バイオレント・バイオレンス
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ゆらゆらと揺れる眼は隣にいた筈の親を見失ってしまった頼りなさげな幼子のようであり、またそれは同時に何故、という驚きを映し出していた。
つかつかと歩み寄り、ちょうど目の前で足を止めると自然と彼女を見下ろすような形になる。見下ろされた彼女は、すっかり気圧されてしまったように僅かに眉を下げた。
眼は尚もゆらゆらと揺れたが、反らされることは決して無かった。黒々とした両対のそれに浮かぶ小さな自分の姿に広がるばかりであった渇きがようやく充たされたような心地がした。
「、急にどうしたの、幸村くん……」
尻すぼみになっていく言葉、口の端こそ少しひくついているが貼りつけた表情だけはあくまで外そうとはしない。
それでは、それでは駄目なんだ、なまえ。
そんなものを被ったままでは、"君"を引きずり出せない。
能面は、外されなくては、外さなくてはならない。
言葉を発し、ぽっかりと開いたままの唇に自身のそれをそっと重ねた。
この予見していなかったであろう行動に案の定呆然とし、彼女は目を丸くし、この場に立ちすくんだ。
あと少しだ。あと少しで、と彼女のだらりと垂れ下がった肩を掴んだ。
「好きだ、なまえ」
「君の恋心も、愛情も、おかしさも、全部全部、俺のものだ」
「……だから、大丈夫、君がくれるものだったら何だって、俺は全部受け取る」
「なまえ、俺は、君が好きなんだ」
言い聞かせるように一つ一つ噛み砕いた言葉は石として投げ込まれ、澄み渡る水面に波紋を描いた。
噛み締められた唇の端はすっかり下がりきり、仮面の剥がれ落ちた素の表情がそこにはあった。
彼女は小さく「……ばかじゃないの」と溢し、ゆらゆらと数歩後ずさると黙って上を向いた。
何か堪えきれないように息を吸い込み、ゆっくりと此方を見据える。
その眼差しにはやはり冷然さも、酷薄さも、それらは何処にも見当たらなかった。
「私も、すき、」
ほつれた結び目から身体を抜け出させる。
己を強く、強く縛りつけていた糸から彼女は断ち切られ、自身を取り戻した。
ようやく吐き出されたその一言が結局全てだったのだ。
薄く口端を吊り上げた彼女の笑みは夢で見たより何処か歪で下手くそだったけど、ずっといとおしく思えた。
「ひどいことばかりして、ごめんね」
蚊の鳴くような声で発せられたそれは、きっと俺にしか聞こえていない。
つかつかと歩み寄り、ちょうど目の前で足を止めると自然と彼女を見下ろすような形になる。見下ろされた彼女は、すっかり気圧されてしまったように僅かに眉を下げた。
眼は尚もゆらゆらと揺れたが、反らされることは決して無かった。黒々とした両対のそれに浮かぶ小さな自分の姿に広がるばかりであった渇きがようやく充たされたような心地がした。
「、急にどうしたの、幸村くん……」
尻すぼみになっていく言葉、口の端こそ少しひくついているが貼りつけた表情だけはあくまで外そうとはしない。
それでは、それでは駄目なんだ、なまえ。
そんなものを被ったままでは、"君"を引きずり出せない。
能面は、外されなくては、外さなくてはならない。
言葉を発し、ぽっかりと開いたままの唇に自身のそれをそっと重ねた。
この予見していなかったであろう行動に案の定呆然とし、彼女は目を丸くし、この場に立ちすくんだ。
あと少しだ。あと少しで、と彼女のだらりと垂れ下がった肩を掴んだ。
「好きだ、なまえ」
「君の恋心も、愛情も、おかしさも、全部全部、俺のものだ」
「……だから、大丈夫、君がくれるものだったら何だって、俺は全部受け取る」
「なまえ、俺は、君が好きなんだ」
言い聞かせるように一つ一つ噛み砕いた言葉は石として投げ込まれ、澄み渡る水面に波紋を描いた。
噛み締められた唇の端はすっかり下がりきり、仮面の剥がれ落ちた素の表情がそこにはあった。
彼女は小さく「……ばかじゃないの」と溢し、ゆらゆらと数歩後ずさると黙って上を向いた。
何か堪えきれないように息を吸い込み、ゆっくりと此方を見据える。
その眼差しにはやはり冷然さも、酷薄さも、それらは何処にも見当たらなかった。
「私も、すき、」
ほつれた結び目から身体を抜け出させる。
己を強く、強く縛りつけていた糸から彼女は断ち切られ、自身を取り戻した。
ようやく吐き出されたその一言が結局全てだったのだ。
薄く口端を吊り上げた彼女の笑みは夢で見たより何処か歪で下手くそだったけど、ずっといとおしく思えた。
「ひどいことばかりして、ごめんね」
蚊の鳴くような声で発せられたそれは、きっと俺にしか聞こえていない。