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「俺は、君が思っているほどいい人ではないんだよ」
ほんの少し、よく目を凝らさなければ分からないほど僅かに眉の間にしわを寄せながら幸村さんはそう言った。
叱りつけるような調子に、私は見に覚えのない悪事を咎められたような心地で「うん」と生返事とも云える反応を返す。
しかし、どうやらそれは期待していた反応ではなかったらしい。結果として、眉間のしわはさらに深められることとなった。普段は滅多に感情の波を窺わせないのに、珍しいこともあるものだと無関係な者のように口の中だけで呟いた。
「君は何も分かっていないんだ」
焦燥のような、そんな何かが入り交じった声が震えた。意識の介さないところで思わず目をすがめたが、幸村さんはそれを何ととったのか、口の端を歪めた。「いいかい?」
「俺はね、君がこのまま何も言わないなら、それをいいことに君を手籠めにしようとしている悪い男なんだ」
等しく置き換えられた言葉に、私は黙って耳を傾けた。
それから口を閉ざしたままの私に幸村さんは理解しろ、と目で訴えかけてきた。
でも吊るし上げられた理論は無茶苦茶にも程があって、何なら矛盾だらけの出来損ない同然であった。
突き放すような言い方をしているくせに、警告としての役割は少しも果たしていなかった。そもそもそんな役割を担った覚えすらないと云わんばかりの言葉に、私はうっすら目を細めた。
そんなのって、おかしいでしょ。「お兄さん」私を突き放すような態度をとっておきながら、言葉は確かな意思を以て私という女を篭絡しようと妖しく頬を撫でてみせる。
「お兄さんが悪い男かどうかは、私が決めるよ」
この場において一体何が正しく、そして最善なのかは分からない。
知らぬ間に潜り込んだ苦虫を加減なしに噛み潰してしまったような気分で今の心情を最も端的に表した言葉を放った。それは徹頭徹尾その姿を変えることのなかった私のこころに他ならなかった。
先の言葉通り本当に悪い男であるならば、好きなだけ手籠めにしてくれよ。
そのためならば私は幾らでも口を閉ざし続けよう。そうして幸村さんはそんな私を理由にしてしまえばいい。
幼い時分というのは往々にして自身のことを気に掛けてくれる人に対し思慕の念を抱いてしまうもので。かくいう私もその一人であった。ただ一つ違うことがあるとすれば、十二時になれば解けてしまう所詮まやかしに過ぎないそれを見事恋心にまで昇華させてしまったことだった。
そんな幼い恋を未だに引きずるこのどうしようもない女をもし叶うというならば掬い上げてほしかった。
仮に今、この口から言えることがあるとすれば。
幸村さんは、お兄さんはずるい男の人であった。しかも、とびきりの。
「俺は、君が思っているほどいい人ではないんだよ」
ほんの少し、よく目を凝らさなければ分からないほど僅かに眉の間にしわを寄せながら幸村さんはそう言った。
叱りつけるような調子に、私は見に覚えのない悪事を咎められたような心地で「うん」と生返事とも云える反応を返す。
しかし、どうやらそれは期待していた反応ではなかったらしい。結果として、眉間のしわはさらに深められることとなった。普段は滅多に感情の波を窺わせないのに、珍しいこともあるものだと無関係な者のように口の中だけで呟いた。
「君は何も分かっていないんだ」
焦燥のような、そんな何かが入り交じった声が震えた。意識の介さないところで思わず目をすがめたが、幸村さんはそれを何ととったのか、口の端を歪めた。「いいかい?」
「俺はね、君がこのまま何も言わないなら、それをいいことに君を手籠めにしようとしている悪い男なんだ」
等しく置き換えられた言葉に、私は黙って耳を傾けた。
それから口を閉ざしたままの私に幸村さんは理解しろ、と目で訴えかけてきた。
でも吊るし上げられた理論は無茶苦茶にも程があって、何なら矛盾だらけの出来損ない同然であった。
突き放すような言い方をしているくせに、警告としての役割は少しも果たしていなかった。そもそもそんな役割を担った覚えすらないと云わんばかりの言葉に、私はうっすら目を細めた。
そんなのって、おかしいでしょ。「お兄さん」私を突き放すような態度をとっておきながら、言葉は確かな意思を以て私という女を篭絡しようと妖しく頬を撫でてみせる。
「お兄さんが悪い男かどうかは、私が決めるよ」
この場において一体何が正しく、そして最善なのかは分からない。
知らぬ間に潜り込んだ苦虫を加減なしに噛み潰してしまったような気分で今の心情を最も端的に表した言葉を放った。それは徹頭徹尾その姿を変えることのなかった私のこころに他ならなかった。
先の言葉通り本当に悪い男であるならば、好きなだけ手籠めにしてくれよ。
そのためならば私は幾らでも口を閉ざし続けよう。そうして幸村さんはそんな私を理由にしてしまえばいい。
幼い時分というのは往々にして自身のことを気に掛けてくれる人に対し思慕の念を抱いてしまうもので。かくいう私もその一人であった。ただ一つ違うことがあるとすれば、十二時になれば解けてしまう所詮まやかしに過ぎないそれを見事恋心にまで昇華させてしまったことだった。
そんな幼い恋を未だに引きずるこのどうしようもない女をもし叶うというならば掬い上げてほしかった。
仮に今、この口から言えることがあるとすれば。
幸村さんは、お兄さんはずるい男の人であった。しかも、とびきりの。