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※年齢操作
絡めとられた指を清涼とした感覚で見つめる。
絡めとった指は仄白くまるで血の通わないそれで、彼女の生との隔絶を幽かに感じさせた。
「蓮二」
今迄何遍も何遍もそう紡いでみせたなまえは事も無げに抑揚のない声音で今再び、己の名を呼んだ。
音も声も、耳に馴染む筈なのに一体何がそうさせるのか、俺の頭はそれを異邦人として認識した。
「私が、今から魔法をかけます」
伏された睫毛をそのままに、動きの封じられた手の甲に額を寄せる。
その余りに寂々たる様に須臾の間、息の緒を断ち切られたような心地がした。しかし、彼女は何もかもを捻じ切るかの如く其処に在りながら、その姿には酷薄さなど露ほどもない。
何処か少女のような頼りなさを奥底に秘めた姿は平時よりずっと弱々しく、また今にも夜陰へと消え入ってしまいそうなものであった。
額を離し、無間にも似たひと時を了いとした彼女は静かにその視線を俺のそれと交わらせた。
「あなたはこれから、…何があっても、幸せになります」
宣告を受け入れよ、と神を騙った彼女は告げる。
なまえ、と咄嗟に名前を呼ぼうとすると、それを制するように眉相にうっすらと皺を寄せながら目が細められた。
「しあわせになってね」
れんじ、といつになく拙く発せられた名前を、込み上げる悲歎の情と共になぞる。
これから俺はお前を置いて、此処から去る。俺たちの結付はそれで綺麗さっぱり絶たれる。切れた糸が繋がることなど有り得ない。
だが、蜥蜴の尾を切るような形で離別することとなったお前のことを、俺はきっと思い出とすることは出来ないだろう。
お前はそんな俺を嗤うだろうか。自身のことを顧みない男に、最大級の蔑視をくれてやるだろうか。今になり都合よく求めてくる男を口汚く罵り、屑か何かのように掃き溜めへと打ち捨てるだろうか。
答えは否だ。どれだけ恨みがましく、憎らしく思ったとしてもお前は、最後には俺という男を赦してしまうのだろう。
もう必要とされることのなくなってしまった愛情を以て、過ぎた利己主義すらも咎めず、己の名の下に免罪符を与えてしまうのだろう。
今となっては無意味となってしまったあの共に過ごした年月、宣告、そして祈りはそれを明々白々なものとしていた。
一寸の綻びもないその情は深遠にも及ぶ。底の見えない淵叢で彼女は神にも魔法使いにも、ただ一人の人間にもなってみせる。
やはり俺は、お前という人間を思い出とすることは出来ないだろう。
屍と成り果てた愛以外に、思い出と成る資格は得られないのだ。
絡めとられた指を清涼とした感覚で見つめる。
絡めとった指は仄白くまるで血の通わないそれで、彼女の生との隔絶を幽かに感じさせた。
「蓮二」
今迄何遍も何遍もそう紡いでみせたなまえは事も無げに抑揚のない声音で今再び、己の名を呼んだ。
音も声も、耳に馴染む筈なのに一体何がそうさせるのか、俺の頭はそれを異邦人として認識した。
「私が、今から魔法をかけます」
伏された睫毛をそのままに、動きの封じられた手の甲に額を寄せる。
その余りに寂々たる様に須臾の間、息の緒を断ち切られたような心地がした。しかし、彼女は何もかもを捻じ切るかの如く其処に在りながら、その姿には酷薄さなど露ほどもない。
何処か少女のような頼りなさを奥底に秘めた姿は平時よりずっと弱々しく、また今にも夜陰へと消え入ってしまいそうなものであった。
額を離し、無間にも似たひと時を了いとした彼女は静かにその視線を俺のそれと交わらせた。
「あなたはこれから、…何があっても、幸せになります」
宣告を受け入れよ、と神を騙った彼女は告げる。
なまえ、と咄嗟に名前を呼ぼうとすると、それを制するように眉相にうっすらと皺を寄せながら目が細められた。
「しあわせになってね」
れんじ、といつになく拙く発せられた名前を、込み上げる悲歎の情と共になぞる。
これから俺はお前を置いて、此処から去る。俺たちの結付はそれで綺麗さっぱり絶たれる。切れた糸が繋がることなど有り得ない。
だが、蜥蜴の尾を切るような形で離別することとなったお前のことを、俺はきっと思い出とすることは出来ないだろう。
お前はそんな俺を嗤うだろうか。自身のことを顧みない男に、最大級の蔑視をくれてやるだろうか。今になり都合よく求めてくる男を口汚く罵り、屑か何かのように掃き溜めへと打ち捨てるだろうか。
答えは否だ。どれだけ恨みがましく、憎らしく思ったとしてもお前は、最後には俺という男を赦してしまうのだろう。
もう必要とされることのなくなってしまった愛情を以て、過ぎた利己主義すらも咎めず、己の名の下に免罪符を与えてしまうのだろう。
今となっては無意味となってしまったあの共に過ごした年月、宣告、そして祈りはそれを明々白々なものとしていた。
一寸の綻びもないその情は深遠にも及ぶ。底の見えない淵叢で彼女は神にも魔法使いにも、ただ一人の人間にもなってみせる。
やはり俺は、お前という人間を思い出とすることは出来ないだろう。
屍と成り果てた愛以外に、思い出と成る資格は得られないのだ。