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思慕

彼は意外にも世話を焼くのが好きなようで、そんなこと付き合い始めるまで知らなかったし、もっと言うとそれに気づいたのはいっしょに暮らし始めてからだ。

お風呂から上がったら、指し示されたそこに疑いなく座って。背後の左馬刻がドライヤーの電源をつける。
温風になびく濡れた髪の間を、左馬刻の長い指が優しく梳いていく。わたしはスマホを見るでもなく、目を閉じてそれを受け入れる。左馬刻が帰っている日はわたしの髪をこうやって乾かしてくれるようになったの、いつからだったかな。
「もう眠いんか」
記憶を手繰り寄せているつもりが、まどろみに体を傾けていたようだ。ドライヤーの音が止み、髪を梳いていた左馬刻の手が、わたしの肩を掴んでいる。
「うん、ちょっと……でも、大丈夫。」
お風呂上がりの体があたたかくて、左馬刻の指が心地よくて。ふわふわした気持ちだったけれど、しゃんと姿勢を正した。
「おー。もう少しで終わっからな」
まだ寝んなよ。乾き始めているわたしの頭をひと撫ですると、左馬刻はドライヤーを再開した。

ふあ、ん。あくびをかみ殺していると
「終わったぞ」
ドライヤーを切って、左馬刻の声が降ってきた。ありがとー、間延びしたお礼を返す。
「……髪、伸びたなァ」
乾かし終わったばかりのわたしの髪をひとすくいすると、左馬刻はそう言いながら口付けた。
なんだか嬉しくなったわたしは、左馬刻にもたれかかって甘えるように彼を見上げた。
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