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突如として扉から現れた、魔法使いと云えば真っ先に連想されるようなとんがり帽子と古くさい黒の布を纏った姿に幸村は一瞬目を剥いた。
「どうしたのそれ」
思わず口をついて出た言葉に、そんな珍妙とも云える格好をした張本人は何処か得意気に歯を見せた。
よく目を凝らしてみればローブのようなそれはすっかり日に焼け古びたカーテンで、そんなもの何処から持ってきたんだと問うてみたいような、そんな気持ちに彼は駆られた。
「幸村くんに魔法をかけてあげる」
投げかけられた問いには答えず、なまえは魔女の垂らす毒というには少女じみた爛漫さで誇らしげな子供のように口元を綻ばせた。
え、と幸村が素っ頓狂な声を上げる前にローブが翻され、少し埃っぽい匂いが漂う。身体を被うそれから腕を出した彼女の手には中途半端な長さの枝が握られていた。手の中のそれの先を向けられ、気圧されるように彼は僅かに背を反らした。
「ちちんぷいぷい」
しかしこの場はすっかり彼女のペースであり、彼のことなど何処吹く風。枝先でくるくると円を描きながら古今東西お馴染みの古典的な呪文を唱えると、また目尻を下げた。
「たった今、幸村くんに魔法をかけました」
ふふ、と愉快そうに笑うなまえに「なんの魔法をかけてくれたの?」と大人しくペースに巻き込まれた彼はそんな彼女を真似るように頬を緩ませ、再び問うた。それに対し、なまえは満足そうに一層笑みを深め、弧を描く口唇を動かした。
「幸村くんが私を好きになる魔法」
さらりと告げられた言葉に幸村は今度こそ「え、」と素っ頓狂な声を上げた。
幸村くんが、私を、好きになる?
俺が、君を?
そのあまりに平然とした様子に一瞬聞き間違いかとも思ったが、自身の耳は確かにそう拾ったと彼の側頭葉は言った。
そして此方を黙って見据えるなまえに、もつれ合う思考はさらにこんがらがる。そもそも、こういうのって伝えた本人のほうが平静を保てないものではないのか。どちらかと云えば伝えられた自身のほうがいっぱいいっぱいだと彼女との落ち着き具合の差と未だ理解し難い状況に彼は茫然自失となった。
「すきになってね」
そんな沈黙に一石を投じる一言に、彼女が俺のことを好き?という一点で堂々巡りを繰り返すばかりの幸村のそれこそ動きの悪すぎる思考はそれで見事に霧散した。序でに今まで普通に友達だったのに、という野暮も共に吹き飛んだ。
先程までいかにも余裕綽々たる様子であったなまえの両の眼が水月のように揺らいだことを、彼の双眸は無意識のうちにしかと目に焼きつけてしまったのである。
微かに食まれた唇がほんの僅かに歪んだことも併せ、ついさっきまで名称友達であった彼女は少なくとも、今この時だけは間違いなく、彼の世界の中心となった。
垣間見てしまった一面に、容易く心の臓を撃ち抜かれてしまったことは幸村精市、彼もまた立派な一人の少年であったということでどうか一つ、許していただきたいものである。
「どうしたのそれ」
思わず口をついて出た言葉に、そんな珍妙とも云える格好をした張本人は何処か得意気に歯を見せた。
よく目を凝らしてみればローブのようなそれはすっかり日に焼け古びたカーテンで、そんなもの何処から持ってきたんだと問うてみたいような、そんな気持ちに彼は駆られた。
「幸村くんに魔法をかけてあげる」
投げかけられた問いには答えず、なまえは魔女の垂らす毒というには少女じみた爛漫さで誇らしげな子供のように口元を綻ばせた。
え、と幸村が素っ頓狂な声を上げる前にローブが翻され、少し埃っぽい匂いが漂う。身体を被うそれから腕を出した彼女の手には中途半端な長さの枝が握られていた。手の中のそれの先を向けられ、気圧されるように彼は僅かに背を反らした。
「ちちんぷいぷい」
しかしこの場はすっかり彼女のペースであり、彼のことなど何処吹く風。枝先でくるくると円を描きながら古今東西お馴染みの古典的な呪文を唱えると、また目尻を下げた。
「たった今、幸村くんに魔法をかけました」
ふふ、と愉快そうに笑うなまえに「なんの魔法をかけてくれたの?」と大人しくペースに巻き込まれた彼はそんな彼女を真似るように頬を緩ませ、再び問うた。それに対し、なまえは満足そうに一層笑みを深め、弧を描く口唇を動かした。
「幸村くんが私を好きになる魔法」
さらりと告げられた言葉に幸村は今度こそ「え、」と素っ頓狂な声を上げた。
幸村くんが、私を、好きになる?
俺が、君を?
そのあまりに平然とした様子に一瞬聞き間違いかとも思ったが、自身の耳は確かにそう拾ったと彼の側頭葉は言った。
そして此方を黙って見据えるなまえに、もつれ合う思考はさらにこんがらがる。そもそも、こういうのって伝えた本人のほうが平静を保てないものではないのか。どちらかと云えば伝えられた自身のほうがいっぱいいっぱいだと彼女との落ち着き具合の差と未だ理解し難い状況に彼は茫然自失となった。
「すきになってね」
そんな沈黙に一石を投じる一言に、彼女が俺のことを好き?という一点で堂々巡りを繰り返すばかりの幸村のそれこそ動きの悪すぎる思考はそれで見事に霧散した。序でに今まで普通に友達だったのに、という野暮も共に吹き飛んだ。
先程までいかにも余裕綽々たる様子であったなまえの両の眼が水月のように揺らいだことを、彼の双眸は無意識のうちにしかと目に焼きつけてしまったのである。
微かに食まれた唇がほんの僅かに歪んだことも併せ、ついさっきまで名称友達であった彼女は少なくとも、今この時だけは間違いなく、彼の世界の中心となった。
垣間見てしまった一面に、容易く心の臓を撃ち抜かれてしまったことは幸村精市、彼もまた立派な一人の少年であったということでどうか一つ、許していただきたいものである。