人工知能の惑星旅行日記
「ここがフー…。息も凍るほど、と人間ならば言うでしょう」
宇宙船の窓から見えたのは氷山が多く並ぶ惑星フーであった。フーは、地球でいう南極のような惑星だ。極限の寒さに包まれ、常に吹雪いている。
私は内蔵された座標把握機能に宇宙船の位置を記録し、宇宙船を降りた。
私は吹雪の中、当てもなく歩いた。…まぁ、宇宙旅行自体の当てもないようなものだが。
まさに一面の銀世界だ。あるのは積もった雪や氷山によって生まれる影くらいか。どれほど歩いても文明らしいものは見えない。
「人…?」
子どものような声が聞こえた。その声の主は、白い毛皮を持った小さなクマのようだ。
「言葉を話す動物ですか。初めて見ましたね」
「僕たちにとっては、人間もそうだよ。驚いちゃった」
ここの惑星には、人類という括りに入る生き物は居ないらしい。その代わりにその他哺乳類は言葉を手に入れたようだ。
白い毛皮を持った小さなクマ…。仮にポラリスと呼ぶことにした。ポラリスたちのほかにも飛べない泳ぐ鳥、ペンギンのことだろうが、ここではプラトスと呼ぶことにする。
「僕たちはほかの星と違って、おっきなおうちを作るとかできないから、みんなで協力して雪のおうちで暮らしてるんだよ」
「かまくらみたいなものですか。常に吹雪いているここでは安定しそうですね」
案内してもらった場所にはたくさんの雪のドームが作られていた。各ドームには役割があるらしく、食糧庫から育児室まで何でもあるようだ。
様々な施設を回っている中、子どもたちの笑い声が聞こえた。楽しそうにしているな、と思って目線を向けた先にはほかのポラリスたちとは違う色の、赤毛の子どもが囲われていた。私は子どもたちの間に割って入った。
「初めまして。私とお話ししましょう」
その子は目に涙を浮かべ、怯えていた。抱えて連れて行った方が良いと考えたが、さすがに強行が過ぎる。私は手を差し出し、データの中にある一番優しい顔を向けた。
私の動作に"この人は安全"だと思ってもらえたようだ。手を取るどころか抱き着かれてしまった。私は周りのポラリスに個室を開けてもらった。
「私は最適性人間型アンドロイドのZ-002、ゾーンと言います。あなたの名前を教えてください」
「…ルイ」
「ルイさん。あなたはとても素敵な毛色をしていますね」
「すてきじゃない!みんな、血の色って、悪い子の色って言うんだ!」
ルイは泣きながら話してくれた。
物心ついた時にはすでに両親と呼べる人がいなかったこと、他のポラリスが見回りをしているときに拾ってもらったこと、毛色から他の子どもたちにいじめられていること。
「だからぼくはすてきじゃない。泣き虫だし…」
「今から素敵になりましょう。方法は沢山ありますよ」
「でも…、ぼくは血の色だから」
「私の居た星では、あなたのその色はヒーローの色でしたよ」
そういって私は様々な赤色のヒーローを見せた。アメリカのヒーローや日本の戦隊ヒーローの画像をホログラムに表示して見せた。
「彼らは悪い人と戦うのです。大切な人や好きなものを守るために」
「…ないよ」
「ならばこれを」
私はINUを手渡した。
「これは…?かわいいね」
「ガイアという惑星に行ったときに貰ったのです。この子を大切にしてあげてほしいのです」
「ダメ!これはゾーンがもらったんでしょ?」
「これはガイアがひとりぼっちではなくなった証なんです。…ルイさんもこの子がいれば一人ぼっちじゃなくなると思うのです」
確かに貰い物を渡すというのは双方に失礼極まりない行為だろう。しかし、INUだからこそ意味があると私は感じたのだ。
ルイさんはその意味をなんとなく感じ取ったようで、私の手から恐る恐るINUを取った。
翌日、施設の大広間ではルイさんが犬を抱えて立っていた。目にはうっすらと涙を浮かべているが、極度の緊張からだろう。しかし、目をこすり、少しひきつった笑顔で他の子どもたちに挨拶をしていた。
他の子どもたちは少し怖がっていたが、ルイさんが毛色以外は自分たちと同じ普通の子であることが分かったようだ。
「ありがとう、ゾーン。…この子もう少しぼくが持っててもいい?」
「もちろんです。もし、その子がいなくても大丈夫になったら、私がまたここに来た時に渡してください」
私は白と赤のもこもこに囲まれながらフーの住民たちとルイさんに別れを告げ、宇宙船に乗り込んだ。ルイさんは感謝のヒーローポーズを決めていた。私は少し照れながらヒーローポーズを返した。私はフーをあとにして、次の目的地へと向かった。
次の目的地は「カイネ」と「エバル」と呼ばれる2つの惑星だった。この2つの惑星は二重惑星、通称双子惑星と呼ばれている。二つ合わせて「イーデン」と呼ばれているらしい。今までとは大きく違う惑星だ。
「見方を変えればより良いほうに。ルイさんはヒーローになれるでしょう」
ゾーンは進む、どこまでも。
まだ見ぬ大地 を目指して。
宇宙船の窓から見えたのは氷山が多く並ぶ惑星フーであった。フーは、地球でいう南極のような惑星だ。極限の寒さに包まれ、常に吹雪いている。
私は内蔵された座標把握機能に宇宙船の位置を記録し、宇宙船を降りた。
私は吹雪の中、当てもなく歩いた。…まぁ、宇宙旅行自体の当てもないようなものだが。
まさに一面の銀世界だ。あるのは積もった雪や氷山によって生まれる影くらいか。どれほど歩いても文明らしいものは見えない。
「人…?」
子どものような声が聞こえた。その声の主は、白い毛皮を持った小さなクマのようだ。
「言葉を話す動物ですか。初めて見ましたね」
「僕たちにとっては、人間もそうだよ。驚いちゃった」
ここの惑星には、人類という括りに入る生き物は居ないらしい。その代わりにその他哺乳類は言葉を手に入れたようだ。
白い毛皮を持った小さなクマ…。仮にポラリスと呼ぶことにした。ポラリスたちのほかにも飛べない泳ぐ鳥、ペンギンのことだろうが、ここではプラトスと呼ぶことにする。
「僕たちはほかの星と違って、おっきなおうちを作るとかできないから、みんなで協力して雪のおうちで暮らしてるんだよ」
「かまくらみたいなものですか。常に吹雪いているここでは安定しそうですね」
案内してもらった場所にはたくさんの雪のドームが作られていた。各ドームには役割があるらしく、食糧庫から育児室まで何でもあるようだ。
様々な施設を回っている中、子どもたちの笑い声が聞こえた。楽しそうにしているな、と思って目線を向けた先にはほかのポラリスたちとは違う色の、赤毛の子どもが囲われていた。私は子どもたちの間に割って入った。
「初めまして。私とお話ししましょう」
その子は目に涙を浮かべ、怯えていた。抱えて連れて行った方が良いと考えたが、さすがに強行が過ぎる。私は手を差し出し、データの中にある一番優しい顔を向けた。
私の動作に"この人は安全"だと思ってもらえたようだ。手を取るどころか抱き着かれてしまった。私は周りのポラリスに個室を開けてもらった。
「私は最適性人間型アンドロイドのZ-002、ゾーンと言います。あなたの名前を教えてください」
「…ルイ」
「ルイさん。あなたはとても素敵な毛色をしていますね」
「すてきじゃない!みんな、血の色って、悪い子の色って言うんだ!」
ルイは泣きながら話してくれた。
物心ついた時にはすでに両親と呼べる人がいなかったこと、他のポラリスが見回りをしているときに拾ってもらったこと、毛色から他の子どもたちにいじめられていること。
「だからぼくはすてきじゃない。泣き虫だし…」
「今から素敵になりましょう。方法は沢山ありますよ」
「でも…、ぼくは血の色だから」
「私の居た星では、あなたのその色はヒーローの色でしたよ」
そういって私は様々な赤色のヒーローを見せた。アメリカのヒーローや日本の戦隊ヒーローの画像をホログラムに表示して見せた。
「彼らは悪い人と戦うのです。大切な人や好きなものを守るために」
「…ないよ」
「ならばこれを」
私はINUを手渡した。
「これは…?かわいいね」
「ガイアという惑星に行ったときに貰ったのです。この子を大切にしてあげてほしいのです」
「ダメ!これはゾーンがもらったんでしょ?」
「これはガイアがひとりぼっちではなくなった証なんです。…ルイさんもこの子がいれば一人ぼっちじゃなくなると思うのです」
確かに貰い物を渡すというのは双方に失礼極まりない行為だろう。しかし、INUだからこそ意味があると私は感じたのだ。
ルイさんはその意味をなんとなく感じ取ったようで、私の手から恐る恐るINUを取った。
翌日、施設の大広間ではルイさんが犬を抱えて立っていた。目にはうっすらと涙を浮かべているが、極度の緊張からだろう。しかし、目をこすり、少しひきつった笑顔で他の子どもたちに挨拶をしていた。
他の子どもたちは少し怖がっていたが、ルイさんが毛色以外は自分たちと同じ普通の子であることが分かったようだ。
「ありがとう、ゾーン。…この子もう少しぼくが持っててもいい?」
「もちろんです。もし、その子がいなくても大丈夫になったら、私がまたここに来た時に渡してください」
私は白と赤のもこもこに囲まれながらフーの住民たちとルイさんに別れを告げ、宇宙船に乗り込んだ。ルイさんは感謝のヒーローポーズを決めていた。私は少し照れながらヒーローポーズを返した。私はフーをあとにして、次の目的地へと向かった。
次の目的地は「カイネ」と「エバル」と呼ばれる2つの惑星だった。この2つの惑星は二重惑星、通称双子惑星と呼ばれている。二つ合わせて「イーデン」と呼ばれているらしい。今までとは大きく違う惑星だ。
「見方を変えればより良いほうに。ルイさんはヒーローになれるでしょう」
ゾーンは進む、どこまでも。
まだ見ぬ