ライセンス藤原一裕の夢小説
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追憶
(夢主 視点)
メイドの朝は早い。
誰よりも早く目を覚まし身支度を済ました後、朝食と紅茶を屋敷の主人である藤原さまの寝室へと持って行く。
寝室の扉をノックした後、返事を待ってから静かに中に入った。
「お早う御座います、旦那さま」
「おはよう」
藤原さまの着替えの手伝いを済ますと、朝食と紅茶をテーブルの上に並べる。
手招きをされ、私は少し戸惑いつつも藤原さまの側へと向かった。
私がメイドとして屋敷に来てから一ヶ月が建つ。
藤原さまは人見知りが故、他のメイドならば朝食と紅茶だけ受け取り門前払いを喰らう。
しかし、彼の恋人である私はいつしか寝室に招き入れられるようになった。
「何か足りない物が御座いましたか?」
「いいや。ミサの顔が近くで見たかっただけや」
「私の顔なら毎晩近くで見ているではありませんか。変な旦那さま……」
私は照れながら笑う。
「ミサ、二人だけん時は下の名前で呼んでって言うたやろ?」
「すみません、旦那さ……いえ、一裕さま」
「これからは気ぃつけろよ」
「はい」
藤原さまは微笑を見せた。
私だけに見せる笑顔。
それが私は大好きだった。
こんな日々がずっと続くと思っていた。
あの日迄は──。
*****
(藤原 視点)
「一裕さま、こちら朝刊でございます。何やら隣国との戦争が激化しているさまです……」
「……」
朝刊を開くと、そこには戦争の記事が一面に記載されとった。
一通り読み終えると机に置き、窓辺へと立つ。
屋敷の庭園を見渡すと、静々とミサも側へとやって来た。
「戦火に巻き込まれる前に、別荘に移住した方が良さそうやな」
「この素敵な庭園とも……暫しのお別れでしょうか?」
「しゃあない、命が第一や。ミサも一緒に来るやろ?」
「もちろんです」
「なら早速準備せんとな」
俺は上着のポケットに手を入れると、中に入っとる小さな箱を握りしめる。
「大丈夫や、きっと直ぐに終戦する。……そうしたら、ミサ……私と……」
瞬間、耳をつんざくばかりの轟音と辺り一面が眩しいくらい光る。
一体何が起こったのか、理解できへんかった。
突然の熱風に押し出され、庭にあった木に勢い良く身体を叩きつけられる。
開いた目に映った光景に、絶句した。
燃え盛る屋敷……瓦礫に埋もれた愛しい人の姿。
身体を反射的に起こし、ミサの許へと駆け寄ると、瓦礫の下から無我夢中で助け出す。
ぐったりとした体を腕の中に抱える。
「ミサ! ミサ!!」
「……一裕……さま……ご無事……です……か?」
ミサは薄っすら目を開き俺を見た。
「俺は大丈夫や! ミサ……確りせぇ!!」
「……早く……お逃げ……ください……」
「お前を置いいけるかぁ?!!」
ミサは最後の力を振り絞り俺の頬に手を当てると、弱々しく微笑む。
「……お慕いして……おりまし……」
最後の一文字を発する前に、ミサは目蓋を閉じた。
力無く落ちるミサの手を受け止め、強く握る。
「ミサーーーー!!!!!」
目から大粒の涙を溢れさせながら俺は叫んだ。
ミサを抱えたまま寄り添うように俺は力なく倒れ込む。
上着のポケットから小さな箱が転がり落ちた。
それは、ミサに渡す筈だった婚約指輪やった──。
俺が目を覚ますと、友人──井本の屋敷の客室のベッドの上やった。
井本の話によると、あの後直ぐに他の使用人達が屋敷に駆け付け、俺達は保護されたらしい。
重傷を負っていたものの、奇跡的に命に別状は無かった。
……だがしかし、ミサがどうなったかまでは、流石の井本にもわからへんそうや。
生きて、どこかで平和に暮らしてるんやろか?
それならええんやけど……。
目蓋を閉じると、ミサとの最後の光景が思い出される。
「……どないしてん?」
井本は怪訝な表情で俺の方を見とった。
気ぃ付くと俺は泣いとって。
「……色々と思い出してもうてん」
涙を指先で拭うと、窓の外に広がる夕焼けの空を見上げる。
ページを捲った風圧で井本の前髪がフワッと揺れた。
「そう言えば話変んねんけど、今日から新しいメイドが来んねん。何でも戦時中に重傷を負って、記憶喪失なんやって」
「記憶……喪失?」
井本の方を見ると、ノック音が響いて、井本が「どうぞー」と声をかける。
ゆっくりとドアが開かれ、入って来た人物を見て俺は目を見開いた。
髪型や服装は変わったけど、そこに立っていたのは間違えなく、
「はじめまして……今日からここでお世話になります」
ミサやった。
井本は立ち上がると、彼女の隣に立つ。
「今日からお前のお世話役はこの子に任すから。ただ記憶喪失やから名前がわからへんねん。あだ名でええから、なんか名前つけたって」
俺は彼女の瞳を真っ直ぐ見詰める。
「……ミサ……はどう?」
そう名付けられた彼女は、コクリと頷いた。
「私は何とお呼びしたら?」
「一裕でええよ」
「では……一裕さま。今日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
また君に。
巡り合えた。
THE END
(夢主 視点)
メイドの朝は早い。
誰よりも早く目を覚まし身支度を済ました後、朝食と紅茶を屋敷の主人である藤原さまの寝室へと持って行く。
寝室の扉をノックした後、返事を待ってから静かに中に入った。
「お早う御座います、旦那さま」
「おはよう」
藤原さまの着替えの手伝いを済ますと、朝食と紅茶をテーブルの上に並べる。
手招きをされ、私は少し戸惑いつつも藤原さまの側へと向かった。
私がメイドとして屋敷に来てから一ヶ月が建つ。
藤原さまは人見知りが故、他のメイドならば朝食と紅茶だけ受け取り門前払いを喰らう。
しかし、彼の恋人である私はいつしか寝室に招き入れられるようになった。
「何か足りない物が御座いましたか?」
「いいや。ミサの顔が近くで見たかっただけや」
「私の顔なら毎晩近くで見ているではありませんか。変な旦那さま……」
私は照れながら笑う。
「ミサ、二人だけん時は下の名前で呼んでって言うたやろ?」
「すみません、旦那さ……いえ、一裕さま」
「これからは気ぃつけろよ」
「はい」
藤原さまは微笑を見せた。
私だけに見せる笑顔。
それが私は大好きだった。
こんな日々がずっと続くと思っていた。
あの日迄は──。
*****
(藤原 視点)
「一裕さま、こちら朝刊でございます。何やら隣国との戦争が激化しているさまです……」
「……」
朝刊を開くと、そこには戦争の記事が一面に記載されとった。
一通り読み終えると机に置き、窓辺へと立つ。
屋敷の庭園を見渡すと、静々とミサも側へとやって来た。
「戦火に巻き込まれる前に、別荘に移住した方が良さそうやな」
「この素敵な庭園とも……暫しのお別れでしょうか?」
「しゃあない、命が第一や。ミサも一緒に来るやろ?」
「もちろんです」
「なら早速準備せんとな」
俺は上着のポケットに手を入れると、中に入っとる小さな箱を握りしめる。
「大丈夫や、きっと直ぐに終戦する。……そうしたら、ミサ……私と……」
瞬間、耳をつんざくばかりの轟音と辺り一面が眩しいくらい光る。
一体何が起こったのか、理解できへんかった。
突然の熱風に押し出され、庭にあった木に勢い良く身体を叩きつけられる。
開いた目に映った光景に、絶句した。
燃え盛る屋敷……瓦礫に埋もれた愛しい人の姿。
身体を反射的に起こし、ミサの許へと駆け寄ると、瓦礫の下から無我夢中で助け出す。
ぐったりとした体を腕の中に抱える。
「ミサ! ミサ!!」
「……一裕……さま……ご無事……です……か?」
ミサは薄っすら目を開き俺を見た。
「俺は大丈夫や! ミサ……確りせぇ!!」
「……早く……お逃げ……ください……」
「お前を置いいけるかぁ?!!」
ミサは最後の力を振り絞り俺の頬に手を当てると、弱々しく微笑む。
「……お慕いして……おりまし……」
最後の一文字を発する前に、ミサは目蓋を閉じた。
力無く落ちるミサの手を受け止め、強く握る。
「ミサーーーー!!!!!」
目から大粒の涙を溢れさせながら俺は叫んだ。
ミサを抱えたまま寄り添うように俺は力なく倒れ込む。
上着のポケットから小さな箱が転がり落ちた。
それは、ミサに渡す筈だった婚約指輪やった──。
俺が目を覚ますと、友人──井本の屋敷の客室のベッドの上やった。
井本の話によると、あの後直ぐに他の使用人達が屋敷に駆け付け、俺達は保護されたらしい。
重傷を負っていたものの、奇跡的に命に別状は無かった。
……だがしかし、ミサがどうなったかまでは、流石の井本にもわからへんそうや。
生きて、どこかで平和に暮らしてるんやろか?
それならええんやけど……。
目蓋を閉じると、ミサとの最後の光景が思い出される。
「……どないしてん?」
井本は怪訝な表情で俺の方を見とった。
気ぃ付くと俺は泣いとって。
「……色々と思い出してもうてん」
涙を指先で拭うと、窓の外に広がる夕焼けの空を見上げる。
ページを捲った風圧で井本の前髪がフワッと揺れた。
「そう言えば話変んねんけど、今日から新しいメイドが来んねん。何でも戦時中に重傷を負って、記憶喪失なんやって」
「記憶……喪失?」
井本の方を見ると、ノック音が響いて、井本が「どうぞー」と声をかける。
ゆっくりとドアが開かれ、入って来た人物を見て俺は目を見開いた。
髪型や服装は変わったけど、そこに立っていたのは間違えなく、
「はじめまして……今日からここでお世話になります」
ミサやった。
井本は立ち上がると、彼女の隣に立つ。
「今日からお前のお世話役はこの子に任すから。ただ記憶喪失やから名前がわからへんねん。あだ名でええから、なんか名前つけたって」
俺は彼女の瞳を真っ直ぐ見詰める。
「……ミサ……はどう?」
そう名付けられた彼女は、コクリと頷いた。
「私は何とお呼びしたら?」
「一裕でええよ」
「では……一裕さま。今日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
また君に。
巡り合えた。
THE END