Elysionのパロ夢小説
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
StarDust
(夢主 視点)
お揃いね私達。
これでお揃いね。
あぁ幸せ……。
一裕の真っ白な衣装 が真っ赤に染まっている。
私のワンピースと同じ、赤色。
お手製の銃からは白い煙が上がっていた。
私はとある歌をハミングする。
曲名……なんだっけ?
*****
一裕と出会ったのは、いつの頃だったか。
自宅から歩いて行ける距離にある雰囲気の良いバー。
カウンターに座って独りで飲んでいると、隣から溜息が聞こえてきた。
何気なく溜息が聞こえてきた方向に顔を向ける。
一つ空けた隣の席に、黒で統一された衣服を纏った、大柄の男性が座っていた。
その人こそ、藤原一裕その人だった。
私の視線に気が付いた一裕は、こちらへと顔を向ける。
自ずと目が合って。
お互い気まずそうに会釈しながら微笑み合った。
先に声をかけたのは私の方。
「どうかしましたか?」
「え……?」
「溜息が聞こえたので」
「ああ。ちょっと……フラれちゃいまして……」
一裕は情けない顔で笑った。
慰めてあげたい。
なんとなく、そう思って。
人見知りだった私は勇気を振り絞って、一裕と話をする事にした。
何を話したのかあまり覚えていない。
ただ、一裕と打ち解ける事が出来たのは何となく覚えてる。
それこそ、お互いタメ口で話せる程に。
「ミサって面白いな」
「一裕が聞き上手なんだよ」
思わずこちらも笑顔になった。
一裕は何気に腕時計を見る。
「あ……終電」
「あっ、無くなっちゃった? ごめん……」
「いや、ミサが謝る事ないけど……どないしよ」
困った顔をする一裕を見詰めながら、私はもう少し一裕と一緒に居たいと思ってしまった。
だから。
「あの……よかったら私の家、来ない?」
思い切ってそう提案してみる。
驚いた顔で私を見る一裕。
しかしその表情は嫌そうではなかった。
「ええの……? 一応、俺男やで?」
「大丈夫だよ、私は」
私達はバーを後にすると、私の家へと向かった。
「お好きな所に座っていいからね」
「ありがと」
一裕はリビングのソファに遠慮がちに腰をかけると、私はキッチンへと向かった。
「紅茶派? コーヒー派?」
「あ……えと、コーヒーでええよ」
「インスタントでも大丈夫?」
「おん。ありがと」
コーヒーが入った二つのマグカップを両手に持ってリビングへ向かい、テーブルにそれをコトッと置く。
「どうぞ召し上がれ」
一裕は取っ手を持ってマグカップに口を付けた。
「インスタントでごめんね……」
「いや、美味いで」
マグカップをテーブルに置き、一裕は部屋の中を見回す。
部屋の隅に積んである本を見つけた。
「本めっちゃあるな?」
「ああ、あれ? お仕事の資料だよ。私、こう見えて物書きなんだ」
「小説家ってこと!? 凄いやん!」
「凄い……かな? 重刷とかあんまりかからないし、売れっ子の作家さんに比べたら全然……」
凄い……か。
初めて言われた。
不意に髪に触れられ、私は驚いた顔で一裕の方を見る。
「スマン。ビックリした?」
「ちょっと……髪に何か付いてた?」
「いや、ちゃうけど……」
一裕の、その瞳に見詰められて。
「……もっと、触ってもええ?」
私の返答を待たずに、一裕は私の頬に触れる。
一裕の顔が近づてきて。
静かに唇が重なった。
一裕の唇は、想像以上に柔らかくて。
その後はよくある展開。
ソファの上で、熱く交じり合った。
──私は、一裕に恋をした──
*****
私はいつも赤い衣服を身に纏っている。
理由は簡単。
赤が好きだから。
一裕はいつも黒い服を着ている。
黒好きなのかな?
ダサい人の典型みたいなファッションだと思う。
そんな一裕の恰好をみながら、たまに思う事がある。
同じ赤い服を着て欲しいって。
「黒以外の服とか着ないの?」
「お洒落苦手やねん……どんな色が似合うとかも分からへんし」
「試着してみれば、何が似合うか分かるんじゃない?」
一裕をオシャレな服屋が立ち並ぶショッピングモールへと連れ出す。
服と、ついでにヘアメイクを見立てて上げた。
真っ赤な衣装
真っ赤な洋靴
一裕は戸惑った表情で、姿見に移る自分の姿を見てる。
「どう……なん? 似合ってる?」
「凄く似合ってる! カッコイイよ!」
その巨漢に抱きついた。
「ホント格好いい!」
「あ……ありがと」
お揃いね私達。
これでお揃いね。
あぁ幸せ。
君の黒い衣装 、今は鮮やかな深紅 。
──私は一裕を人形にして、ちっぽけな自尊心 を満たしていたのかもしれない──
*****
一裕のオフの日は必ず会うようになった。
「今日は何処へ行く?」
「映画なんてどう?」
「映画かぁ……」
一裕は難色を示した。
どうしてか尋ねてみると、一裕は彼女と映画に行くといつも観たい物が違って、口論になる事もあってトラウマ何だとか。
「なら、私が一裕に合わせるよ」
「ええの?」
「うん」
私が笑顔でそう言うと、一裕はどこか安堵したような顔をする。
良かった、と思った。
映画館に着くと、早速チケットを購入した。
一裕が選んだ映画は、女子受けせず、デート向きの映画でもなくて、口論になる理由が頷けた。
会場に入って席に着くと、程なくして徐々に暗転して映画が始まる。
デート受けも女子受けもしない作品だったけど、シリアスなシーンの合間に笑える場面があったりして、正直面白かった。
数時間後、映画が終わって会場内が徐々に明るくなる。
一裕の顔を見ると大粒の涙を流していた。
感動するシーンが最後の方にある映画だったので、その涙も頷ける。
私は持っていたハンドタオルを一裕に差し出した。
「ありがと……」
言いながら、一裕はハンドタオル受け取って涙を拭く。
会場を出ると外は暗くなっていた。
「ミサは泣かへんのな……詰まらんかった?」
「そんな事ないよ。……私、あんま泣かないんだ。感動はしてるんだけど、涙が出なくて」
「え、マジで? 昔から?」
「……多分」
「そっか。あ、ハンカチありがと。洗って返そか?」
「大丈夫だよ」
私は一裕からハンドタオルを受け取る。
「ミサは、どんな事があったら泣くん?」
「ん~……自分で言うのもなんだけど、余程の事がないと泣かない気がする」
「俺はいつか、ミサの涙が見れんのかな?」
「このまま一生一緒に居られれば、見れるかもね?」
「……せやな」
私は薄暗い夜道を、寄り添い歩いた。
「一裕って星は好き? 星が良く見える場所知ってるんだ。行ってみない?」
「今から?」
「うん!」
私は一裕の手を引いて駆け出す。
目指すは星が観える丘。
丘の上には木製の二人掛けのベンチがあって。
私達はそのベンチへと腰をかけた。
頭上には満天の星空。
「俺にとって……ミサは星みたいな存在かも知れへん」
「どういう意味?」
「手を伸ばしても届かへん存在」
一裕は夜空に手を伸ばして、グッと拳を握った。
「大袈裟じゃない? 私なんて精々屑星だよ」
「屑でもええやろ。星は星やんか」
夜空を見上げげる恋人 達。
ありふれた風景。
繰り返される恋模様。
ほんの些細なこと。
そんな気紛れなひと時を、永遠だと信じたりして。
そんな不確かなものを、運命だと信じたりして。
泣いたり。
笑ったり。
愛したり。
憎んだりして。
その束の間、遥か過去の光に思いを馳せたりして。
あの星々はもう、滅んでしまっているのだろうか?
それとも今もまだ、滅びに向かって輝き続けているのだろうか?
光年という名の途方もない尺度の前では、人の一生など、刹那の幻に過ぎないのかも知れない。
それでも良いと思った。
一裕の横顔を見る。
私には、星よりも輝いて見えるよ。
一裕と居る時間は、とても大切で。
それが、刹那の幻だったとしても。
──私達の恋は、本当に刹那の幻だった──
*****
「ミサは……結婚願望とかあんの?」
「結婚願望?」
私にとって、好きになった人=結婚相手って訳じゃない。
結婚と恋愛は別って言うけど、ほんとにそう。
「結婚願望はないかな。どっちにしても結婚とか、今は考えてないよ」
「そう……か」
「なんで?」
「……あ、いや。何でもないで」
そう言って少し残念そうな顔をする一裕は、何故だか遠くに行ってしまったような気がした。
無意識に焦って、その腕を掴む。
「え、何?」
「あ…………いや」
腕を放すと、逆に一裕がその手を掴んできた。
指と指が絡み合う。
視線が合って。
唇が重なった。
ベッドへと倒れ込む。
お互い赤い服を脱ぎ捨てて、その素肌を交じり合せた。
一裕に抱かれながら、不意に考える。
もし一裕が私以外の人と結婚したら……って。
想像した途端、強い不安感に襲われた。
どうしたらいのい……?
この不安感。
どうしたら、心が楽になる……?
一裕の首筋が目に入る。
その白い首を絞めたらどうなる?
きっと一裕は死ぬだろう。
そうしたら、一裕が他の女 に奪われる事はない?
考え終えるより先に手が動いた。
藤原の首に両手をかけて、力を思いっきり込めて締め付ける。
一裕は抵抗しなかったが、その表情が苦しそうに歪んだ。
首を締めれば、締まるに決まってじゃない。
月 が私を狂わせたの?
ハッと我に返り、一裕の首から手を放した。
一裕はゴホゴホと咳き込む。
「……ごめん……なさい」
「大丈夫……」
私はなんて事を……。
恐怖で身体が震えた。
「ミサ……どないした?」
「……」
そんな私の背中を一裕は優しく撫でてくれる。
それでも不安感が拭いきれない。
「ねぇ一裕……約束してもいい?」
「約束?」
「もし一裕が私以外の人と結ばれた時は、……その時は……報いを受けて」
おかしなこと言ってるって事は分かってる。
狂ってるって。
けど、そんな約束でもしないと。
それこそ気が狂いそうで──。
「わかった」
一裕は優しく頷いて、抱きしめてくれた。
きっと大丈夫。
そう言い聞かせても。
心の奥には未だに不安感が残っている。
──そんな私の事を、窓から差し込む月 が照らしていた──
*****
ある日突然、一裕に初めて会ったバーへ来てほしいと言われた。
私は赤いワンピースを着て、髪をセットして、化粧をする。
唇には真っ赤な口紅を塗って。
ルビーのイヤリングとネックレスを着けて。
ヒールの高い赤い靴を履いて、家を出てあのバーへと向かう。
入店して、店内を見渡すも、一裕の姿はなかった。
まだ来てないのかな?
カウンター席に腰をかけると、マスターが白い封筒を私に差し出してくる。
「……何ですか?」
「お連れ様からお預かりしました」
「お連れ様?」
何となく一裕からの手紙だと思った。
手紙を受け取り、ペーパーナイフを借りて封を丁寧に開ける。
中には白い便箋が一枚入っていた。
書かれている文字に目線を走らせる。
ミサへ
結婚します
ごめんなさい
今までありがとう
結婚?
誰と?
私と?
信じない。
信じないから……!
嘘……!
絶対に嘘……!
私は気が付くと、バーを飛び出していた。
街中を駆け回り、一裕を探す。
汗だくになっても探し続ける。
「ハァ……ハァ……」
荒くなった呼吸を整える為、一旦足を止めた。
そこは最近流行りの結婚式場の目の前だった。
楽し気な人々の声が聞こえる。
今日は休日だ。
大方、どこぞのカップルが結婚式でも上げているんだろう。
結婚式……結婚……。
一裕の手紙に書いてあった一文を思い出した。
『結婚します』
式場の高い柵に手をかけ中を凝視する。
言葉を失った。
そんな些細なこと。
されど偶然とはいえ。
嗚呼。
偶然とはいえ私は見てしまった。
お揃いの白い服を着て、幸せそうに寄り添い歩く。
一裕 と。
見知らぬ女の姿を──
式場では挙式を終え、ブーケトスが行われようとしていた。
新婦が握っているブーケトス用の花束は、結婚式には似付かわしくない真っ赤な薔薇で出来ていた。
背を向ける新婦の目の前に群がる若い女性達。
コツコツと足音をたてながらその人込みを塗って新婦へと近づく。
新婦がブーケを投げた。
そのブーケを片手で受け取る。
真っ赤な衣装
真っ赤な洋靴
真っ赤な口紅
真っ赤な薔薇
ざわつく参列者の声を聞いて、新郎──一裕も振り返った。
左手には花束。
右手には約束を。
お手製の銃を右手で握って、新郎へと向ける。
そして。
躊躇なく撃った。
弾丸は一裕の左胸に命中して。
一裕は真っ白な衣装 を赤く染めながら、地面へと背中から倒れ込んだ。
参列者達は一瞬静まり返り。
叫び声を上げながら一斉に何処かへと逃げ去った。
新婦は恐怖に震えながらも、瀕死の一裕に駆け寄る。
「美沙……逃げろ……」
「イヤ!!」
なに私の目の前でイチャイチャしてんの……!?
ああ、そっか。
新婦 も死にたいのね。
私は躊躇う事なく新婦を撃った。
「美……沙……?」
新婦はウェディングドレスを真っ赤に染めて、その場に倒れて動かなくなる。
私はその死体を蹴って、一裕から離した。
邪魔よ。
「ミサ……」
虫の息の一裕は、悲し気に私も見詰めてくる。
私は銃口を一裕の左胸に押し当てた。
「約束を……果たしに来たよ」
だってしょうがないじゃない。
愛してしまったんだもの。
星 が私を──狂わせたのは何故?
「愛してる……一裕」
一裕は目を見開いて驚く。
「ミサ……?」
何をそんなに驚いてるの?
ポタリと何かが地面へと落ちる。
よく見るとそれは、雫だった。
私……泣いてるの……?
走り出した衝動は──もう、止まらない!
私は残りの弾丸を一裕に撃ち込む。
弾丸は、一裕の左胸を撃ち抜いた。
鮮血が溢れ出し、真っ白なタキシードを真っ赤に染めていく。
愛を裏切ったら報いを受ける。
約束は果たしたわ。
お揃いね私達。
これでお揃いだね。
あぁ幸せ。
あなたの白い衣装 も、今は──
「何故……何故なの……」
乾いた血が、赤から黒くへ。
変色していく。
「何故なのよぉ!!!」
酸素に触れた赤は、やがて黒に近づき示す。
二人はもう永遠 に、一つには、なれないという事実を。
私は目蓋を閉じて、銃口をこめかみに宛がう。
そして、迷うことなく。
引き金を引いた──。
*****
目蓋を開くと、私は見知った場所に居た。
頭上に満天の星空が広がっている。
そこは一裕と星を見た場所だった。
私にとって一裕と一緒に居る時間は……楽園に居るようだった。
凍てついた銀瑠璃の星々。
燃上がる滅びの煌きよ。
亡くした楽園の夢を見る。
私を導け。
《星屑の幻灯 》
キラキラと輝く星を掴みたくて、私は空高く手を伸ばす。
──想い出を過去の光として埋葬出来ない限り、
孤独な亡霊は荒野を彷徨い続けるだろう。
女の手は悲しい程に短く 星屑には届かない──
THE END
(夢主 視点)
お揃いね私達。
これでお揃いね。
あぁ幸せ……。
一裕の真っ白な
私のワンピースと同じ、赤色。
お手製の銃からは白い煙が上がっていた。
私はとある歌をハミングする。
曲名……なんだっけ?
*****
一裕と出会ったのは、いつの頃だったか。
自宅から歩いて行ける距離にある雰囲気の良いバー。
カウンターに座って独りで飲んでいると、隣から溜息が聞こえてきた。
何気なく溜息が聞こえてきた方向に顔を向ける。
一つ空けた隣の席に、黒で統一された衣服を纏った、大柄の男性が座っていた。
その人こそ、藤原一裕その人だった。
私の視線に気が付いた一裕は、こちらへと顔を向ける。
自ずと目が合って。
お互い気まずそうに会釈しながら微笑み合った。
先に声をかけたのは私の方。
「どうかしましたか?」
「え……?」
「溜息が聞こえたので」
「ああ。ちょっと……フラれちゃいまして……」
一裕は情けない顔で笑った。
慰めてあげたい。
なんとなく、そう思って。
人見知りだった私は勇気を振り絞って、一裕と話をする事にした。
何を話したのかあまり覚えていない。
ただ、一裕と打ち解ける事が出来たのは何となく覚えてる。
それこそ、お互いタメ口で話せる程に。
「ミサって面白いな」
「一裕が聞き上手なんだよ」
思わずこちらも笑顔になった。
一裕は何気に腕時計を見る。
「あ……終電」
「あっ、無くなっちゃった? ごめん……」
「いや、ミサが謝る事ないけど……どないしよ」
困った顔をする一裕を見詰めながら、私はもう少し一裕と一緒に居たいと思ってしまった。
だから。
「あの……よかったら私の家、来ない?」
思い切ってそう提案してみる。
驚いた顔で私を見る一裕。
しかしその表情は嫌そうではなかった。
「ええの……? 一応、俺男やで?」
「大丈夫だよ、私は」
私達はバーを後にすると、私の家へと向かった。
「お好きな所に座っていいからね」
「ありがと」
一裕はリビングのソファに遠慮がちに腰をかけると、私はキッチンへと向かった。
「紅茶派? コーヒー派?」
「あ……えと、コーヒーでええよ」
「インスタントでも大丈夫?」
「おん。ありがと」
コーヒーが入った二つのマグカップを両手に持ってリビングへ向かい、テーブルにそれをコトッと置く。
「どうぞ召し上がれ」
一裕は取っ手を持ってマグカップに口を付けた。
「インスタントでごめんね……」
「いや、美味いで」
マグカップをテーブルに置き、一裕は部屋の中を見回す。
部屋の隅に積んである本を見つけた。
「本めっちゃあるな?」
「ああ、あれ? お仕事の資料だよ。私、こう見えて物書きなんだ」
「小説家ってこと!? 凄いやん!」
「凄い……かな? 重刷とかあんまりかからないし、売れっ子の作家さんに比べたら全然……」
凄い……か。
初めて言われた。
不意に髪に触れられ、私は驚いた顔で一裕の方を見る。
「スマン。ビックリした?」
「ちょっと……髪に何か付いてた?」
「いや、ちゃうけど……」
一裕の、その瞳に見詰められて。
「……もっと、触ってもええ?」
私の返答を待たずに、一裕は私の頬に触れる。
一裕の顔が近づてきて。
静かに唇が重なった。
一裕の唇は、想像以上に柔らかくて。
その後はよくある展開。
ソファの上で、熱く交じり合った。
──私は、一裕に恋をした──
*****
私はいつも赤い衣服を身に纏っている。
理由は簡単。
赤が好きだから。
一裕はいつも黒い服を着ている。
黒好きなのかな?
ダサい人の典型みたいなファッションだと思う。
そんな一裕の恰好をみながら、たまに思う事がある。
同じ赤い服を着て欲しいって。
「黒以外の服とか着ないの?」
「お洒落苦手やねん……どんな色が似合うとかも分からへんし」
「試着してみれば、何が似合うか分かるんじゃない?」
一裕をオシャレな服屋が立ち並ぶショッピングモールへと連れ出す。
服と、ついでにヘアメイクを見立てて上げた。
真っ赤な
真っ赤な
一裕は戸惑った表情で、姿見に移る自分の姿を見てる。
「どう……なん? 似合ってる?」
「凄く似合ってる! カッコイイよ!」
その巨漢に抱きついた。
「ホント格好いい!」
「あ……ありがと」
お揃いね私達。
これでお揃いね。
あぁ幸せ。
君の黒い
──私は一裕を人形にして、ちっぽけな
*****
一裕のオフの日は必ず会うようになった。
「今日は何処へ行く?」
「映画なんてどう?」
「映画かぁ……」
一裕は難色を示した。
どうしてか尋ねてみると、一裕は彼女と映画に行くといつも観たい物が違って、口論になる事もあってトラウマ何だとか。
「なら、私が一裕に合わせるよ」
「ええの?」
「うん」
私が笑顔でそう言うと、一裕はどこか安堵したような顔をする。
良かった、と思った。
映画館に着くと、早速チケットを購入した。
一裕が選んだ映画は、女子受けせず、デート向きの映画でもなくて、口論になる理由が頷けた。
会場に入って席に着くと、程なくして徐々に暗転して映画が始まる。
デート受けも女子受けもしない作品だったけど、シリアスなシーンの合間に笑える場面があったりして、正直面白かった。
数時間後、映画が終わって会場内が徐々に明るくなる。
一裕の顔を見ると大粒の涙を流していた。
感動するシーンが最後の方にある映画だったので、その涙も頷ける。
私は持っていたハンドタオルを一裕に差し出した。
「ありがと……」
言いながら、一裕はハンドタオル受け取って涙を拭く。
会場を出ると外は暗くなっていた。
「ミサは泣かへんのな……詰まらんかった?」
「そんな事ないよ。……私、あんま泣かないんだ。感動はしてるんだけど、涙が出なくて」
「え、マジで? 昔から?」
「……多分」
「そっか。あ、ハンカチありがと。洗って返そか?」
「大丈夫だよ」
私は一裕からハンドタオルを受け取る。
「ミサは、どんな事があったら泣くん?」
「ん~……自分で言うのもなんだけど、余程の事がないと泣かない気がする」
「俺はいつか、ミサの涙が見れんのかな?」
「このまま一生一緒に居られれば、見れるかもね?」
「……せやな」
私は薄暗い夜道を、寄り添い歩いた。
「一裕って星は好き? 星が良く見える場所知ってるんだ。行ってみない?」
「今から?」
「うん!」
私は一裕の手を引いて駆け出す。
目指すは星が観える丘。
丘の上には木製の二人掛けのベンチがあって。
私達はそのベンチへと腰をかけた。
頭上には満天の星空。
「俺にとって……ミサは星みたいな存在かも知れへん」
「どういう意味?」
「手を伸ばしても届かへん存在」
一裕は夜空に手を伸ばして、グッと拳を握った。
「大袈裟じゃない? 私なんて精々屑星だよ」
「屑でもええやろ。星は星やんか」
夜空を見上げげる
ありふれた風景。
繰り返される恋模様。
ほんの些細なこと。
そんな気紛れなひと時を、永遠だと信じたりして。
そんな不確かなものを、運命だと信じたりして。
泣いたり。
笑ったり。
愛したり。
憎んだりして。
その束の間、遥か過去の光に思いを馳せたりして。
あの星々はもう、滅んでしまっているのだろうか?
それとも今もまだ、滅びに向かって輝き続けているのだろうか?
光年という名の途方もない尺度の前では、人の一生など、刹那の幻に過ぎないのかも知れない。
それでも良いと思った。
一裕の横顔を見る。
私には、星よりも輝いて見えるよ。
一裕と居る時間は、とても大切で。
それが、刹那の幻だったとしても。
──私達の恋は、本当に刹那の幻だった──
*****
「ミサは……結婚願望とかあんの?」
「結婚願望?」
私にとって、好きになった人=結婚相手って訳じゃない。
結婚と恋愛は別って言うけど、ほんとにそう。
「結婚願望はないかな。どっちにしても結婚とか、今は考えてないよ」
「そう……か」
「なんで?」
「……あ、いや。何でもないで」
そう言って少し残念そうな顔をする一裕は、何故だか遠くに行ってしまったような気がした。
無意識に焦って、その腕を掴む。
「え、何?」
「あ…………いや」
腕を放すと、逆に一裕がその手を掴んできた。
指と指が絡み合う。
視線が合って。
唇が重なった。
ベッドへと倒れ込む。
お互い赤い服を脱ぎ捨てて、その素肌を交じり合せた。
一裕に抱かれながら、不意に考える。
もし一裕が私以外の人と結婚したら……って。
想像した途端、強い不安感に襲われた。
どうしたらいのい……?
この不安感。
どうしたら、心が楽になる……?
一裕の首筋が目に入る。
その白い首を絞めたらどうなる?
きっと一裕は死ぬだろう。
そうしたら、一裕が他の
考え終えるより先に手が動いた。
藤原の首に両手をかけて、力を思いっきり込めて締め付ける。
一裕は抵抗しなかったが、その表情が苦しそうに歪んだ。
首を締めれば、締まるに決まってじゃない。
ハッと我に返り、一裕の首から手を放した。
一裕はゴホゴホと咳き込む。
「……ごめん……なさい」
「大丈夫……」
私はなんて事を……。
恐怖で身体が震えた。
「ミサ……どないした?」
「……」
そんな私の背中を一裕は優しく撫でてくれる。
それでも不安感が拭いきれない。
「ねぇ一裕……約束してもいい?」
「約束?」
「もし一裕が私以外の人と結ばれた時は、……その時は……報いを受けて」
おかしなこと言ってるって事は分かってる。
狂ってるって。
けど、そんな約束でもしないと。
それこそ気が狂いそうで──。
「わかった」
一裕は優しく頷いて、抱きしめてくれた。
きっと大丈夫。
そう言い聞かせても。
心の奥には未だに不安感が残っている。
──そんな私の事を、窓から差し込む
*****
ある日突然、一裕に初めて会ったバーへ来てほしいと言われた。
私は赤いワンピースを着て、髪をセットして、化粧をする。
唇には真っ赤な口紅を塗って。
ルビーのイヤリングとネックレスを着けて。
ヒールの高い赤い靴を履いて、家を出てあのバーへと向かう。
入店して、店内を見渡すも、一裕の姿はなかった。
まだ来てないのかな?
カウンター席に腰をかけると、マスターが白い封筒を私に差し出してくる。
「……何ですか?」
「お連れ様からお預かりしました」
「お連れ様?」
何となく一裕からの手紙だと思った。
手紙を受け取り、ペーパーナイフを借りて封を丁寧に開ける。
中には白い便箋が一枚入っていた。
書かれている文字に目線を走らせる。
ミサへ
結婚します
ごめんなさい
今までありがとう
結婚?
誰と?
私と?
信じない。
信じないから……!
嘘……!
絶対に嘘……!
私は気が付くと、バーを飛び出していた。
街中を駆け回り、一裕を探す。
汗だくになっても探し続ける。
「ハァ……ハァ……」
荒くなった呼吸を整える為、一旦足を止めた。
そこは最近流行りの結婚式場の目の前だった。
楽し気な人々の声が聞こえる。
今日は休日だ。
大方、どこぞのカップルが結婚式でも上げているんだろう。
結婚式……結婚……。
一裕の手紙に書いてあった一文を思い出した。
『結婚します』
式場の高い柵に手をかけ中を凝視する。
言葉を失った。
そんな些細なこと。
されど偶然とはいえ。
嗚呼。
偶然とはいえ私は見てしまった。
お揃いの白い服を着て、幸せそうに寄り添い歩く。
見知らぬ女の姿を──
式場では挙式を終え、ブーケトスが行われようとしていた。
新婦が握っているブーケトス用の花束は、結婚式には似付かわしくない真っ赤な薔薇で出来ていた。
背を向ける新婦の目の前に群がる若い女性達。
コツコツと足音をたてながらその人込みを塗って新婦へと近づく。
新婦がブーケを投げた。
そのブーケを片手で受け取る。
真っ赤な
真っ赤な
真っ赤な
真っ赤な
ざわつく参列者の声を聞いて、新郎──一裕も振り返った。
左手には花束。
右手には約束を。
お手製の銃を右手で握って、新郎へと向ける。
そして。
躊躇なく撃った。
弾丸は一裕の左胸に命中して。
一裕は真っ白な
参列者達は一瞬静まり返り。
叫び声を上げながら一斉に何処かへと逃げ去った。
新婦は恐怖に震えながらも、瀕死の一裕に駆け寄る。
「美沙……逃げろ……」
「イヤ!!」
なに私の目の前でイチャイチャしてんの……!?
ああ、そっか。
私は躊躇う事なく新婦を撃った。
「美……沙……?」
新婦はウェディングドレスを真っ赤に染めて、その場に倒れて動かなくなる。
私はその死体を蹴って、一裕から離した。
邪魔よ。
「ミサ……」
虫の息の一裕は、悲し気に私も見詰めてくる。
私は銃口を一裕の左胸に押し当てた。
「約束を……果たしに来たよ」
だってしょうがないじゃない。
愛してしまったんだもの。
「愛してる……一裕」
一裕は目を見開いて驚く。
「ミサ……?」
何をそんなに驚いてるの?
ポタリと何かが地面へと落ちる。
よく見るとそれは、雫だった。
私……泣いてるの……?
走り出した衝動は──もう、止まらない!
私は残りの弾丸を一裕に撃ち込む。
弾丸は、一裕の左胸を撃ち抜いた。
鮮血が溢れ出し、真っ白なタキシードを真っ赤に染めていく。
愛を裏切ったら報いを受ける。
約束は果たしたわ。
お揃いね私達。
これでお揃いだね。
あぁ幸せ。
あなたの白い
「何故……何故なの……」
乾いた血が、赤から黒くへ。
変色していく。
「何故なのよぉ!!!」
酸素に触れた赤は、やがて黒に近づき示す。
二人はもう
私は目蓋を閉じて、銃口をこめかみに宛がう。
そして、迷うことなく。
引き金を引いた──。
*****
目蓋を開くと、私は見知った場所に居た。
頭上に満天の星空が広がっている。
そこは一裕と星を見た場所だった。
私にとって一裕と一緒に居る時間は……楽園に居るようだった。
凍てついた銀瑠璃の星々。
燃上がる滅びの煌きよ。
亡くした楽園の夢を見る。
私を導け。
《
キラキラと輝く星を掴みたくて、私は空高く手を伸ばす。
──想い出を過去の光として埋葬出来ない限り、
孤独な亡霊は荒野を彷徨い続けるだろう。
女の手は悲しい程に短く 星屑には届かない──
THE END
6/6ページ