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だから駄目なんだ、と既に皿としての形を保たない白の破片を踏んだ。
見るも無惨な姿に変えた張本人である私は、次いで飛び散ったトマトソースの絡むパスタも踏んだ。沸き上がる筈の不快感は見事な羽根を生やし、何処ぞかに飛び去っていった。
「動かんで」ただの役立たずと成り果てた破片を手際よく片す仁王は此方のことなんか一瞥もせず、ぴしゃりと言い放った。もう遅いし、そんなことも分からないと思われているのかと下唇を食んだ。
しかし男はあくまで伝達すべき必要事項を伝えたに過ぎず、その中に不必要な感情は微塵も入り交じっていないことを私は男の今までから十二分に理解していた。
理解していて尚全てを受け入れきれないのは、今の私がはた迷惑にも程があるが見事なパンデミック状態にあるからか。
すっかり慣れた手つきをぼうと眺めながら、足元に転がるピクルスを指で弾き飛ばした。「仁王」仁王が緩やかに顔を上げる。
「なん」どうした、と。仁王はこういうとき、決まっていつものけたけたと人を小馬鹿にするような笑みではなく、親鳥がまだ未成熟な小鳥を見るような笑みを浮かべる。私はそれがいつだって気に食わなかった。
正確には覚えていないがいつだったかそれを指摘したとき、仁王は「ピヨ」と平素と変わらない調子で煙に巻いた。
戯言を吐くくせに、あの私が堪らなく嫌いな笑みを浮かべるものだから、私はほうほうとそよぐ心を黙らせることが出来ないのだ。
「キスして」仁王は私に黙って歩み寄ると、鼻の頭に啄むような唇を落とした。仁王の血の通った生っ白い足が白磁を踏む。
私の周りには潰えた牙城を守る城壁か何かのように破片が散らばっていた。
うすら寒いぐちゃぐちゃのやつではなく、安っぽいアメリカンドラマに出てくるバードキスを降らせた彼の双眸はいつになく柔らかい。やはり私の想念と寸分も違わぬ完璧且つ的確な思考に、あの笑みはあまりに惜しい。
とうに忘れ去られた小さな傷が己の存在を主張するように声を上げた。ぷつり、と皮膚を突き破られほんの僅かに滴る血が、あり得ないことだけどトマトソースと混じりあって二人きりの海を造ったとして、私の臓物が息を止めることはないのだろう。
愛なんて情を解すことも出来ない癖に、そんなところばかり一丁前だなと誰かが静かに笑った。本当に、その通りだと思った。
だから駄目なんだ、と既に皿としての形を保たない白の破片を踏んだ。
見るも無惨な姿に変えた張本人である私は、次いで飛び散ったトマトソースの絡むパスタも踏んだ。沸き上がる筈の不快感は見事な羽根を生やし、何処ぞかに飛び去っていった。
「動かんで」ただの役立たずと成り果てた破片を手際よく片す仁王は此方のことなんか一瞥もせず、ぴしゃりと言い放った。もう遅いし、そんなことも分からないと思われているのかと下唇を食んだ。
しかし男はあくまで伝達すべき必要事項を伝えたに過ぎず、その中に不必要な感情は微塵も入り交じっていないことを私は男の今までから十二分に理解していた。
理解していて尚全てを受け入れきれないのは、今の私がはた迷惑にも程があるが見事なパンデミック状態にあるからか。
すっかり慣れた手つきをぼうと眺めながら、足元に転がるピクルスを指で弾き飛ばした。「仁王」仁王が緩やかに顔を上げる。
「なん」どうした、と。仁王はこういうとき、決まっていつものけたけたと人を小馬鹿にするような笑みではなく、親鳥がまだ未成熟な小鳥を見るような笑みを浮かべる。私はそれがいつだって気に食わなかった。
正確には覚えていないがいつだったかそれを指摘したとき、仁王は「ピヨ」と平素と変わらない調子で煙に巻いた。
戯言を吐くくせに、あの私が堪らなく嫌いな笑みを浮かべるものだから、私はほうほうとそよぐ心を黙らせることが出来ないのだ。
「キスして」仁王は私に黙って歩み寄ると、鼻の頭に啄むような唇を落とした。仁王の血の通った生っ白い足が白磁を踏む。
私の周りには潰えた牙城を守る城壁か何かのように破片が散らばっていた。
うすら寒いぐちゃぐちゃのやつではなく、安っぽいアメリカンドラマに出てくるバードキスを降らせた彼の双眸はいつになく柔らかい。やはり私の想念と寸分も違わぬ完璧且つ的確な思考に、あの笑みはあまりに惜しい。
とうに忘れ去られた小さな傷が己の存在を主張するように声を上げた。ぷつり、と皮膚を突き破られほんの僅かに滴る血が、あり得ないことだけどトマトソースと混じりあって二人きりの海を造ったとして、私の臓物が息を止めることはないのだろう。
愛なんて情を解すことも出来ない癖に、そんなところばかり一丁前だなと誰かが静かに笑った。本当に、その通りだと思った。