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はじめてそれをちゃんと目にしたとき、先ず一番に思ったのは”おいしそう”だった。
口内の唾液の量は明らかに増え、腹の虫がぐるぐると疼くのをあのとき、確かに感じた。溜まった唾を飲み込み、目を逸らそうとするも白い襟からちらと覗いたそれは嫌味なくらいきれいな肌色で、妙に艶かしくて、でもやっぱり一番はおいしそうで、どうにも逸らすことは出来なかった。
目を瞑るとそればかりが頭に思い浮かぶ。気づいたらそれのことを考えている。
こんな動物みたいな考え、とも思うが私には柳くんのうなじがどうしてもおいしそうに思えてならなかった。
柳くん、とは私と同じクラスで前の席の柳蓮二くんのことである。
彼といえば教科問わず突出して優秀な成績と、全国でもトップクラスの実力を持つテニス部でも実力者で、まさに文武両道を完璧な形にしたような人、というのが私の抱く主な印象であった。他にも生徒会に所属していたり、図書委員によれば年間の読書量は校内ぶっちぎりだとか。
もうそれは人間の許容量を軽々超えていて、ふざけた話だが私は彼のことを同じ人間ではなく宇宙の彼方、何処かの惑星から地球を征服すべくやって来た地球外生命体の類いではないかと密かに疑っていた時期があった(この時期の私は深夜によくやるSF映画にハマっていた)。
しかし、というべきか何というべきか驚くことにそれだけでは終わらないのだ。更に彼は理知的で同年代と比べて格段に落ち着いていて、また非常に面倒見もよく、その穏やかな人柄はとても同い年のそれとは思えないほどにパーフェクトなものであった。そして派手さは無くとも整った顔立ちといい、本当に前世でどれだけの得をつめばそんな風になるのか。
やはり柳くんは人間ではないのか、と再び湧き上がる疑念を封じ込めつつ、日々日々何となく窺うにつれてその思いは深まっていくばかりだ。
そんな神様みたいにすごい人に、何と私は下賤もいいところな獣じみた欲を抱いている。勿論、自分でもどうかと思う。でも、彼の後ろの席になって、授業中にノートを取るため俯いたときに覗いたあのうなじ、あれが見えたときに先ず抱いた情に私はずっと囚われたままなのだ。ちらちらと覗く度にどきどきしてしょうがないし、ごくりと鳴る喉を止められない。口に溜まる唾液がいつの間にか垂れ流されていないかあの50分、ふとした瞬間に心配するようになった。
胸が高鳴るだけならばこの感情に恋と名前をつけられるけど、美味しいものを目の前にしたような現象は食欲という名前のほうがずっと相応しい気がした。
ぐるぐると鳴る喉を隅に、この情欲の行き場をどうしようかと唇を舐めた。
提出日を間違えて、家に課題を忘れた私は昨日担当教師に翌日の朝 時までに提出するという約束を取り付けられた。今日はその約束を守るため、泣く泣く何時もならばまだ悠々と自宅に居る時間に校門をくぐった。眠い目をこすりながら、職員室に行く前に取り敢えず荷物は置いていこうと教室の扉を開ける。
しんと静まりかえった其処には誰もいないものだと思っていたが、私の座席の前、其処ただ一つ、
「おはよう、みょうじ」
その座席の主は此方を向き、閉じた双眸を合わせた。
その主こそ図らずも私の欲の対象である、件の柳くんであった。
「、お、はよう」
驚きのあまり、思わず詰まった息を吐き出し口を開くと同じ言葉を吃りながら押し出した。
「根津先生は今日は朝補習だ、職員室ではなく二年の多目的教室に向かうといい」
「え!あ、そうなんだ…ありがとう」
更に唐突な親切に夢見心地でふらふらと自分の机へと歩を進め、肩の鞄を下ろした。
やっぱり、まだ夢なのかもしれないとさっさとノートに向かい合ってしまった彼の首筋を無意識に見つめながら思った。
あ、いけない。途端に多量に分泌され始める唾液。ぐるぐると鳴る喉に自分が肉食動物にでもなったかのような心持となった。
薄く開いた口唇から舌が出ていこうとする。
どうやら、無駄に獣じみたせいで私のなかの自制心というやつはすっかり消え失せてしまったらしい。
そうして気がついたときには私は誘うように覗くうなじを覆う白い襟を引き寄せ、そして周りより幾分か白みを帯びた其処に歯を立てていた。
歯を立てた其処をべろり、と舌で撫で、離れると同時に弾かれるように勢いよく彼は振り向いた。振り返った彼の顔は蒸気しており、平素閉じられた目は見開かれていた。
普通なら此処で理解など追いつかないだろうが、そんな普通よりずっと聡いことが此処では仇となったようだ、と唇を舐めながら他人事のように考えた。
わなわなと震え、首に手を押し当てる彼は思ったよりも普通で、かわいらしいなと思った。
「、な」
流れとか、順序立てとか、そういったものは一切無い。いただきますの一つも無いとは無礼者もいいところだろう。
結論から云えば、柳くんは神様なんかではなく正真正銘人間で、私の彼に対する情欲は恋心と食欲が混じりあったとても厄介なものであることを私は此処ではっきり理解することとなったのである。
口内の唾液の量は明らかに増え、腹の虫がぐるぐると疼くのをあのとき、確かに感じた。溜まった唾を飲み込み、目を逸らそうとするも白い襟からちらと覗いたそれは嫌味なくらいきれいな肌色で、妙に艶かしくて、でもやっぱり一番はおいしそうで、どうにも逸らすことは出来なかった。
目を瞑るとそればかりが頭に思い浮かぶ。気づいたらそれのことを考えている。
こんな動物みたいな考え、とも思うが私には柳くんのうなじがどうしてもおいしそうに思えてならなかった。
柳くん、とは私と同じクラスで前の席の柳蓮二くんのことである。
彼といえば教科問わず突出して優秀な成績と、全国でもトップクラスの実力を持つテニス部でも実力者で、まさに文武両道を完璧な形にしたような人、というのが私の抱く主な印象であった。他にも生徒会に所属していたり、図書委員によれば年間の読書量は校内ぶっちぎりだとか。
もうそれは人間の許容量を軽々超えていて、ふざけた話だが私は彼のことを同じ人間ではなく宇宙の彼方、何処かの惑星から地球を征服すべくやって来た地球外生命体の類いではないかと密かに疑っていた時期があった(この時期の私は深夜によくやるSF映画にハマっていた)。
しかし、というべきか何というべきか驚くことにそれだけでは終わらないのだ。更に彼は理知的で同年代と比べて格段に落ち着いていて、また非常に面倒見もよく、その穏やかな人柄はとても同い年のそれとは思えないほどにパーフェクトなものであった。そして派手さは無くとも整った顔立ちといい、本当に前世でどれだけの得をつめばそんな風になるのか。
やはり柳くんは人間ではないのか、と再び湧き上がる疑念を封じ込めつつ、日々日々何となく窺うにつれてその思いは深まっていくばかりだ。
そんな神様みたいにすごい人に、何と私は下賤もいいところな獣じみた欲を抱いている。勿論、自分でもどうかと思う。でも、彼の後ろの席になって、授業中にノートを取るため俯いたときに覗いたあのうなじ、あれが見えたときに先ず抱いた情に私はずっと囚われたままなのだ。ちらちらと覗く度にどきどきしてしょうがないし、ごくりと鳴る喉を止められない。口に溜まる唾液がいつの間にか垂れ流されていないかあの50分、ふとした瞬間に心配するようになった。
胸が高鳴るだけならばこの感情に恋と名前をつけられるけど、美味しいものを目の前にしたような現象は食欲という名前のほうがずっと相応しい気がした。
ぐるぐると鳴る喉を隅に、この情欲の行き場をどうしようかと唇を舐めた。
提出日を間違えて、家に課題を忘れた私は昨日担当教師に翌日の朝 時までに提出するという約束を取り付けられた。今日はその約束を守るため、泣く泣く何時もならばまだ悠々と自宅に居る時間に校門をくぐった。眠い目をこすりながら、職員室に行く前に取り敢えず荷物は置いていこうと教室の扉を開ける。
しんと静まりかえった其処には誰もいないものだと思っていたが、私の座席の前、其処ただ一つ、
「おはよう、みょうじ」
その座席の主は此方を向き、閉じた双眸を合わせた。
その主こそ図らずも私の欲の対象である、件の柳くんであった。
「、お、はよう」
驚きのあまり、思わず詰まった息を吐き出し口を開くと同じ言葉を吃りながら押し出した。
「根津先生は今日は朝補習だ、職員室ではなく二年の多目的教室に向かうといい」
「え!あ、そうなんだ…ありがとう」
更に唐突な親切に夢見心地でふらふらと自分の机へと歩を進め、肩の鞄を下ろした。
やっぱり、まだ夢なのかもしれないとさっさとノートに向かい合ってしまった彼の首筋を無意識に見つめながら思った。
あ、いけない。途端に多量に分泌され始める唾液。ぐるぐると鳴る喉に自分が肉食動物にでもなったかのような心持となった。
薄く開いた口唇から舌が出ていこうとする。
どうやら、無駄に獣じみたせいで私のなかの自制心というやつはすっかり消え失せてしまったらしい。
そうして気がついたときには私は誘うように覗くうなじを覆う白い襟を引き寄せ、そして周りより幾分か白みを帯びた其処に歯を立てていた。
歯を立てた其処をべろり、と舌で撫で、離れると同時に弾かれるように勢いよく彼は振り向いた。振り返った彼の顔は蒸気しており、平素閉じられた目は見開かれていた。
普通なら此処で理解など追いつかないだろうが、そんな普通よりずっと聡いことが此処では仇となったようだ、と唇を舐めながら他人事のように考えた。
わなわなと震え、首に手を押し当てる彼は思ったよりも普通で、かわいらしいなと思った。
「、な」
流れとか、順序立てとか、そういったものは一切無い。いただきますの一つも無いとは無礼者もいいところだろう。
結論から云えば、柳くんは神様なんかではなく正真正銘人間で、私の彼に対する情欲は恋心と食欲が混じりあったとても厄介なものであることを私は此処ではっきり理解することとなったのである。