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「シャンクスのそういうとこ、大っ嫌い!」
・・・・予想はしていた。
殴られることも想定していた。
実際、殴られることはなかった。
・・・・・なのに、殴られるより痛ェな。
いつぶりに見ただろうか、アコのあんなに怒った顔は。
笑ったり泣いたり、必死な顔はよく見るが、
アコがあんなに怒ることは珍しい。
・・・それだけ俺が酷いことしたってことだな。
それがわかっているからこそ、
アコを追いかけることが出来なかった。
「フられたみてえだなシャンクス」
「・・・まだ諦めてませんよ、俺は」
「当たり前だ、うちの会社を辞めてまで選んだ女だ、しっかりやれ」
振り返ったら楽しそうな笑みを浮かべたロジャー社長が立っていた。
「勿論」
「ならさっさと追いかけろよ。それとも俺とルージュの話しでもしてやろうか?ん?」
「・・・・追いかけます。後お願いします」
今まで散々聞かされてきたんだ、
今度は俺が聞かせてやるさ。
ぴんぽーん。
インターホンが鳴った。
パーティでほとんど何も食べなかったから、お腹がすいていて、
何か食べようかと戸棚を探っていた最中のことだった。
・・・・嫌な予感がする。
足音をたてずにそっと玄関に向かって、
覗き窓を覗いてみたら。
案の定。
・・・・シャンクス。
会いたくない。
反応しないでいたら、
今度は携帯電話。
ぶるぶる、と震えた。
・・・・良かった、マナーモードにしておいて。
タオルに包んで、机の引き出しにしまった。
再び覗いてみたら、シャンクスの姿はなくなっていて。
・・・それでも食欲が、なくなった。
夜寝る前に思い出して携帯を出してみて驚いた。
着信・・・41件。
全部シャンクス。
あ、留守電も入ってる。
・・・ドキドキしながら留守電を聞く。
『アコ、今何処に居る?無事に帰ったんならそれでいい、声が聞きたい』
・・・・ごめんねシャンクス。
今の私には電話出来る勇気、ない。
翌朝、
周りを見ながら出勤した。
「おはようございます・・・」
今日の朝出勤は私とヤソップさん。
ヤソップさんは先に出勤していて。
「おう、お前昨日途中で帰ったろ?」
・・・・1番に聞かれたくないことを聞いてくる。
「・・・・ちょっと具合が悪くなりまして」
「勿体ねーなお前、あの後北京ダックとか出たんだぜ」
美味かったなーありゃ。
呑気に話すヤソップさんに、
「何で話してくれなかったんですか」
「あ?んなのわかる訳ねぇだろ、あの後北京ダックが出て来るなんてよ」
「・・・うちの会社が合併することです」
あの話を、問い詰める。
「・・・・聞いたのか」
「私以外の社員は納得済みと聞きました。何で私だけ・・・・っ」
「お前、反対するだろ」
「当たり前です!」
「だから黙ってたんだよ」
ヤソップさんは酷く冷たい視線を私に投げかけた。
そしておもむろに電話をかけ始める。
仕方なく仕事の準備をしようとして、
聞こえた名前に手を止めた。
「おう、アコ来たぜ」
・・・・私?
「ヤソップさん?相手誰ですか?」
何だか嫌な予感がして聞いてみるけど、
「まぁ、大丈夫だ」
それだけ電話口で言って受話器を置いた。
「・・・・ヤソップさん、今の」
「とにかく、お前以外は皆賛同してる。名前が変わってメンバーが少し増えるだけだ」
「そんなのっ」
「やることは変わらないんだ、気にすることねぇだろ」
「そんなの、勝手です・・・酷過ぎます!」
私の気持ち無視して、
2人で勝手に進めて。
「・・・どうして奴さんがそこまでするか知りたいか?」
「知りたいです」
「なら本人に聞くんだな」
「・・・・さっきの電話、シャンクス・・・ですよね」
「昨日夜にな、お前と連絡がつかないってんで出勤したら連絡くれって来たもんでよ」
・・・やっぱり。
「私今日帰ります」
「また逃げんのか」
「っじゃあアレの動き見てきます!」
ばたん!と乱暴にドアを閉めた。
・・・忘れそうだけど、今日はケーキの発売日。
会社近くのコンビニに入った。
さてうちの商品は何処だ、とスイーツコーナーに目をやった時、
「きゃあ可愛いー!」
おお、女子高生。
2人の女子高生は何かを見ながら騒いでいる。
「しかもすんごい美味しそう。あ、オーロジャクソンじゃんこれ」
え。
「待って、共同開発だって。・・・シロップって、和菓子のじゃん?」
「あーそうそう!あそこの和菓子うちのおばーちゃんとお母さんが好きって言ってた」
「和菓子屋が洋菓子に挑戦したの?ウケる!」
・・・・すみません、笑わないで下さい。
それ間違いなくうちの商品です。
「えーでも買って行こうかな」
「高くない?」
「ちょっとね。でもお母さんとおばーちゃん好きそうだし」
「私も食べてみたい。恋の味だって。恋したーい!」
「じゃあ私3つ買う!あんた1個買いなよ、うちで一緒に食べよう?」
「うん、そうしよー」
あ・・・・レジに持って行った。
・・・嬉しい。
ぼーっとしてたら、次にOLさんらしき女性の2人組が入って来た。
真っ先にスイーツコーナーに向かって、
「あーもうー絶対自棄買いするんだから」
「はいはい、やけ食いしなさいね」
・・・何かあったのかな。
「もう私絶対恋人出来ない気がする」
「1人にフられたくらいで大袈裟。ほら選びなって」
「あ、これ可愛い。もうこれでいいよ。今の私にぴったり」
「あーわかるわかる。恋ってのは甘いだけじゃないのよね。はいじゃあこれ買いなさい」
「買う。5個くらい買う。何か元気出そう」
・・・それも、きっとアレ。
「はいはい。じゃあレジ行くわよー」
・・・お姉さんが、5個アレを持ってレジに行った。
どうしよう、今すごくシャンクスに会いたい。
今の出来事を話したい。
・・・でも会いたくはない。
自分でも何言ってるんだ私とツッコミたくなる。
・・・次の店行こう。
「有難う御座いましたー」
店員さんの声を背中に受けて、
ごめんなさい私何も買ってませんすみません・・・と心の中で謝罪しながら店を出た。
その瞬間、
「アコ!」
大きい声で名前を呼ばれて目を見開いた。
・・・・会いたかった、会いたくなかった。
この場合どっちなんだろう。
鮮やかな赤い髪に戸惑う。
でもその赤い髪は、私の前に着くなり低くなった。
「え、」
「頼む・・・・話をさせてくれ」
・・・シャンクスが、頭を下げた。
深々と。
「あ・・・頭あげて?」
「アコが逃げないで話しをきいてくれるなら上げる」
・・・・本当にこの人は卑怯だ。
「逃げないから。・・・話し、聞くから」
通行人の目もあるし、このままなんて冗談じゃない。
シャンクスはゆっくりと顔を上げた。
「今時間あるか?」
「・・・・ないことはない」
「手短に済ませる。・・・そこの喫茶店に入ろう」
「・・・・わかった」
目の前の喫茶店に入った。
「俺が出すから好きなの頼んでくれ」
「・・・じゃあキャラメルパフェとアイスティー」
シャンクスはコーヒーとチョコレートケーキを頼んだ。
料理が揃うまではお互いに無言で。
全部来てから、私がパフェに手をつけた時、
「悪いのは全部俺だ。他の奴らを責めないでくれねェか」
シャンクスが話し出した。
「受けた時点で共犯だと思うけど」
「唆した俺が1番罪がある」
「・・・何でまたうちの会社と合併なの?新しくそのまま作ればいいのに」
何よりそれが1番の疑問でもあった。
「・・・そうだな、まず何より強く思ったのはアコと仕事がしたかったんだ」
「私と?」
「恋愛感情抜きにしても、今回一緒に仕事して楽しかった。それでだ」
「・・・あとは?」
「ヤソップやら他の人間と話していて、信用出来ると思った。新しいことを始めるには信頼出来る人間が必要なんだ」
「この間見学した時に・・・?」
「あァ、そんなとこだ」
・・・ほんとはもっと前からなのかもしれない。
「何で・・・・私に黙ってたの?」
「アコと働きたかったんだ、どうしても。だから反対するアコには話せなかった」
「私が・・・辞めるって言ったら?」
「・・・・辞めないでくれ、と頼むしか俺には出来ないな」
苦笑するシャンクスに、私は何て言えばいいんだろう。
「・・・私、シャンクスには本当に感謝してる。仕事も、一緒に出来て楽しかった」
「俺もだ」
「シャンクスのことは好きだけど・・・でも付き合えません」
思い切って、言ってみた。
「・・・・そうか」
「ごめん、なさい。でも仕事で私が必要なら・・・頑張るよ」
「助かるよ。・・・ただ、それなら俺は諦めないと言っておく」
「・・・・え?」
シャンクスは少しだけ寂しそうに笑んだ。
「嫌い、と言われたのならともかくだ。好きと言われたんだ。諦めきれねェさ」
・・・・だって、好きなんだもん。
嫌いなんて絶対言えない。
でも、
好きだなんて、
もっと言えない。
だって好きだから。
+だって 終+