぎゃっ!!」
こつん、と頭を殴られた。
本当に軽く、で。
痛くはなかった。
声が出たのは驚いたから。
「仲間だ、って言っただろう?仲間をこんなとこに閉じ込められるか馬鹿」
また、仲間って言われた。
真剣な顔で。
私はそんな船長さんを不思議な気持ちで見つめる。
「でも・・・あの人は私を仲間だと思ってくれてません」
「ああ、だろうな。だいたいのことはトレバーから聞いた」
ちら、と後ろを見た船長さんの視線の先にはさっきの人。
トレバーさん、ていうのか。
「じゃあ、」
「だからお前の口から言え、アコ」
どん、と背中を押されてその人の前に突き出された。
言え、って何を。
仲間にして下さい、とか?
いやいや。
私を睨むように見つめるその人に、私が言うべきこと。
「・・・・私、やっぱり自分が間違ってるとは思いません」
「アコ」
「だって普通に考えたら怪しいですよこんな女」
船長さんの批判を含んだ声に私は抗議する。
「でもね、トレバーさん。あなたも見くびりすぎです。貴方がたの船長さんはこんな女にやられるような人じゃないでしょうに」
トレバーさんの視線に負けじと私も睨み返す。
「・・・・・・そうだな、悪かった」
ふ、と視線を逸らしたトレバーさんはふう、と諦めたようなため息を吐いた。
「いえいえ、私も悪かったんでお互い様です」
「は?」
きょとん、とするトレバーさんと船長さんに、苦笑しながら説明する。
「トレバーさんと船長さんに言ったこと、本音でしたけど・・・半分だけでしたから」
「半分?もう半分は?」
「半分はやっぱり寂しかったですねー」
この間の賑やかさと、温かさを知ってしまったから。
本当は少し寂しいと、思ってた。
「ほら見ろトレバー」
「・・・・・・まったくお頭には敵いませんや」
そう言ってトレバーさんは苦々しく笑った。
何がほら見ろ、なのかはわかんないけど。
「トレバー、さん」
「・・・・・・何だ」
「私この部屋使ってもいいですかね?」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
「せっかくご用意して下さった部屋だし、片付けもしたし。ここで暮らせると思うんですよねー」
駄目ですかね?と聞いてみれば、2人が揃って大きく口を開けた。
「お頭、申し訳ないが俺には手に負えない仲間のようだ」
「まあそう言うな。面白いだろ?」
「は、確かに。しかしお前・・・こんなとこでいいのか?」
「十分です!」
「お頭がいいなら、俺は別にいい」
トレバーさんの表情が最初に会った時よりたぶん柔らかくなったような気がする。
「船長さん、いいですか?」
私は勿論船長さんが頷いてくれるものと思っていたら、
「駄目だ」
と言う。
「何で、ですかね」
おずおずと聞いてみれば、
「俺が寂しくなるだろう」
がっくりと肩を落として。
トレバーさんを見れば、
ばっちり目が合って、少しだけ一緒に笑った。
+十分です 終+