バイオレント・バイオレンス
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好きなものは何、と聞くと彼女は少し悩んだ末小さく歯を見せた。
しかし何故か鼓膜が揺さぶられることはなく、きっと透明な音は風に拐われてしまったのだろうと俺は一人結論付けた。
そのとき彼女の黒々とした眼がじっとりと歪み、這い回るように差し出されたことには両目を閉じ、暗闇の静けさにそっと流した。
一つ。二つ。三つ。
交互に立てられる指。何らかの規則性を持つその動きはまるで催眠術で、定まらない意識をあっさりと飲み込んでしまいそうだった。
それに抗うようにぐらつく瞼に白む彼女の輪郭を写し出す。
二つ。一つ。三つ。
一つ。三つ。二つ。
二つ。三つ。一つ。
三つ。
「、っ」
途端、不可思議な指遊びを止め勢いよく髪を掴んできた五本のそれ。倒れこんだ身体ごと持ち上げられ、ぷちぷちと毛が抜けていく音と遠慮の無い力に細かな悲鳴が散り散りに上がる。
痛みに顔をしかめ、薄らぐ視界の煌々と光る電灯に重なる彼女の顔は何処か陰りを帯びており、それはまるで己の心を悟られまいと被された仮面のようであった。
「…まだ、おちちゃだめだよ」
幸村くん。
ちろりと覗いた発色の良い舌を空ろに眺めていると、振りかぶられた逆の手で頬を張られた。
パァン、風船の破裂音にも似た小気味良い音と共に勢いそのままに気怠い身体は再び床へと崩れ落ちる。いつの間にか髪から手は離されており、今は身体の横でだらりとしなだれていた。じわじわと頬を侵食する痛みに何となく目がすぼまる。
だらしなく開け放たれた口からは意味の無い何かが垂れ流されていくようで、そんな妙な気分が少し可笑しかった。
崩れ落ちた身体と共に打ち付けた頭が未だぐらぐらと揺れる。
揺蕩う意識は水際を離れては寄って。離れては寄って。
その繰り返しで。
彼女はそんな俺を暗影を投じた二つの眼でただ静かに見下ろす。しなだれた腕の先、中指がとん、とん、と固く温度の無い床を叩く。
とん、とん、とん。
とん、とん、とん。
とん、とん、とん。
ひりつく口の端をぴく、と僅かに動かす。
立てられた膝の奥、深緑のプリーツから黒のオーバーパンツが覗いた。
彼氏にとって、彼女というのはどうしたってかわいいもので、俺はそんな彼女が望むことは叶えられるならば全て叶えてやりたいと思っている。
彼女であるならば無条件に願望は応えるべきで、その存在そのものに愛を尽くすべきなのである。それ以上でもなく、それ以下でもなく、それが全てだ。
今日も彼女はかわいいのだ。
しかし何故か鼓膜が揺さぶられることはなく、きっと透明な音は風に拐われてしまったのだろうと俺は一人結論付けた。
そのとき彼女の黒々とした眼がじっとりと歪み、這い回るように差し出されたことには両目を閉じ、暗闇の静けさにそっと流した。
一つ。二つ。三つ。
交互に立てられる指。何らかの規則性を持つその動きはまるで催眠術で、定まらない意識をあっさりと飲み込んでしまいそうだった。
それに抗うようにぐらつく瞼に白む彼女の輪郭を写し出す。
二つ。一つ。三つ。
一つ。三つ。二つ。
二つ。三つ。一つ。
三つ。
「、っ」
途端、不可思議な指遊びを止め勢いよく髪を掴んできた五本のそれ。倒れこんだ身体ごと持ち上げられ、ぷちぷちと毛が抜けていく音と遠慮の無い力に細かな悲鳴が散り散りに上がる。
痛みに顔をしかめ、薄らぐ視界の煌々と光る電灯に重なる彼女の顔は何処か陰りを帯びており、それはまるで己の心を悟られまいと被された仮面のようであった。
「…まだ、おちちゃだめだよ」
幸村くん。
ちろりと覗いた発色の良い舌を空ろに眺めていると、振りかぶられた逆の手で頬を張られた。
パァン、風船の破裂音にも似た小気味良い音と共に勢いそのままに気怠い身体は再び床へと崩れ落ちる。いつの間にか髪から手は離されており、今は身体の横でだらりとしなだれていた。じわじわと頬を侵食する痛みに何となく目がすぼまる。
だらしなく開け放たれた口からは意味の無い何かが垂れ流されていくようで、そんな妙な気分が少し可笑しかった。
崩れ落ちた身体と共に打ち付けた頭が未だぐらぐらと揺れる。
揺蕩う意識は水際を離れては寄って。離れては寄って。
その繰り返しで。
彼女はそんな俺を暗影を投じた二つの眼でただ静かに見下ろす。しなだれた腕の先、中指がとん、とん、と固く温度の無い床を叩く。
とん、とん、とん。
とん、とん、とん。
とん、とん、とん。
ひりつく口の端をぴく、と僅かに動かす。
立てられた膝の奥、深緑のプリーツから黒のオーバーパンツが覗いた。
彼氏にとって、彼女というのはどうしたってかわいいもので、俺はそんな彼女が望むことは叶えられるならば全て叶えてやりたいと思っている。
彼女であるならば無条件に願望は応えるべきで、その存在そのものに愛を尽くすべきなのである。それ以上でもなく、それ以下でもなく、それが全てだ。
今日も彼女はかわいいのだ。