はきだめ
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髪を切った。
無精を重ね、以前切ったときよりもずっと伸びた髪を首に少しかかるくらいのところまで切った。
幼少の頃から髪の毛なんてどんなに短くしても肩下で切り揃えていたから、今まで髪の後ろに隠れていた首元が外気に晒される感覚には慣れなくて、何だか不思議な気分だった。
するりと撫でる風に何となく手のひらをうなじに軽く押し当てた。
母も友人も、そんな私のすっかり変わり果てた姿に大層驚き、挙って理由を尋ねてきた。
皆変な勘繰りをするけれど、何も私は何か嫌なことがあったとか、特に失恋なんかをしたとかそういうわけではない。
理由など至極単純で、何なら無いも同然であった。
「おー、バッサリいったな」
昼休み、不意に現れた男の声に振り向いた。「ブン太」
「どうしたの、うちのクラスにわざわざ」
「いや、クラスのヤツがうるせぇんだよ。お前の彼女が大失恋キメた、って、ついに別れたかなんて言われてさあ」
自分に掛けられた言葉を振り返りながらブン太は背後からくるくると毛先を弄ぶ。
あ、枝毛。ぼそりと呟かれた一言に首元の手を軽く叩いた。
そんなの見つけなくていいから。
ブン太は聞かない。私が何故髪を切ったのか。
母や友人と違い、ブン太は理由を知ろうとはしない。
これがなんだか妙に心地良くって、うまく言葉には出来ないけど、そんな関係ってすごくいいよなぁと思った。
夏が来るから、髪を切りましょう。
…
(佐藤究先生の『Q.J.K.J.Q』のこの一節がすごく好きです。帯と不気味な表紙に惹かれて読みましたが、終始物語に振り回されっぱなしでした。まさか、というところで着地するのでそういう話が好きな方にはぜひおすすめしたいです。)
無精を重ね、以前切ったときよりもずっと伸びた髪を首に少しかかるくらいのところまで切った。
幼少の頃から髪の毛なんてどんなに短くしても肩下で切り揃えていたから、今まで髪の後ろに隠れていた首元が外気に晒される感覚には慣れなくて、何だか不思議な気分だった。
するりと撫でる風に何となく手のひらをうなじに軽く押し当てた。
母も友人も、そんな私のすっかり変わり果てた姿に大層驚き、挙って理由を尋ねてきた。
皆変な勘繰りをするけれど、何も私は何か嫌なことがあったとか、特に失恋なんかをしたとかそういうわけではない。
理由など至極単純で、何なら無いも同然であった。
「おー、バッサリいったな」
昼休み、不意に現れた男の声に振り向いた。「ブン太」
「どうしたの、うちのクラスにわざわざ」
「いや、クラスのヤツがうるせぇんだよ。お前の彼女が大失恋キメた、って、ついに別れたかなんて言われてさあ」
自分に掛けられた言葉を振り返りながらブン太は背後からくるくると毛先を弄ぶ。
あ、枝毛。ぼそりと呟かれた一言に首元の手を軽く叩いた。
そんなの見つけなくていいから。
ブン太は聞かない。私が何故髪を切ったのか。
母や友人と違い、ブン太は理由を知ろうとはしない。
これがなんだか妙に心地良くって、うまく言葉には出来ないけど、そんな関係ってすごくいいよなぁと思った。
夏が来るから、髪を切りましょう。
…
(佐藤究先生の『Q.J.K.J.Q』のこの一節がすごく好きです。帯と不気味な表紙に惹かれて読みましたが、終始物語に振り回されっぱなしでした。まさか、というところで着地するのでそういう話が好きな方にはぜひおすすめしたいです。)