Elysionのパロ夢小説
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Baroque
(夢主 視点)
私は、赤いじゅうたんの敷かれた古い木製の床を踏みしめた。
ギシッ、と悲鳴のような高い軋み音が室内に鳴り響く。
前を見据えると、壁には大きな十字架が掲げられていた。
此処はとある教会。
本来ならば、人々が許しを請う為に訪れる場所。
けど、私は許しを請う心算はない。
今から私が語るのは、独白だ。
十字架の眼前に跪き、私は祈るように手を組んで目を瞑った。
「主よ、私は人間 を殺めました──
*****
とある高台に、小さな公園がある。
そこの片隅には昔からベンチが設置されていて。
幼い頃からそこにあったそのベンチは、昔はもう少し綺麗だったような気がするけど、今はかなり煤けてしまっている。
ゆっくりとベンチの前にやって来ると、私はそこへ腰をかけた。
目の前には石造りの長い降り階段があって、見晴らしがちょっとだけ良い。
階段を降りた先には、教会が建っていた。
ベンチの傍らには、今のご時世にしては珍しく灰皿が置かれている。
懐から愛煙しているピアニッシモを取り出すと、箱の中から一本出して銜えた。
愛用のジッポで火を点けると、ジジッと音がして、煙草の先に光が灯る。
ひと吸いしてから煙草を口から外し、唇を軽く尖らせて煙をふーっと吹き出すと、白煙が立ち込めた。
空に広がる雨雲を見据える。
そう言えばニュースの天気予報で、夕方には雨が降るって言ってた。
ここには東屋みたいに屋根が建てられているから、一雨来ても大丈夫だとは思うけど。
出来たら早めに帰った方が良いかも。
直ぐに用事が済めば、の話だけど。
湿度の高い風が肌を撫でる。
私はそっと目蓋を閉じた。
幼い頃から独りで遊ぶ方が楽しかった。
思えば私は、幼い時分より臆病な性格で。
他人というものが、私にはとても恐ろしく思えた。
私が認識している世界と、他人が認識している世界。
私が感じている感覚と、他人が感じている感覚。
『違う』ということが恐怖だった。
それがいずれ『拒絶』に繋がるということを、無意識の内に知っていたから。
だから、昔の記憶は思い出せる程はない。
友達と一緒に居ると言う機会が殆どなかったから。
小学校低学年から高校生くらいの頃までの写真は一枚二枚程しかない。
学生の頃、昼食の時間は退屈で仕方なかった。
友人同士で机を引っ付けて会話をしながら昼食を摂っているクラスメイト。
楽しそうな会話の輪にさえ、加わることは恐ろくし思えた。
私には判らなかった、他人に合わせる為の笑い方が。
いっそ空気になれたら素敵なのにと、いつも口を閉ざしていた。
家の近くにある公園の高台には、あまり人気 がなくて。
ベンチに座ると、自ずと独りになれる。
いつしか放課後は、そのベンチに座って過ごす事が多くなっていた。
あれはいつ頃の事だったかな?
たしか私が大学生くらいの頃だったと思う。
ナンパの心算か、下心があってか。
そんな私に初めて声を掛けてくれたのが、彼──藤原一裕だった。
「ええ景色やなぁ、ここ」
美しい男性 だった、優しい男性 だった。
月のように柔らかな微笑みが、印象的な男性 だった。
「君、ここで何してんの?」
「いや……別に……」
最初こそ途惑はしたけど、私はすぐに一裕が好きになった。
好きな物が同じだったから。
笑いのツボが同じだったから。
過ぎていく季節に彩りが溢れる。
「一裕……もし良かったら、これあげる」
「え、もしかしてバレンタインチョコ?」
「うん、まあ」
「ホンマに?」
「迷惑だった?」
「いや、めっちゃ嬉しい! オカン以外から貰ったん初めてやわ」
「そうなんだ」
付き合おうってハッキリした言葉は無かったけど。
私達は確かに、付き合っていたと思う。
私は一裕との長い交わりの中から、多くを学んだ。
今までサボって来た友達との会話の楽しさを初めて知った。
笑顔は他人に合わせるんじゃなくて、自然と零れ落ちるものだと知った。
『違う』ということは『個性』であり、『他人』という存在を『認める』ということ。
大切なのは『同一であること』ではなく、お互いを『理解し合うこと』なのだと。
しかし、ある一点において、私と一裕は『違い過ぎて』いた。
私が一裕に対する愛と。
一裕が私に対する愛は。
全く違っていた。
分かりやすく言うなら“like”と“love”の違いのようなもので。
決定的な違いを悟ったのは、一裕が結婚した時だった。
狂おしい愛欲の焔が、身を灼く苦しみを知った。
もう自分ではどうする事も出来ない程、私は『彼を愛してしまっていた』。
月日は流れに流れ、いつの間にか一裕は二児の娘の父親になっていた。
それでも、諦めきれない。
私は、一裕を初めて出会ったベンチの所へと呼びだした。
煙草を吸っていると、目の前の階段を一裕が登って来るのが見える。
吸っていた煙草の火を灰皿に押し消して、私は立ち上がった。
階段を登り切った一裕は、私の事を一瞥する。
私達は屋根の下で向かい合った。
「ごめんなさい。呼び出したりして」
「ええけど……話って何? 下の公園に嫁と娘待たせてんねん」
「……」
緊張で心臓がバクバクする。
浅く呼吸すると、その息は震えていた。
鼻から空気を吸って、口から深く吐く。
「私、一裕が好き」
「……」
「お願い、奥さんと別れて」
「…………」
「私と結婚して……までとは、言わないからっ」
私は勇気を振り絞り、想いの全てを告白した。
しかし、私の想いは──
真っ黒な雲から大粒の雨が降り始める。
無数の雨粒が地面を叩きつける音が鳴り始めた。
屋根がある為、私達は濡れる事は無かった。
一裕は顔を背 ける。
「なに言うてるか全く分からへんわ」
一裕に『拒絶』されてしまった。
その時の一裕の言葉は、とても哀しいものだった。
「ミサとの付き合いは、正直遊びやってん」
その決定的な『違い』は、到底『解り合えない』と知った。
ああ。
なら、もう。
一裕。
あなたは、要ラナイわね。
屋根の外に出た一裕の全身が、見る見る内に雨で濡れていく。
階段の手前で立ち止まった一裕は、一度だけ私の方へ振り返った。
「ミサの事、嫌いやなかったよ……」
その瞳はどこか悲し気で。
雨で頬が濡れている所為か、泣いているように見える。
そこから先の記憶は、不思議と客観的なもので。
階段を降りようとする一裕の背に、私は音もなく近づいて。
そして。
その背中を両手で押した。
瞬間、一裕は振り返って、私の手を掴む。
縺れ合うように石畳を転がる、《性的倒錯性歪曲》 の私達。
一裕 のことなんて。
愛さなければよかった。
愛を呪いながら、石段を転がり落ちて逝く……。
気が付くと、私達は階段の下で倒れていた。
私は起き上がり、傍らで倒れてる一裕の顔を覗き込む。
目蓋を閉じ、ぐったりとした様子で地に伏せていた。
私は悟っていた。
一裕を殺してしまった事を。
悲しみは湧かない。
それどころか、安心感があった。
これでもう、嫉妬する必要はない。
家族に囲まれて、幸せそうに笑う一裕に、その嫁に、その娘達に。
沸き上がる愛憎に悶える必要もない。
良かった。
私はフラッとよろけながら立ち上がった。
自分の死体が、足元に転がっている事にも気づかずに。
公園の外へ歩いて行く。
途中、一裕を探す嫁や娘達が傍らを横切っても、私は見向きもしなかった。
公園を出て、徘徊するように街中を歩いていると、古びた教会を見つける。
教会の両開きの扉が、私を招いているかのように片方だけ開いていた。
フラフラと中へと入る。
長く赤い絨毯が道のように奥まで続いていて、両サイドには長いベンチのような木製の椅子が並んでいた。
絨毯を踏みしめながら奥へ進むと、祭壇の前へと行きつく。
大きな十字架が壁に掲げられていた。
プロテスタントでもカソリックでもないけど、祈りを捧げる様に、見よう見まねで跪いて手を組み。
目蓋を閉じる。
今から私が語るのは、独白だ。
「主よ、私は人間 を殺めました。
この手で大切な男性 を殺めました。
この歪な心は、この歪な貝殻は、私の紅い真珠は歪んでいるのでしょうか?
誰も赦しが欲しくて告白している訳ではないのです。
この罪こそが私と一裕 を繋ぐ絆なのですから。
この罪だけは、神にさえも赦させはしない……!」
数時間後。
ライセンス藤原一裕の死亡事件が報道される。
同日同じ場所で、身元不明の女性の遺体も見つかったらしい。
Baroque vierge,baroque zi le fine ……
THE END
(夢主 視点)
私は、赤いじゅうたんの敷かれた古い木製の床を踏みしめた。
ギシッ、と悲鳴のような高い軋み音が室内に鳴り響く。
前を見据えると、壁には大きな十字架が掲げられていた。
此処はとある教会。
本来ならば、人々が許しを請う為に訪れる場所。
けど、私は許しを請う心算はない。
今から私が語るのは、独白だ。
十字架の眼前に跪き、私は祈るように手を組んで目を瞑った。
「主よ、私は
*****
とある高台に、小さな公園がある。
そこの片隅には昔からベンチが設置されていて。
幼い頃からそこにあったそのベンチは、昔はもう少し綺麗だったような気がするけど、今はかなり煤けてしまっている。
ゆっくりとベンチの前にやって来ると、私はそこへ腰をかけた。
目の前には石造りの長い降り階段があって、見晴らしがちょっとだけ良い。
階段を降りた先には、教会が建っていた。
ベンチの傍らには、今のご時世にしては珍しく灰皿が置かれている。
懐から愛煙しているピアニッシモを取り出すと、箱の中から一本出して銜えた。
愛用のジッポで火を点けると、ジジッと音がして、煙草の先に光が灯る。
ひと吸いしてから煙草を口から外し、唇を軽く尖らせて煙をふーっと吹き出すと、白煙が立ち込めた。
空に広がる雨雲を見据える。
そう言えばニュースの天気予報で、夕方には雨が降るって言ってた。
ここには東屋みたいに屋根が建てられているから、一雨来ても大丈夫だとは思うけど。
出来たら早めに帰った方が良いかも。
直ぐに用事が済めば、の話だけど。
湿度の高い風が肌を撫でる。
私はそっと目蓋を閉じた。
幼い頃から独りで遊ぶ方が楽しかった。
思えば私は、幼い時分より臆病な性格で。
他人というものが、私にはとても恐ろしく思えた。
私が認識している世界と、他人が認識している世界。
私が感じている感覚と、他人が感じている感覚。
『違う』ということが恐怖だった。
それがいずれ『拒絶』に繋がるということを、無意識の内に知っていたから。
だから、昔の記憶は思い出せる程はない。
友達と一緒に居ると言う機会が殆どなかったから。
小学校低学年から高校生くらいの頃までの写真は一枚二枚程しかない。
学生の頃、昼食の時間は退屈で仕方なかった。
友人同士で机を引っ付けて会話をしながら昼食を摂っているクラスメイト。
楽しそうな会話の輪にさえ、加わることは恐ろくし思えた。
私には判らなかった、他人に合わせる為の笑い方が。
いっそ空気になれたら素敵なのにと、いつも口を閉ざしていた。
家の近くにある公園の高台には、あまり
ベンチに座ると、自ずと独りになれる。
いつしか放課後は、そのベンチに座って過ごす事が多くなっていた。
あれはいつ頃の事だったかな?
たしか私が大学生くらいの頃だったと思う。
ナンパの心算か、下心があってか。
そんな私に初めて声を掛けてくれたのが、彼──藤原一裕だった。
「ええ景色やなぁ、ここ」
美しい
月のように柔らかな微笑みが、印象的な
「君、ここで何してんの?」
「いや……別に……」
最初こそ途惑はしたけど、私はすぐに一裕が好きになった。
好きな物が同じだったから。
笑いのツボが同じだったから。
過ぎていく季節に彩りが溢れる。
「一裕……もし良かったら、これあげる」
「え、もしかしてバレンタインチョコ?」
「うん、まあ」
「ホンマに?」
「迷惑だった?」
「いや、めっちゃ嬉しい! オカン以外から貰ったん初めてやわ」
「そうなんだ」
付き合おうってハッキリした言葉は無かったけど。
私達は確かに、付き合っていたと思う。
私は一裕との長い交わりの中から、多くを学んだ。
今までサボって来た友達との会話の楽しさを初めて知った。
笑顔は他人に合わせるんじゃなくて、自然と零れ落ちるものだと知った。
『違う』ということは『個性』であり、『他人』という存在を『認める』ということ。
大切なのは『同一であること』ではなく、お互いを『理解し合うこと』なのだと。
しかし、ある一点において、私と一裕は『違い過ぎて』いた。
私が一裕に対する愛と。
一裕が私に対する愛は。
全く違っていた。
分かりやすく言うなら“like”と“love”の違いのようなもので。
決定的な違いを悟ったのは、一裕が結婚した時だった。
狂おしい愛欲の焔が、身を灼く苦しみを知った。
もう自分ではどうする事も出来ない程、私は『彼を愛してしまっていた』。
月日は流れに流れ、いつの間にか一裕は二児の娘の父親になっていた。
それでも、諦めきれない。
私は、一裕を初めて出会ったベンチの所へと呼びだした。
煙草を吸っていると、目の前の階段を一裕が登って来るのが見える。
吸っていた煙草の火を灰皿に押し消して、私は立ち上がった。
階段を登り切った一裕は、私の事を一瞥する。
私達は屋根の下で向かい合った。
「ごめんなさい。呼び出したりして」
「ええけど……話って何? 下の公園に嫁と娘待たせてんねん」
「……」
緊張で心臓がバクバクする。
浅く呼吸すると、その息は震えていた。
鼻から空気を吸って、口から深く吐く。
「私、一裕が好き」
「……」
「お願い、奥さんと別れて」
「…………」
「私と結婚して……までとは、言わないからっ」
私は勇気を振り絞り、想いの全てを告白した。
しかし、私の想いは──
真っ黒な雲から大粒の雨が降り始める。
無数の雨粒が地面を叩きつける音が鳴り始めた。
屋根がある為、私達は濡れる事は無かった。
一裕は顔を
「なに言うてるか全く分からへんわ」
一裕に『拒絶』されてしまった。
その時の一裕の言葉は、とても哀しいものだった。
「ミサとの付き合いは、正直遊びやってん」
その決定的な『違い』は、到底『解り合えない』と知った。
ああ。
なら、もう。
一裕。
あなたは、要ラナイわね。
屋根の外に出た一裕の全身が、見る見る内に雨で濡れていく。
階段の手前で立ち止まった一裕は、一度だけ私の方へ振り返った。
「ミサの事、嫌いやなかったよ……」
その瞳はどこか悲し気で。
雨で頬が濡れている所為か、泣いているように見える。
そこから先の記憶は、不思議と客観的なもので。
階段を降りようとする一裕の背に、私は音もなく近づいて。
そして。
その背中を両手で押した。
瞬間、一裕は振り返って、私の手を掴む。
縺れ合うように石畳を転がる、
愛さなければよかった。
愛を呪いながら、石段を転がり落ちて逝く……。
気が付くと、私達は階段の下で倒れていた。
私は起き上がり、傍らで倒れてる一裕の顔を覗き込む。
目蓋を閉じ、ぐったりとした様子で地に伏せていた。
私は悟っていた。
一裕を殺してしまった事を。
悲しみは湧かない。
それどころか、安心感があった。
これでもう、嫉妬する必要はない。
家族に囲まれて、幸せそうに笑う一裕に、その嫁に、その娘達に。
沸き上がる愛憎に悶える必要もない。
良かった。
私はフラッとよろけながら立ち上がった。
自分の死体が、足元に転がっている事にも気づかずに。
公園の外へ歩いて行く。
途中、一裕を探す嫁や娘達が傍らを横切っても、私は見向きもしなかった。
公園を出て、徘徊するように街中を歩いていると、古びた教会を見つける。
教会の両開きの扉が、私を招いているかのように片方だけ開いていた。
フラフラと中へと入る。
長く赤い絨毯が道のように奥まで続いていて、両サイドには長いベンチのような木製の椅子が並んでいた。
絨毯を踏みしめながら奥へ進むと、祭壇の前へと行きつく。
大きな十字架が壁に掲げられていた。
プロテスタントでもカソリックでもないけど、祈りを捧げる様に、見よう見まねで跪いて手を組み。
目蓋を閉じる。
今から私が語るのは、独白だ。
「主よ、私は
この手で大切な
この歪な心は、この歪な貝殻は、私の紅い真珠は歪んでいるのでしょうか?
誰も赦しが欲しくて告白している訳ではないのです。
この罪こそが私と
この罪だけは、神にさえも赦させはしない……!」
数時間後。
ライセンス藤原一裕の死亡事件が報道される。
同日同じ場所で、身元不明の女性の遺体も見つかったらしい。
THE END