ライセンス藤原一裕の夢小説
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嘘つき
(夢主 視点)
『藤原一裕』が記憶を失った。
仕事の事も、奥さんの事も、子供の事も。
私の事も。
全て失った。
あれはいつの事だっただろう?
私の家で一裕と二人で呑んでた。
徐々に二人の間は狭まって。
見つめ合って。
キスをして、愛の言葉を囁いて……肌を重ねる。
それは私達の日常の筈だった。
その日もそうだと、少なくとも一裕は思ってた筈。
でも、私は違った。
伝えたい事があったから。
聞いて欲しい事があったから。
結局、その日は何も伝えれられなかったけれど。
今となっては、伝えられなくて良い。
一裕が私の事を忘れてしまったのなら、同じ事だから。
もう、良いの。
「あれ? ミサちゃん?」
振り返ると、そこにはラフコントロールの重岡さんが立っていた。
そう言えば、記憶喪失になった一裕の世話を奥さんと一緒に重岡さんがしてるんだっけ。
って言っても怪我とかしてる訳じゃないんだし、付きっ切りではないんだろうけど。
「一裕は……元気ですか?」
「一応元気だよ。あれ、会ってないの?」
「……はい」
「そっか。今から藤原さん家行くんだけど……一緒に来る?」
「……え」
正直、迷った。
会いたくないって言ったら嘘になる。
会いたいよ。
でも。
今、一裕に会ったら……私どうなっちゃうんだろう?
少し考えた末、私は重岡さんに着いて行く事にした。
「藤原さん、何か元気ないみたいでさ。ミサちゃんに会ったら元気になるんじゃないかと思って」
重岡さんの話を聞きながら、ひたすら一裕の事を考える。
今何をしてるのかな?
何か思い出したかな?
記憶を失ってから初めて会う。
どんな顔して会えば良いんだろう?
そうこう考えている内に、一裕の家までやって来た。
手慣れた様子で藤原宅に上がる重岡さんの背中を追いかける様に、私も家の中へと入って行った。
ソファに腰をかける、見知った大きな背中姿。
思わずその人の名前を口走る。
「……一裕……」
彼は振り返った。
まるで、私の声に反応したかのように。
私の顔を見て、一裕は無言のまま顔を伏せた。
そんな様子を見詰めていると、重岡さんに廊下へと腕を引かれる。
「ミサちゃん。ちょっと頼みあるんだけど、良いかな?」
「良いですよ。何ですか?」
「今夜、急遽仕事が入っちゃって……今日だけで良いから藤原さんと一緒に居てくれない?」
「え、でも……奥さん帰って来るんじゃ……」
「それが、今夜奥さんも仕事で不在みたいなんだ」
「そうですか……、分かりました」
一裕の世話を済ませ、重岡さんは仕事へと向かった。
静かな家の中に、一裕と二人きりになる。
一緒に居るのは良いけど……何してれば良いんだろう?
「なぁ……」
行き成り声をかけられ、私は驚いて一裕の方を見た。
「な、何?」
「ちょっと聞きたいねんけど……俺と君はどんな関係やったん?」
「……」
本当の事を言うべき?
それとも嘘を吐く?
一体どうしたら……。
でも、本当の事を言ったら……どうなるのかな?
……言わない事にした。
その替わり、行動で示す。
一裕の隣に移動すると、彼の目をジッと見詰めた。
黒い目に私が写る。
ゆっくりと顔を近づけ、そして──。
静かに唇を重ねた。
そのまま深く口付け、一裕の口内に舌をねじ込む。
「ン……」
蛇が纏わりつくように舌を絡めると、唇を舐め上げてから離した。
「こう言う事する関係……だよ」
「……」
一裕は少し驚いた様子。
いや、驚いた演技?
何故だか私にはそう見えた。
まさか……記憶が?
試してみるか。
一裕の目の前に跪く。
彼の両手を包むように掴んだ。
傍から見ればプロポーズしようとしているかのようだ。
女からプロポーズってあんまり見ないシチュエーションな気がするけど、この際気にしない。
静かに深呼吸をして、緊張する自身を落ち着かせようとした。
私はプロポーズとは真逆な事を言おうとしているから。
強く一裕を見詰めて。
「別れよう。一裕」
彼は驚いたように深い二重瞼を大きく開かせた。
今度は、演技じゃないみたい。
見開いた瞳から涙が溢れて来る。
「なんで……そんな事言うねん……」
一裕は涙を隠すように、顔を両手で覆った。
「俺の事好きって言うたやん……」
やっぱり戻ってったんですね。
記憶。
「普通……記憶喪失の奴に言うか? そんな事……もっと労われや」
「何が労われよ、病人じゃあるまえし。それに一裕、記憶戻ってたでしょ? バレバレなんだけど」
立ち上がると、一裕から少し離れた場所に腰を降ろした。
「いつから戻ってたの? 記憶」
「ミサが俺の名前呼んだ時くらい」
ついさっきじゃん。
私が呼ばなかったら、記憶は戻らなかったかも。
失敗した……かも。
あれ?
これじゃあまるで……私が、一裕が記憶喪失のままでいて欲しかったみたいじゃない。
「嘘つくなんて卑怯だよね。相も変わらず演技がお上手ですねぇ?」
「茶化すな。ミサこそ……嘘吐くなんて酷いんちゃう?」
「私が嘘? そんなのいつ吐いた?」
「吐いたやろ……? 別れたいって」
「嘘じゃないよ」
「…………は?」
涙で濡れ、赤く張れ上がった眼が、私を見た。
「信じられへん」と言いたげな表情で。
「別れよう」
「冗談……やろ?」
私は一裕を睨んだ。
眉間に深い皺が刻まれているのが、自分でもわかる。
「何度も言わせないで。別れよう、私達」
「……嫌や……」
深く溜息を吐いた。
落胆したから。
「往生際が悪いよ? 私なんか居なくなったって一裕は困らないよね? 奥さんも子供も居るんだから! 一裕には!」
私には、一裕しか居ないのに──!
思わず声を張り上げてしまった。
だってホントの事でしょう?
一裕には妻子が居る。
何だって持ってる。
……私には何もない。
私には……貴方しか居なかった。
でも……もう良いの。
「好きやからやろ……ミサの事」
思わず鼻で笑った。
「なら、別れて!」
「だから別れたないって……」
「奥さんとよ!!」
「──!」
「出来るよね? 私が好きなら」
「…………無理や……」
「どうして? 結婚しておきながら私とも付き合っていたいだなんて、虫よ過ぎじゃない!?」
「……」
「話になんない」
ふと、玄関が開く音が耳に届いた。
多分、重岡さんか奥さんが帰って来たのだろう。
私はそそくさと立ち上がる。
「帰る」
「ちょ……待っ」
「何を言われても、私の気持ちは変わらないから」
玄関の方へと向かう。
途中で足を止めると、一裕に背を向けたまま私は言った。
「私との関係を続けたいなら、離婚届けでも持ってきて。ちゃんと奥さんと一裕の署名と捺印を入れたヤツをね!」
そう吐き捨てると、再び足を進める。
背後から聞こえる、一裕のすすり泣く声を無視して。
玄関まで来ると、重岡さんが靴を脱いでいた。
「あれ、ミサちゃん? どうしたの?」
「……すみませんシゲさん。私帰ります」
「え?」
交代するかのように、今度は私が靴を履き始める。
「何かあったの? 急用?」
「いえ、別に。……一裕の事なんですけど……記憶戻ったみたいですよ」
「……ええっ!?」
分かりやすく驚く重岡さんを残し、玄関を出た。
外はもうすっかり暗くなっている。
ドアに背中を預けその場に座り込んだ。
夜空を見上げる。
闇に紛れながら、私は静かに微笑んだ。
意外に涙は出なかった。
愛してたよ。
一裕。
THE END
(夢主 視点)
『藤原一裕』が記憶を失った。
仕事の事も、奥さんの事も、子供の事も。
私の事も。
全て失った。
あれはいつの事だっただろう?
私の家で一裕と二人で呑んでた。
徐々に二人の間は狭まって。
見つめ合って。
キスをして、愛の言葉を囁いて……肌を重ねる。
それは私達の日常の筈だった。
その日もそうだと、少なくとも一裕は思ってた筈。
でも、私は違った。
伝えたい事があったから。
聞いて欲しい事があったから。
結局、その日は何も伝えれられなかったけれど。
今となっては、伝えられなくて良い。
一裕が私の事を忘れてしまったのなら、同じ事だから。
もう、良いの。
「あれ? ミサちゃん?」
振り返ると、そこにはラフコントロールの重岡さんが立っていた。
そう言えば、記憶喪失になった一裕の世話を奥さんと一緒に重岡さんがしてるんだっけ。
って言っても怪我とかしてる訳じゃないんだし、付きっ切りではないんだろうけど。
「一裕は……元気ですか?」
「一応元気だよ。あれ、会ってないの?」
「……はい」
「そっか。今から藤原さん家行くんだけど……一緒に来る?」
「……え」
正直、迷った。
会いたくないって言ったら嘘になる。
会いたいよ。
でも。
今、一裕に会ったら……私どうなっちゃうんだろう?
少し考えた末、私は重岡さんに着いて行く事にした。
「藤原さん、何か元気ないみたいでさ。ミサちゃんに会ったら元気になるんじゃないかと思って」
重岡さんの話を聞きながら、ひたすら一裕の事を考える。
今何をしてるのかな?
何か思い出したかな?
記憶を失ってから初めて会う。
どんな顔して会えば良いんだろう?
そうこう考えている内に、一裕の家までやって来た。
手慣れた様子で藤原宅に上がる重岡さんの背中を追いかける様に、私も家の中へと入って行った。
ソファに腰をかける、見知った大きな背中姿。
思わずその人の名前を口走る。
「……一裕……」
彼は振り返った。
まるで、私の声に反応したかのように。
私の顔を見て、一裕は無言のまま顔を伏せた。
そんな様子を見詰めていると、重岡さんに廊下へと腕を引かれる。
「ミサちゃん。ちょっと頼みあるんだけど、良いかな?」
「良いですよ。何ですか?」
「今夜、急遽仕事が入っちゃって……今日だけで良いから藤原さんと一緒に居てくれない?」
「え、でも……奥さん帰って来るんじゃ……」
「それが、今夜奥さんも仕事で不在みたいなんだ」
「そうですか……、分かりました」
一裕の世話を済ませ、重岡さんは仕事へと向かった。
静かな家の中に、一裕と二人きりになる。
一緒に居るのは良いけど……何してれば良いんだろう?
「なぁ……」
行き成り声をかけられ、私は驚いて一裕の方を見た。
「な、何?」
「ちょっと聞きたいねんけど……俺と君はどんな関係やったん?」
「……」
本当の事を言うべき?
それとも嘘を吐く?
一体どうしたら……。
でも、本当の事を言ったら……どうなるのかな?
……言わない事にした。
その替わり、行動で示す。
一裕の隣に移動すると、彼の目をジッと見詰めた。
黒い目に私が写る。
ゆっくりと顔を近づけ、そして──。
静かに唇を重ねた。
そのまま深く口付け、一裕の口内に舌をねじ込む。
「ン……」
蛇が纏わりつくように舌を絡めると、唇を舐め上げてから離した。
「こう言う事する関係……だよ」
「……」
一裕は少し驚いた様子。
いや、驚いた演技?
何故だか私にはそう見えた。
まさか……記憶が?
試してみるか。
一裕の目の前に跪く。
彼の両手を包むように掴んだ。
傍から見ればプロポーズしようとしているかのようだ。
女からプロポーズってあんまり見ないシチュエーションな気がするけど、この際気にしない。
静かに深呼吸をして、緊張する自身を落ち着かせようとした。
私はプロポーズとは真逆な事を言おうとしているから。
強く一裕を見詰めて。
「別れよう。一裕」
彼は驚いたように深い二重瞼を大きく開かせた。
今度は、演技じゃないみたい。
見開いた瞳から涙が溢れて来る。
「なんで……そんな事言うねん……」
一裕は涙を隠すように、顔を両手で覆った。
「俺の事好きって言うたやん……」
やっぱり戻ってったんですね。
記憶。
「普通……記憶喪失の奴に言うか? そんな事……もっと労われや」
「何が労われよ、病人じゃあるまえし。それに一裕、記憶戻ってたでしょ? バレバレなんだけど」
立ち上がると、一裕から少し離れた場所に腰を降ろした。
「いつから戻ってたの? 記憶」
「ミサが俺の名前呼んだ時くらい」
ついさっきじゃん。
私が呼ばなかったら、記憶は戻らなかったかも。
失敗した……かも。
あれ?
これじゃあまるで……私が、一裕が記憶喪失のままでいて欲しかったみたいじゃない。
「嘘つくなんて卑怯だよね。相も変わらず演技がお上手ですねぇ?」
「茶化すな。ミサこそ……嘘吐くなんて酷いんちゃう?」
「私が嘘? そんなのいつ吐いた?」
「吐いたやろ……? 別れたいって」
「嘘じゃないよ」
「…………は?」
涙で濡れ、赤く張れ上がった眼が、私を見た。
「信じられへん」と言いたげな表情で。
「別れよう」
「冗談……やろ?」
私は一裕を睨んだ。
眉間に深い皺が刻まれているのが、自分でもわかる。
「何度も言わせないで。別れよう、私達」
「……嫌や……」
深く溜息を吐いた。
落胆したから。
「往生際が悪いよ? 私なんか居なくなったって一裕は困らないよね? 奥さんも子供も居るんだから! 一裕には!」
私には、一裕しか居ないのに──!
思わず声を張り上げてしまった。
だってホントの事でしょう?
一裕には妻子が居る。
何だって持ってる。
……私には何もない。
私には……貴方しか居なかった。
でも……もう良いの。
「好きやからやろ……ミサの事」
思わず鼻で笑った。
「なら、別れて!」
「だから別れたないって……」
「奥さんとよ!!」
「──!」
「出来るよね? 私が好きなら」
「…………無理や……」
「どうして? 結婚しておきながら私とも付き合っていたいだなんて、虫よ過ぎじゃない!?」
「……」
「話になんない」
ふと、玄関が開く音が耳に届いた。
多分、重岡さんか奥さんが帰って来たのだろう。
私はそそくさと立ち上がる。
「帰る」
「ちょ……待っ」
「何を言われても、私の気持ちは変わらないから」
玄関の方へと向かう。
途中で足を止めると、一裕に背を向けたまま私は言った。
「私との関係を続けたいなら、離婚届けでも持ってきて。ちゃんと奥さんと一裕の署名と捺印を入れたヤツをね!」
そう吐き捨てると、再び足を進める。
背後から聞こえる、一裕のすすり泣く声を無視して。
玄関まで来ると、重岡さんが靴を脱いでいた。
「あれ、ミサちゃん? どうしたの?」
「……すみませんシゲさん。私帰ります」
「え?」
交代するかのように、今度は私が靴を履き始める。
「何かあったの? 急用?」
「いえ、別に。……一裕の事なんですけど……記憶戻ったみたいですよ」
「……ええっ!?」
分かりやすく驚く重岡さんを残し、玄関を出た。
外はもうすっかり暗くなっている。
ドアに背中を預けその場に座り込んだ。
夜空を見上げる。
闇に紛れながら、私は静かに微笑んだ。
意外に涙は出なかった。
愛してたよ。
一裕。
THE END