はきだめ
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きらい、と言われたから私はすきだよ、と返した。
幸村は、あの人は私のことを嫌いだと言う。その度に私は好きだと言う。飽きずに繰り返されるやり取りは今よりずっと昔に壊れてしまったラジオのようであった。
幸村は私のことを馬鹿な女だと言う。そんな馬鹿な女に自身の感情を刷り込む彼の思いに反し、私の馬鹿げた真っ白な頭は刷り込まれた感情を白妙へと塗り替える。
私はあの人にとって、正しく嫌忌の念を抱く愚かな女であった。
あの人はいつも私の視線を撫で、きらいだと言う。ある種神聖な儀式にも似たそれに私はそうだね、と口唇だけで言った。
「でも、あなたは私じゃないとだめだよ」
柳眉を微かに動かしたあの人の言葉が神様よりたもうたものならば、私のそれは呪詛に他ならなかった。
「わたしでないと、」
きらいなわたしでないと、呪いの詞にあの人の双眸が黙れと云わんばかりに歪められる。それに対し、何処までも浅慮な私はまた何も知らないように笑んでみせた。
幸村は、あの人は、すきなひとではだめなのだと言った。すきなひとを傷つけてしまうことがこわいのだと。玉繭に包み込むような、優しさと云うには身勝手にも程があるそれで愛したいのだと。だから、きらいなわたしでなければならないのだと。
あの人はあのとき、私にまじないを掛けたのだ。
果たして本当に呪いを掛けたのは、そして掛けられたのは幸村と私、一体どちらなのか。
答えは知らない。知るべくもない。確かなことなど何一つとしてない。
己の在り方にがんじがらめとなった私も、あの人もそのようにしか在れないのである。
嘆くわけでも抗うわけでもなく、今日も私は愚者の皮を被って粗末なまじないを掛ける。
ただ、それだけでしかないのだ。
…
(誰でも良いわけではない。)
幸村は、あの人は私のことを嫌いだと言う。その度に私は好きだと言う。飽きずに繰り返されるやり取りは今よりずっと昔に壊れてしまったラジオのようであった。
幸村は私のことを馬鹿な女だと言う。そんな馬鹿な女に自身の感情を刷り込む彼の思いに反し、私の馬鹿げた真っ白な頭は刷り込まれた感情を白妙へと塗り替える。
私はあの人にとって、正しく嫌忌の念を抱く愚かな女であった。
あの人はいつも私の視線を撫で、きらいだと言う。ある種神聖な儀式にも似たそれに私はそうだね、と口唇だけで言った。
「でも、あなたは私じゃないとだめだよ」
柳眉を微かに動かしたあの人の言葉が神様よりたもうたものならば、私のそれは呪詛に他ならなかった。
「わたしでないと、」
きらいなわたしでないと、呪いの詞にあの人の双眸が黙れと云わんばかりに歪められる。それに対し、何処までも浅慮な私はまた何も知らないように笑んでみせた。
幸村は、あの人は、すきなひとではだめなのだと言った。すきなひとを傷つけてしまうことがこわいのだと。玉繭に包み込むような、優しさと云うには身勝手にも程があるそれで愛したいのだと。だから、きらいなわたしでなければならないのだと。
あの人はあのとき、私にまじないを掛けたのだ。
果たして本当に呪いを掛けたのは、そして掛けられたのは幸村と私、一体どちらなのか。
答えは知らない。知るべくもない。確かなことなど何一つとしてない。
己の在り方にがんじがらめとなった私も、あの人もそのようにしか在れないのである。
嘆くわけでも抗うわけでもなく、今日も私は愚者の皮を被って粗末なまじないを掛ける。
ただ、それだけでしかないのだ。
…
(誰でも良いわけではない。)