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じと、と身体を蝕むような熱気に眉をひそめ、薄いシャツ越しの腹をやや乱暴な手つきで掻きむしった。
「あー、あっつ…」
枕元のスマホを起動させると直ぐ様点灯する画面の光に寝ぼけた眼を思わず瞑るも、時刻だけは確認してまた直ぐに電源を切った。
現在、草木も眠る丑三つ時を過ぎた深夜三時を回ったところだ。何という微妙な時間。勿論二度寝を決め込むつもりだが、もうすぐというわけでは無いにしろ深夜にしては夜明けが近すぎる。
ただでさえ暑さで寝つきづらいというのに眠気の覚めつつある頭。汗ばむ肌が気持ち悪く、かろうじて太ももに掛けられていた肌掛けを完全に剥いだ。
渇いた喉が水分を欲していたが、起き上がる気にもなれず、結局寝返りを打つだけに留めた。適当に目を瞑るも、やはりまとわりつく熱気が気になって仕方がない。
暑い。暑いったら暑い。
夕方のニュースでは早くも今季一番の熱帯夜だとお馴染みの気象予報士は言っていた。それを扇風機一つで凌ごうというのがそもそもおかしいのだ。
ぐるぐると寝返りを打ちながら、このままでは埒があかないと私はうだるような暑さに引きずられる自分の身体を起こした。冷えた麦茶でも飲んでちゃっちゃと寝てしまおう。部屋の空気に負けず劣らず熱を孕んだ息を吐き出したところで、隣でいかにも安らかそうな寝顔を晒す男が目に入って、何とも憎らしいような気持ちがむくむくと沸き上がってきた。
この男、熱帯夜になるということを聞き、今年初のクーラーをつけようとした私に「まだ早いだろう」だとか何とか言ってリモコンを取り上げたのだ。そしていつもの扇風機一つつけておねんね。冗談じゃない。今季一番の熱帯夜で、しかも狭いベッドで二人身を寄せ合って寝るってのにちょっとボロい扇風機一つって。しかもなんとこの男、涼しそうな顔をしておいて体温はそれなりに高い。湯たんぽ二人が並んでいれば暑いに決まっているのだ。扇風機一つでどうこうできるわけがない。
くっそ、すやすや寝やがって。恨めしさを込めてじいっと見つめていると、鼻でもつまんでやりたくなって、すっと通った鼻筋を小さくつまんだ。平素閉ざされた眼は夢の中の今でも当然ながら瞑られていて、いつも寝ているか起きているか分かんないなとぼんやり思った。鼻から指を離し、頬をつつく。薄く開いた唇から微かに漏れる呼吸は、起きる気配を見せない。気まぐれのように動く指は悪戯っ子に見事変わり、目蓋に柔く推し当てられた。
「こら」
閉ざされたそれを開かせようとしたところで下半身から身体ごと引き寄せられた。尻に足を掛けられ、思い切り密着した身体は私を閉じ込めるみたいに腕を湿っぽい背中に回した。
私はぎゃ、と間抜けな声を上げ、暑い暑いと喚いた。「はーなーせー」足をバタつかせると、他人事のようにははは、なんて笑われた。
「いつから起きてたの」
「何度も寝返りを打っていただろう」
「ほーん、あ、ねぇねぇやっぱクーラーつけようよ」
「まだ六月だぞ、今からこんな調子でどうする」
「えー、だって今季一番の熱帯夜だよ?扇風機だけじゃ無理だよ、無理」
「どうせ明日明後日には更新されるぞ」
「今日からずっとつけて寝ればいいじゃん~!」
「またお前は直ぐにそういう堪え性のないことを言って…」
「れーんーじー!」
ぎゃーすか喚けど何処吹く風の蓮二にはちっとも通用せず、はいはい、なんてどうでもよさそうな返事を寄越されるだけだ。
「ほら、寝ろ」
「もう眠れる気がしない」
「俺は眠い」
素っ気なく返され、途端に勢いを削がれてしまった私は口をすぼめた。渋々目を瞑ると、「ちゃんと掛けて寝ろよ、風邪を引く」と追いやった筈の肌掛けが腹から足にかけて被せられた。
やっぱり暑いけど、これ以上とやかく言うのもあれなので、何も言わずに言う通りにする。
肌掛けを引き寄せた手がぽん、ぽん、という一定のリズムで私の背中を優しく撫でる。
こんなことするの、お母さんか蓮二くらいだよ。けれどそれこそ野暮ってものなので私は今度こそ目を瞑った。
「おやすみ、なまえ」
じと、と身体を蝕むような熱気に眉をひそめ、薄いシャツ越しの腹をやや乱暴な手つきで掻きむしった。
「あー、あっつ…」
枕元のスマホを起動させると直ぐ様点灯する画面の光に寝ぼけた眼を思わず瞑るも、時刻だけは確認してまた直ぐに電源を切った。
現在、草木も眠る丑三つ時を過ぎた深夜三時を回ったところだ。何という微妙な時間。勿論二度寝を決め込むつもりだが、もうすぐというわけでは無いにしろ深夜にしては夜明けが近すぎる。
ただでさえ暑さで寝つきづらいというのに眠気の覚めつつある頭。汗ばむ肌が気持ち悪く、かろうじて太ももに掛けられていた肌掛けを完全に剥いだ。
渇いた喉が水分を欲していたが、起き上がる気にもなれず、結局寝返りを打つだけに留めた。適当に目を瞑るも、やはりまとわりつく熱気が気になって仕方がない。
暑い。暑いったら暑い。
夕方のニュースでは早くも今季一番の熱帯夜だとお馴染みの気象予報士は言っていた。それを扇風機一つで凌ごうというのがそもそもおかしいのだ。
ぐるぐると寝返りを打ちながら、このままでは埒があかないと私はうだるような暑さに引きずられる自分の身体を起こした。冷えた麦茶でも飲んでちゃっちゃと寝てしまおう。部屋の空気に負けず劣らず熱を孕んだ息を吐き出したところで、隣でいかにも安らかそうな寝顔を晒す男が目に入って、何とも憎らしいような気持ちがむくむくと沸き上がってきた。
この男、熱帯夜になるということを聞き、今年初のクーラーをつけようとした私に「まだ早いだろう」だとか何とか言ってリモコンを取り上げたのだ。そしていつもの扇風機一つつけておねんね。冗談じゃない。今季一番の熱帯夜で、しかも狭いベッドで二人身を寄せ合って寝るってのにちょっとボロい扇風機一つって。しかもなんとこの男、涼しそうな顔をしておいて体温はそれなりに高い。湯たんぽ二人が並んでいれば暑いに決まっているのだ。扇風機一つでどうこうできるわけがない。
くっそ、すやすや寝やがって。恨めしさを込めてじいっと見つめていると、鼻でもつまんでやりたくなって、すっと通った鼻筋を小さくつまんだ。平素閉ざされた眼は夢の中の今でも当然ながら瞑られていて、いつも寝ているか起きているか分かんないなとぼんやり思った。鼻から指を離し、頬をつつく。薄く開いた唇から微かに漏れる呼吸は、起きる気配を見せない。気まぐれのように動く指は悪戯っ子に見事変わり、目蓋に柔く推し当てられた。
「こら」
閉ざされたそれを開かせようとしたところで下半身から身体ごと引き寄せられた。尻に足を掛けられ、思い切り密着した身体は私を閉じ込めるみたいに腕を湿っぽい背中に回した。
私はぎゃ、と間抜けな声を上げ、暑い暑いと喚いた。「はーなーせー」足をバタつかせると、他人事のようにははは、なんて笑われた。
「いつから起きてたの」
「何度も寝返りを打っていただろう」
「ほーん、あ、ねぇねぇやっぱクーラーつけようよ」
「まだ六月だぞ、今からこんな調子でどうする」
「えー、だって今季一番の熱帯夜だよ?扇風機だけじゃ無理だよ、無理」
「どうせ明日明後日には更新されるぞ」
「今日からずっとつけて寝ればいいじゃん~!」
「またお前は直ぐにそういう堪え性のないことを言って…」
「れーんーじー!」
ぎゃーすか喚けど何処吹く風の蓮二にはちっとも通用せず、はいはい、なんてどうでもよさそうな返事を寄越されるだけだ。
「ほら、寝ろ」
「もう眠れる気がしない」
「俺は眠い」
素っ気なく返され、途端に勢いを削がれてしまった私は口をすぼめた。渋々目を瞑ると、「ちゃんと掛けて寝ろよ、風邪を引く」と追いやった筈の肌掛けが腹から足にかけて被せられた。
やっぱり暑いけど、これ以上とやかく言うのもあれなので、何も言わずに言う通りにする。
肌掛けを引き寄せた手がぽん、ぽん、という一定のリズムで私の背中を優しく撫でる。
こんなことするの、お母さんか蓮二くらいだよ。けれどそれこそ野暮ってものなので私は今度こそ目を瞑った。
「おやすみ、なまえ」