ライセンス藤原一裕の夢小説
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最後に会いたい人
(藤原 視点)
若くして不治の病に罹ると、必ず可哀想って思う奴が居る。
やり残した事が一杯あったやろうって。
実際に不治の病を患ったけど、俺はあんまそう思わへんかった。
死ぬのは怖い。
でも、やりたかった事もまぁまぁ出来たし。
心残りがない訳ちゃうけど……。
家族残してまう事になるし。
あれ?
そう言やぁ随分前に、井本に何か頼んだ気ぃすんねんけど……何やったっけ?
思い出せへんわ。
いや、覚えてへんって言うた方が正しいか。
まぁ、何にしても。
もし、産まれ変われたら。
また井本に聞いてみたらええか。
*****
井本は、なんやかんや言うて毎日のように見舞いに来てくれてる。
今日も仕事の合間を縫って来てくれた。
「なぁ」
「何ぃ」
「……ピンの仕事どう?」
「今更何やねん?」
「何となく気になってん」
「まぁまぁかな。こんまま一人になっても平気なぐらいや」
もちろん冗談やと思うけど。
冗談には冗談で返したる。
「なら、俺が死んでも平気やな?」
井本は動きを止めた後、急に立ち上がり怒声を上げた。
「は……?」
「いやだから、俺が死んでも平気そうやなって思って」
「……お前な……何アホぬかしとんねん……。お前が……そない簡単に死ぬ訳ないやろ」
井本の声は静かやったけど、明らかに怒りをおびとった。
シンと静寂が病室に流れる。
俺は小さく溜息を吐いた。
「なに怒っとっんねん……お前。今日は頼み事しようと思ってたのに……」
「頼み事?」
病室の天井を見上げる。
「俺がもう今わの際って時になったら……ミサに逢いたいねん。連れて来てくれへんか?」
ミサ……嫁に内緒で付き合っとった愛しい人。
井本は目を伏せる。
「今わの際って……何やねん。嫌やわ、そんな遺言みたいな頼み事」
井本は怒った様子で病室を出て行った。
お前にしか頼めへん事やのに……。
いけずやわぁ。
*****
あれから一週間も経たん内に、俺の容体は悪化した。
……もうすぐ死んねんな、俺。
こめかみに涙が伝い落ちる。
ミサ……。
あれ以来、井本は見舞いに来うへん。
無理な頼みしてもうたかな?
ホンマごめん。
不意に、誰かが病室のドアを開ける。
誰?
まさか、とは思った。
細く長い指が、俺の手を優しく包む。
その人は、俺の顔を心配そうに覗き込んだ。
ずっと逢いたかった。
そう口に出して言いたかったけど、呼吸器があって上手く話せへん。
覗き込んだ顔を見て、更に涙が溢れた。
その顔は、間違えへん。
愛しい人の顔やった。
心の中でその名前を呼ぶ。
ミサ
まるで返事をするかのように握った手に力を入れる。
涙が、溢れて、止まらんかった。
ホンマに……逢いたかった。
最期に……逢えて良かった。
サヨナラ、ミサ。
アリガト、井本。
愛しとったで──。
THE END
(藤原 視点)
若くして不治の病に罹ると、必ず可哀想って思う奴が居る。
やり残した事が一杯あったやろうって。
実際に不治の病を患ったけど、俺はあんまそう思わへんかった。
死ぬのは怖い。
でも、やりたかった事もまぁまぁ出来たし。
心残りがない訳ちゃうけど……。
家族残してまう事になるし。
あれ?
そう言やぁ随分前に、井本に何か頼んだ気ぃすんねんけど……何やったっけ?
思い出せへんわ。
いや、覚えてへんって言うた方が正しいか。
まぁ、何にしても。
もし、産まれ変われたら。
また井本に聞いてみたらええか。
*****
井本は、なんやかんや言うて毎日のように見舞いに来てくれてる。
今日も仕事の合間を縫って来てくれた。
「なぁ」
「何ぃ」
「……ピンの仕事どう?」
「今更何やねん?」
「何となく気になってん」
「まぁまぁかな。こんまま一人になっても平気なぐらいや」
もちろん冗談やと思うけど。
冗談には冗談で返したる。
「なら、俺が死んでも平気やな?」
井本は動きを止めた後、急に立ち上がり怒声を上げた。
「は……?」
「いやだから、俺が死んでも平気そうやなって思って」
「……お前な……何アホぬかしとんねん……。お前が……そない簡単に死ぬ訳ないやろ」
井本の声は静かやったけど、明らかに怒りをおびとった。
シンと静寂が病室に流れる。
俺は小さく溜息を吐いた。
「なに怒っとっんねん……お前。今日は頼み事しようと思ってたのに……」
「頼み事?」
病室の天井を見上げる。
「俺がもう今わの際って時になったら……ミサに逢いたいねん。連れて来てくれへんか?」
ミサ……嫁に内緒で付き合っとった愛しい人。
井本は目を伏せる。
「今わの際って……何やねん。嫌やわ、そんな遺言みたいな頼み事」
井本は怒った様子で病室を出て行った。
お前にしか頼めへん事やのに……。
いけずやわぁ。
*****
あれから一週間も経たん内に、俺の容体は悪化した。
……もうすぐ死んねんな、俺。
こめかみに涙が伝い落ちる。
ミサ……。
あれ以来、井本は見舞いに来うへん。
無理な頼みしてもうたかな?
ホンマごめん。
不意に、誰かが病室のドアを開ける。
誰?
まさか、とは思った。
細く長い指が、俺の手を優しく包む。
その人は、俺の顔を心配そうに覗き込んだ。
ずっと逢いたかった。
そう口に出して言いたかったけど、呼吸器があって上手く話せへん。
覗き込んだ顔を見て、更に涙が溢れた。
その顔は、間違えへん。
愛しい人の顔やった。
心の中でその名前を呼ぶ。
ミサ
まるで返事をするかのように握った手に力を入れる。
涙が、溢れて、止まらんかった。
ホンマに……逢いたかった。
最期に……逢えて良かった。
サヨナラ、ミサ。
アリガト、井本。
愛しとったで──。
THE END