バイオレント・バイオレンス
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2年F組。廊下側から数えて二列目の後ろから二番目。
其処にある黒い後頭部が少し傾けられているのか、はたまた突っ伏されているのかはその時々で異なり、それを後部扉から一瞬窺うことがお決まりとなったのはいつからだったか。
廊下側から数えて二列目の後ろから二番目。
其処は彼女のクラスにおける座席であった。
彼女は二人きりのときこそ俺の彼女として振る舞うが、学校等互いの知り合いの目があるところではそんな素振りを小指の先ほども見せることなく、俺を居ないもののように扱った。
居ないもののように扱う、といっても流石に声を掛ければ応対はしてくれる。ただし、それがあくまで他人に対するそれであるだけだ。
周りに俺との関係を知られたくないと接触を避ける彼女は俺が外で声を掛けると、決まって誰にも分からないくらい僅かな間口角を下げ、直ぐに対他人用の一見柔和にも見えるあの能面をつけて対応する。そうしてその後、二人になったところであからさまに嫌そうな顔で”声掛けないでっていつも言ってるでしょ”と他人の前では決して出さないような低い声で言い放ち、俺よりも頼りないそれで腕をつねるか足を踏むのだ。
まだ彼女が初めて俺に手を上げたばかりの頃、移動教室の帰りらしい彼女から滑り落ちたシャープペンシルを拾い上げ、手渡した俺を放課後彼女は何故わざわざ声を掛けたのかと詰った。
見ないフリでもすればいいものを。シャープペンシルなんて、幾らでも代えなどきく。
淡々とした口調で一言一言確かめるように言い放たれたあの日のことは今でもよく覚えている。
俺はあの日以来周囲に悟られない範囲内、あくまで偶然と他人を装って時々すれ違いざまの彼女に声を掛ける。
表面すら撫でない、会話にも満たないそれにその能面の下をひどく歪ませたことを巧みに覆い隠し、誰かに紛れる誰も知り得ない彼女がいつだって閉じられた身体の裏に居る、ということをそれこそ確かめるように。
教室と廊下の境界線を跨ぐ。
今日の黒い後頭部は少し傾けられており、見るにどうやら前席の女子生徒と談笑しているようであった。
喧騒の縫い目を潜って弾んだ声が細く耳をすり抜ける。
友人、なのだろう。おそらく。でも、移動教室等でいつも一緒に居る子ではないから、席が近いから話す、そんな程度の。
内心、乾いた笑いが込み上げてくる。
表情など貼り付けられた所詮笑むばかりの能面に過ぎない。
彼女が誰かに紛れる限り、目の前の女に沈む苛烈なまでの本性を知り得る者は誰もいない。
心の裏側を撫でるその感覚に何重にも皮を被せ、俺はよく見知った友人にひら、と手を振った。
其処にある黒い後頭部が少し傾けられているのか、はたまた突っ伏されているのかはその時々で異なり、それを後部扉から一瞬窺うことがお決まりとなったのはいつからだったか。
廊下側から数えて二列目の後ろから二番目。
其処は彼女のクラスにおける座席であった。
彼女は二人きりのときこそ俺の彼女として振る舞うが、学校等互いの知り合いの目があるところではそんな素振りを小指の先ほども見せることなく、俺を居ないもののように扱った。
居ないもののように扱う、といっても流石に声を掛ければ応対はしてくれる。ただし、それがあくまで他人に対するそれであるだけだ。
周りに俺との関係を知られたくないと接触を避ける彼女は俺が外で声を掛けると、決まって誰にも分からないくらい僅かな間口角を下げ、直ぐに対他人用の一見柔和にも見えるあの能面をつけて対応する。そうしてその後、二人になったところであからさまに嫌そうな顔で”声掛けないでっていつも言ってるでしょ”と他人の前では決して出さないような低い声で言い放ち、俺よりも頼りないそれで腕をつねるか足を踏むのだ。
まだ彼女が初めて俺に手を上げたばかりの頃、移動教室の帰りらしい彼女から滑り落ちたシャープペンシルを拾い上げ、手渡した俺を放課後彼女は何故わざわざ声を掛けたのかと詰った。
見ないフリでもすればいいものを。シャープペンシルなんて、幾らでも代えなどきく。
淡々とした口調で一言一言確かめるように言い放たれたあの日のことは今でもよく覚えている。
俺はあの日以来周囲に悟られない範囲内、あくまで偶然と他人を装って時々すれ違いざまの彼女に声を掛ける。
表面すら撫でない、会話にも満たないそれにその能面の下をひどく歪ませたことを巧みに覆い隠し、誰かに紛れる誰も知り得ない彼女がいつだって閉じられた身体の裏に居る、ということをそれこそ確かめるように。
教室と廊下の境界線を跨ぐ。
今日の黒い後頭部は少し傾けられており、見るにどうやら前席の女子生徒と談笑しているようであった。
喧騒の縫い目を潜って弾んだ声が細く耳をすり抜ける。
友人、なのだろう。おそらく。でも、移動教室等でいつも一緒に居る子ではないから、席が近いから話す、そんな程度の。
内心、乾いた笑いが込み上げてくる。
表情など貼り付けられた所詮笑むばかりの能面に過ぎない。
彼女が誰かに紛れる限り、目の前の女に沈む苛烈なまでの本性を知り得る者は誰もいない。
心の裏側を撫でるその感覚に何重にも皮を被せ、俺はよく見知った友人にひら、と手を振った。