拝啓、取引様
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「おーい、新しい社長がおいでなすったぜ」
小さい台所でお茶の準備をしていたら、ヤソップさんのそんな声が聞こえた。
・・・シャンクスは、もうすぐここの社長になる。
その挨拶に来るって聞いてはいたけど。
・・・・何か、出るに出られない。
「言いたいことは1つだ。俺がこの会社の責任者になるからには」
・・・・続けて、何を言うのかと思えば。
「この会社は俺が守る」
どくん、と大きく心臓が動いた。
守る。
・・・・もしかして、って思った。
お茶を持ったまま台所で動けなくなった私に、
「おーい、社長にお茶頼むわ」
のんきなヤソップさんの声。
「・・・・はーい」
新しくお茶を淹れて、
さっき淹れた自分の分と一緒にお盆に乗せた。
・・・・行かなきゃ。
わかってるのに、足が動かない。
どうしよう。
止まったままの私の足元に、影が落ちた。
「あ・・・」
「ここに居たのか、アコ」
「ごめ・・・でも、あの、聞いてた、から」
「なら良かった。これから休憩か?」
「・・・おやつタイム」
「一緒にしても?」
「・・・・・・どうぞ。あ、これシャンクスのお茶」
「俺が持って行く、休憩室はあそこだったな」
「うん」
お盆ごと取られて、
2人で休憩室。
テーブルには試作品の和菓子が置いてあって、自由に食べられる。
「これ・・・私が考えたお饅頭」
「どれ」
ぱくりとシャンクスがお饅頭を口に入れる。
「美味いが・・・甘すぎないか?」
「そういうの目指したの。ものすごーく甘いのが食べたい時、一口で満足出来るようなの」
「なるほどな。これの予定は?」
「発売未定、です」
「アレンジして売り出そう。味はそのままでいい、見た目をもう少し変えてみるのもいいな」
真剣そのもののシャンクスから目が離せない。
「・・・・有難う、御座います」
そうだ、シャンクスはここの社長になる。
そう思って敬語にしてみたら、
シャンクスが苦笑した。
「まだ社長じゃねェし、そんな急に変えないでくれ」
「・・・シャンクス、聞いていい?」
「ああ、何でも」
「シャンクスが社長になったのって、もしかして・・・この会社を守る為?」
「・・・・そうだな」
「自惚れかもしれないけど、それって・・・・私の為?」
さっき思ったことを聞いてみれば、
「そうだ」
シャンクスは迷いもなく肯定した。
「私が、弱いから?」
「アコが弱いなんて口が裂けても言えないな。・・・俺が、守りたかったんだ」
嘘。
私が弱いから、きっと。
「前から思ってはいたが、金獅子の時に決めた。またいつどんな会社に狙われるかわからねェだろう」
「何で、そこまでしてくれるの」
「好きだから以外に必要か?」
「・・・・だって・・・だって私はっ・・・!」
私は、シャンクスのことを。
言いかけた私の頬に、触れた唇。
「俺のことを何とも思ってなくても気にするな。したいことしてるだけだ、俺が」
・・・・違うよシャンクス。
シャンクスのこと何とも思ってないことなんかない。
でも私は。
「・・・私、シャンクスが思ってるような人間じゃないよ」
「例えば?」
「適当だし平気で嘘もつくし、・・・ほっとけないって言うけど1人が好きだし」
「ま、普通だな」
「簡単に人の悪口言うし、酷いことも言うし・・・怪我とかすればいいのにって思ったことも何度もあるし!」
「よくあることだな」
「よくあるの!?」
「皆あるだろそれくらい。悪いがそんなことじゃ諦められないな」
「ええええ・・・・」
「他には?」
にこにこと笑みを浮かべながら続きを促すシャンクス。
「・・・えーっと、た・・・食べるの大好き」
「知ってる」
「自己中だよ!?」
「じゃあ見せてくれ」
「へ?」
「アコの自己中なとこを」
今!?どうやって!?
えーとえーと、周りを見渡して何をしようかと考えた。
目の前にあった試作品の和菓子。
これに手を伸ばして、
「これ全部持って帰るっ!」
だからあげないよ!と威嚇してみた。
「・・・・・ぶはっ、ははは!可愛いなァ」
「・・・・意地悪」
思わず呟いたら、頭にぽん、と大きな手が乗せられた。
「悪いな。だが・・・もう駄目なんだ」
「・・・駄目?」
嬉しそうなシャンクスが、私の顔をのぞき込む。
「アコじゃなきゃ駄目ってことさ」
その目があまりに真剣で優しくて。
・・・・泣きたくなった。
「・・・いつだっけ、退職日」
「明日だ」
「・・・・そっか。お疲れ様」
「これからは本格的にこっちに居るつもりだ。よろしく頼む」
「忙しくなるね」
「そうだな。・・・しばらくは仕方ないだろう」
・・・シャンクスが社長とか。
想像出来ないけど。
でもきっといい会社になるんだろう。
「それから社員が増えることは聞いてるか?」
「あ、うん。ヤソップさんから聞いた。シャンクスの信用出来る人なんでしょ?」
「アコも知ってる奴だ」
「・・・・え、誰?」
シャンクスがにやりと笑った。
「ベンだ」
「・・・・ベックマン?」
「ちょうど今の仕事を辞めたとこでな、声をかけてみた」
「やるって言ったの?ベックマンが?」
「合わねェよな、ベンに和菓子とか」
くつくつと楽しそうに笑い声をもらすシャンクスに、
私も想像してみる。
・・・・・渋い顔のベックマンに、
甘い和菓子。
しかも煙草好きだし。
・・・・でも、うん。
「頼りにはなりそう。的確な意見とかもらえるかな」
「愛想がねェから営業には向いてないがな」
「・・・だね」
「頼りにしてるんだ、ベンも・・・アコも」
「うん。・・・・頑張る」
「まあ、それはともかくだ、アコ」
「ん、何?」
「・・・ベンに口説かれたら報告してくれ」
「・・・・ないって」
「わかんねェだろ」
「・・・口説かれても、落ちないよ」
「・・・なら安心だな」
納得したのかどうかわからない複雑な表情で、
シャンクスが頷いた。
「じゃあそろそろ仕事戻るね、私」
「ああ、休憩中に悪かったな」
「どういたしまして。・・・・シャンクスになら、任せられるよ」
大好きなこの会社を。
だから、私。
決めたよ、シャンクス。
+安心して 終+