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(露骨)
家に帰って、玄関先で先ず目に入ったのは見知らぬ靴だった。
綺麗に装飾を施されたそれは明らかに女物で、しかし私の持ち合わせているものではなく、また同居人のものであるというわけもなく。
はて、と不思議に思ううちに続いて飛び込んできたのは甲高い叫び声だった。
……あ…ぁ……っん…あっ…
じいっと耳を澄ませると、それが叫び声などではなく喘ぎ声であると分かった。
あ、あっ、ん、ん、ぁ、
断っておくが、此処は場末の汚いラブホテルではなく私と同居人である私の彼氏が共に生活を営むマンションの一室であり、お盛んなカップルの住まう部屋ではなく私たちの家である402号室であった。
隅に揃えられたサンダルは私がゴミ出しに出るときに引っ掛ける安物のそれで、靴箱の上に置かれた小さな木のラックは数年前に二人で選んで買ったもので、見慣れた位置に彼方が使う用の鍵とおまけでついてきたキーホルダーのついた車の鍵がかかっていた。
んっ、あ、ん、ぁあ、
もし此処が誰か見知らぬ昼間っから愛を交わすラブラブなお二人の部屋だったならば、私はすみません間違えましたと平謝りするだろう。
しかし此処は確かに私の家で、昼間っから猿みたいにセックスしているのは私の彼氏と家を間違えたどっかの顔も知らない女で、間違えなかったのは私一人であった。
あ、あぁ、っぁあ、ん、ん、
毎週せっせと休日出勤して、今日はたまたま上司の気遣いで早く上がれたから久しぶりに家でゆっくりしようと気分よく帰ってきたらお出迎えは彼氏の浮気現場、ってか。少しも笑えないわ。
あーあ、私が毎週休日を犠牲にして会社でせっせこお仕事している間にあの男はせっせこ他の女に腰振ってたのか。
結構前に「俺も休みは仕事だから」って言ってたから多分初犯じゃなくて常習犯なんだろうな。
毎週土曜はあの女居ないからウチでヤろうよ~わ~いいよいいよ~、っつって。
ははは、最っ高。
あっ、あん、ぁぁ、ひぁん!ぁ、せぇ、ぃ、ちぃ、んっ、す、きぃ、っ、
ラックから車の鍵を取ると、音を立てないように玄関扉をゆっくりと開いた。外に出て、同様に扉を閉める。そうして鍵を閉めてしまえば全ては元通り。
世界は閉じた。
何故一昨日だとか一週間前、スマホで何のサイトを見たかとか、夕食は何だったかとか、そういうことは思い出せないのに、それより遥かに前のことを鮮明に思い起こせるのだろうか。
平日の夜、鍋を焦がして、明日仕事帰りにでも買いに行ってくると言ったのに、急かされて結局ドンキまで二人で新しい鍋を買いに行った。
日を置いて、焦がした鍋は捨てた。
部屋に入り込んだ小さな虫に大騒ぎし、最終的に自分の前を通ったところで手のひらを顔に叩きつけそれを仕留めた私に、彼は珍しく大笑いした。
鏡を見れば、頬を真っ赤にし、無残にも潰れた虫をつけた顔が映っていた。
会社で貰ってきたバランスディスクを使おうと、付属の注射器で膨らまそうとするも注射針を刺し込み過ぎ、早々に穴を開けた彼に私は笑った。
その箇所はテープで塞がれ、それは今でも部屋の隅に置いてある。
春は花見、夏は祭りに近所の川に行ったことも、喧嘩したときにクリスマスツリーをひっくり返して二人無言で直したことも、初詣に行こうって話してたのに寒いからと結局行かなかったことも、誕生日に私の好きな料理を作ってくれたことも、ちょっといいお店を予約してお祝いしてくれたことも、普段は行けないようなお店で買ったケーキで祝ったことも、慣れない花屋で悩みながら花を選んだことも、同棲を始めたときのことも、付き合い始めたときのことも、出会ったときのことも、みんなみんな、私は覚えている。
昨日の夕食だってすぐには思い出せないのに、それらは一片の澱みも無く思い出される。
何故、と言ったってその答えはとうに私の身体の中にあった。
ハンドルを握る手に力を入れる。
アクセルは慎重に。スピード超過はダメ絶対。
ルールは守るもの。信号無視など以ての他。
目指すは千葉県犬吠崎。
行き先は決まっている。ならば選択はただ一つ、前進あるのみだ!
…
地名が分からない人は調べてみてね。
家に帰って、玄関先で先ず目に入ったのは見知らぬ靴だった。
綺麗に装飾を施されたそれは明らかに女物で、しかし私の持ち合わせているものではなく、また同居人のものであるというわけもなく。
はて、と不思議に思ううちに続いて飛び込んできたのは甲高い叫び声だった。
……あ…ぁ……っん…あっ…
じいっと耳を澄ませると、それが叫び声などではなく喘ぎ声であると分かった。
あ、あっ、ん、ん、ぁ、
断っておくが、此処は場末の汚いラブホテルではなく私と同居人である私の彼氏が共に生活を営むマンションの一室であり、お盛んなカップルの住まう部屋ではなく私たちの家である402号室であった。
隅に揃えられたサンダルは私がゴミ出しに出るときに引っ掛ける安物のそれで、靴箱の上に置かれた小さな木のラックは数年前に二人で選んで買ったもので、見慣れた位置に彼方が使う用の鍵とおまけでついてきたキーホルダーのついた車の鍵がかかっていた。
んっ、あ、ん、ぁあ、
もし此処が誰か見知らぬ昼間っから愛を交わすラブラブなお二人の部屋だったならば、私はすみません間違えましたと平謝りするだろう。
しかし此処は確かに私の家で、昼間っから猿みたいにセックスしているのは私の彼氏と家を間違えたどっかの顔も知らない女で、間違えなかったのは私一人であった。
あ、あぁ、っぁあ、ん、ん、
毎週せっせと休日出勤して、今日はたまたま上司の気遣いで早く上がれたから久しぶりに家でゆっくりしようと気分よく帰ってきたらお出迎えは彼氏の浮気現場、ってか。少しも笑えないわ。
あーあ、私が毎週休日を犠牲にして会社でせっせこお仕事している間にあの男はせっせこ他の女に腰振ってたのか。
結構前に「俺も休みは仕事だから」って言ってたから多分初犯じゃなくて常習犯なんだろうな。
毎週土曜はあの女居ないからウチでヤろうよ~わ~いいよいいよ~、っつって。
ははは、最っ高。
あっ、あん、ぁぁ、ひぁん!ぁ、せぇ、ぃ、ちぃ、んっ、す、きぃ、っ、
ラックから車の鍵を取ると、音を立てないように玄関扉をゆっくりと開いた。外に出て、同様に扉を閉める。そうして鍵を閉めてしまえば全ては元通り。
世界は閉じた。
何故一昨日だとか一週間前、スマホで何のサイトを見たかとか、夕食は何だったかとか、そういうことは思い出せないのに、それより遥かに前のことを鮮明に思い起こせるのだろうか。
平日の夜、鍋を焦がして、明日仕事帰りにでも買いに行ってくると言ったのに、急かされて結局ドンキまで二人で新しい鍋を買いに行った。
日を置いて、焦がした鍋は捨てた。
部屋に入り込んだ小さな虫に大騒ぎし、最終的に自分の前を通ったところで手のひらを顔に叩きつけそれを仕留めた私に、彼は珍しく大笑いした。
鏡を見れば、頬を真っ赤にし、無残にも潰れた虫をつけた顔が映っていた。
会社で貰ってきたバランスディスクを使おうと、付属の注射器で膨らまそうとするも注射針を刺し込み過ぎ、早々に穴を開けた彼に私は笑った。
その箇所はテープで塞がれ、それは今でも部屋の隅に置いてある。
春は花見、夏は祭りに近所の川に行ったことも、喧嘩したときにクリスマスツリーをひっくり返して二人無言で直したことも、初詣に行こうって話してたのに寒いからと結局行かなかったことも、誕生日に私の好きな料理を作ってくれたことも、ちょっといいお店を予約してお祝いしてくれたことも、普段は行けないようなお店で買ったケーキで祝ったことも、慣れない花屋で悩みながら花を選んだことも、同棲を始めたときのことも、付き合い始めたときのことも、出会ったときのことも、みんなみんな、私は覚えている。
昨日の夕食だってすぐには思い出せないのに、それらは一片の澱みも無く思い出される。
何故、と言ったってその答えはとうに私の身体の中にあった。
ハンドルを握る手に力を入れる。
アクセルは慎重に。スピード超過はダメ絶対。
ルールは守るもの。信号無視など以ての他。
目指すは千葉県犬吠崎。
行き先は決まっている。ならば選択はただ一つ、前進あるのみだ!
…
地名が分からない人は調べてみてね。