はきだめ
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たまに、本当にたまに。ごく稀にだが、夢を見ることがある。
その夢はいつだって突然に現れ、そして気まぐれにドアを叩く来訪者のようであったが、その内容は幾ら月日が巡ろうと、その日が片手で事足りる数の月であろうとなかろうと、主の日日曜日であろうと愛の女神の日金曜日であろうと決まって同じ内容であった。ひととせを繰り返すうちに、その分だけくっきりと跡を残したそれは奇妙なそれにも思えた。
夢の中で、オレはいつも一人の女に見下ろされていた。
見下ろされている、とはいっても押さえつけるようなものではなく、ただ単に体格の違いから目線が合わない故にそうなっているに過ぎないのだろう。
夢の中のオレはとうに過ぎ去った遠い日、幼少のみぎりの姿をしていた。己の頼りない腕を見つめ、次に隣の女へと視線を移した。
女はオレが見つめたほうとは逆の手を握り、ゆるやかな歩調で建造物に囲まれた通りを歩いていた。特段体格の良い女ではなかったが、肉体精神共に成長の過程にある子供と肉体精神共に一人前である大人との差はやはり無視できるものではない。小さな身体のオレはその手を握り返し、女の歩調より幾分か忙しなく足を動かしていた。
ふと、日差しを避けるように大きく鍔の広がる帽子をかぶった女が足取りを止める。すると同じく帽子をかぶったオレにそれを被せ直し、暑いねえと洩らした。
穏やかな声音の主をオレは見上げた。自身を見上げる隣の子供を目に止めると、女は目尻をやわらかくした。
「もう夏だね」
独り言なのか、それともオレの視線に対して寄越されたものなのかは定かではなかった。なだらかな調子に似つかわしい表情が浮かべられる。女は続けて、もう長いこと呼ばれず、またもう未来永劫呼ばれることはないであろう名を呼んだ。
じっとりとした空気を震わすそれに対し、オレは一つ頷いた。そんなオレに満足そうに顔を綻ばせた女はこの幼児の身体に腕を回し抱き上げた。幾ら子供と云えどそれなりの重さはある。全身に力をこめ、オレの身体を持ち上げた女の剥き出しの首元にはこの刺すような陽光のせいか、玉のような汗が滲んでいた。
だが不思議と嫌ではなかった。それは彼女がとつきとおか己をその身に宿し、あらゆる外敵から守ってみせた女だからなのかどうかは、オレには判然としなかった。
…
夏ですね。
その夢はいつだって突然に現れ、そして気まぐれにドアを叩く来訪者のようであったが、その内容は幾ら月日が巡ろうと、その日が片手で事足りる数の月であろうとなかろうと、主の日日曜日であろうと愛の女神の日金曜日であろうと決まって同じ内容であった。ひととせを繰り返すうちに、その分だけくっきりと跡を残したそれは奇妙なそれにも思えた。
夢の中で、オレはいつも一人の女に見下ろされていた。
見下ろされている、とはいっても押さえつけるようなものではなく、ただ単に体格の違いから目線が合わない故にそうなっているに過ぎないのだろう。
夢の中のオレはとうに過ぎ去った遠い日、幼少のみぎりの姿をしていた。己の頼りない腕を見つめ、次に隣の女へと視線を移した。
女はオレが見つめたほうとは逆の手を握り、ゆるやかな歩調で建造物に囲まれた通りを歩いていた。特段体格の良い女ではなかったが、肉体精神共に成長の過程にある子供と肉体精神共に一人前である大人との差はやはり無視できるものではない。小さな身体のオレはその手を握り返し、女の歩調より幾分か忙しなく足を動かしていた。
ふと、日差しを避けるように大きく鍔の広がる帽子をかぶった女が足取りを止める。すると同じく帽子をかぶったオレにそれを被せ直し、暑いねえと洩らした。
穏やかな声音の主をオレは見上げた。自身を見上げる隣の子供を目に止めると、女は目尻をやわらかくした。
「もう夏だね」
独り言なのか、それともオレの視線に対して寄越されたものなのかは定かではなかった。なだらかな調子に似つかわしい表情が浮かべられる。女は続けて、もう長いこと呼ばれず、またもう未来永劫呼ばれることはないであろう名を呼んだ。
じっとりとした空気を震わすそれに対し、オレは一つ頷いた。そんなオレに満足そうに顔を綻ばせた女はこの幼児の身体に腕を回し抱き上げた。幾ら子供と云えどそれなりの重さはある。全身に力をこめ、オレの身体を持ち上げた女の剥き出しの首元にはこの刺すような陽光のせいか、玉のような汗が滲んでいた。
だが不思議と嫌ではなかった。それは彼女がとつきとおか己をその身に宿し、あらゆる外敵から守ってみせた女だからなのかどうかは、オレには判然としなかった。
…
夏ですね。