はきだめ
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みょうじなまえには何とも妙ちきりんなある癖があった。
それは丸井ブン太の目から見て明らかであり、何なら誰の目から見てもそれは妙としかいえないものであった。
「だいせんじがけだらなよさ」
其の癖、とはよく唱えるようにこの謎の言葉を小さく口走ることであった。隣の丸井が訝しげに己を見るのにも構わず、繰り返し、繰り返し。
「なあ、ずっと気になってたんだけどよ、お前のそれって何なの」
あるとき、丸井が耐えかねてそれと指した癖について尋ねると、女はいつもの薄っぺらい笑みを浮かべ、閑やかな声でこう言い放った。
「これはね、おまじない」
おまじない、と丸井が繰り返す。すると女は平坦な口調で続けた。
「さみしくなると、いっつも言うの」
忘れる、ために。
たった一度、顔を合わせる機会のあったこの女と唯一今でも交流を続けているのが彼であった。
「だいせんじがけだらなよさ」
欠けた一人は引き合わせた男に繋がる。
置いていかれた女は今日も一人ぼっちでうたう。
「あの人が、教えてくれたのよ」
…
(置いていってしまった彼があの中の誰なのかはご想像にお任せします。あと、もうお気づきの方もいるかと思われますが、これは寺山修司御大の『だいせんじがけだらなよさ』という詩から着想を得て書いたものです。他にも好きな作品はたくさんあるのですが、特に好きなものの一つです。文庫版で詩集が出ていますので、気になる方はぜひ読んでみてください。)
それは丸井ブン太の目から見て明らかであり、何なら誰の目から見てもそれは妙としかいえないものであった。
「だいせんじがけだらなよさ」
其の癖、とはよく唱えるようにこの謎の言葉を小さく口走ることであった。隣の丸井が訝しげに己を見るのにも構わず、繰り返し、繰り返し。
「なあ、ずっと気になってたんだけどよ、お前のそれって何なの」
あるとき、丸井が耐えかねてそれと指した癖について尋ねると、女はいつもの薄っぺらい笑みを浮かべ、閑やかな声でこう言い放った。
「これはね、おまじない」
おまじない、と丸井が繰り返す。すると女は平坦な口調で続けた。
「さみしくなると、いっつも言うの」
忘れる、ために。
たった一度、顔を合わせる機会のあったこの女と唯一今でも交流を続けているのが彼であった。
「だいせんじがけだらなよさ」
欠けた一人は引き合わせた男に繋がる。
置いていかれた女は今日も一人ぼっちでうたう。
「あの人が、教えてくれたのよ」
…
(置いていってしまった彼があの中の誰なのかはご想像にお任せします。あと、もうお気づきの方もいるかと思われますが、これは寺山修司御大の『だいせんじがけだらなよさ』という詩から着想を得て書いたものです。他にも好きな作品はたくさんあるのですが、特に好きなものの一つです。文庫版で詩集が出ていますので、気になる方はぜひ読んでみてください。)