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人工知能の惑星旅行日記

「神秘と言うにふさわしい星ですね」

 宇宙船の窓から見えたのは一面海に覆われた惑星ソラリスであった。ソラリスはその環境上、水中での生活に特化した進化を遂げた人種が生まれ暮らしている。
 海底都市に向かうため、私は潜水装備を整えた。

 ソラリスに陸地はない。宇宙船を泊める場所がないのだ。分かってはいたことだが、少々不安がよぎる。

「…常に合理的に考えられるとはいえ、思うところがありますね」

 私は宇宙船をホバリング状態で残し、その身一つで海底探索に向かった。
 目測水深は何千メートルもあるだろう。見える世界はまるで人魚姫だ。
 マリンスノー、手を振るイソギンチャク、踊る魚たち。その先に見えたのは肌の一部がウロコに覆われたソラリス人だった。

「初めまして。突然訪れてすみません。私は最適性人間型アンドロイドのZ-002、ゾーンと言います」
「あらあら、他の星からお客様なんて久々だわ!地球のロボットさんね。私はソラリスの王女サフィーア。よりソラリスのことが分かる市街地に案内するわ」

 どうやら私がたどり着いたのは王宮の隅の方だったらしい。王宮内にはロココ調の装飾が施され、赤い真珠が随所にあしらわれている。
 王宮を抜けると活気のある市街地が見えてきた。辺りを見回すと、独特な商店街やそれぞれ個性のあるソラリス人が目に入る。足のヒレが大きい男性、耳のウロコがピアスのように垂れ下がっている女性、シッポのようなものが生えている子どもたちなど。いい例えとは言えないが、水族館の一つの水槽に様々な魚たちが泳いでいるようだった。

「ソラリスは種族的に増えにくいの。何百年もかけてご先祖様がここまで増やしてくださったのよ」
「大変な苦労の上に皆さんの笑顔があるのですね」

 サフィーアは口元を軽く押さえながら小さく笑った。

「あ!おひめさま!こんにちわ!」

 周りのソラリス人と私はその子どもに驚いた。その子は体中にフジツボがついていた。

「…こんにちは、王宮は楽しい?」
「うん!からだはかゆいけど、おくすりのおかげでちょっとよくなったよ!」
「良かったわ。…でも、先生に内緒で出てきちゃだめよ?先生が困っちゃうわ」
「!そっか!急にいなくなったらびっくりしちゃうもんね!じゃあね、おひめさまー!」

 その後、王宮に戻るとサフィーアがソラリスの現状を話してくれた。
 人口が増えるにあたって貧富の差が生まれてしまったこと、王宮で養う分の部屋が足りなくなったこと、それによって地球でいうスラム街のような場所ができてしまったこと。
 あの体中にフジツボが張り付いていた子どもはスラム街出身らしい。自警隊が見つけたときにはあの子のほかに数人いたらしい。

「あの場所を私たち王族関係者は地球に倣って”ロジ”と呼んでいるわ。ロジの対処はお父様や他の大臣が考えてくださっているの。…だから、私は子どもたちを救うことに専念しているわ」
「繁栄すれば問題が生まれる。仕方のないことです。歴史の常ですから。でも解決しようと頑張っている。素晴らしいことです」
「子どもたちはこの星の宝。知らないものにキラキラさせた目なんて宝石みたいでしょ?だから守りたいの」

 そう語るサフィーアの目もキラキラと輝いていた。
 その日はサフィーアも職務があるらしく、先に王宮へ戻っていった。
 私は一人で市街を探索していると、時折懐かしいものを見つけた。それこそフライパンや泡だて器、シャンプーハットなど『リトル・マーメイド』のようだった。
 かつて地球との交流の際に貰ったものらしい。…人間の行動には未だ疑問が多いと感じた。

 次の日、王女はロジ出身の子どもたちを連れて市街地の広場に来た。私が推測するに、ソラリス人は子どもたちに嫌悪感を抱いているようだ。

「皆様、本日は広場にお集まりいただき感謝しますわ」

 サフィーアのお辞儀と共にソラリス人は跪いた。私だけが立っているのが少し恥ずかしい。

「今日はロジより保護した子どもたちの発表会をしたいと思いまして、子どもたちにも練習を頑張ってもらいましたの。是非最後まで聴いてくださるとうれしいわ」

 指揮者と独特な楽器の演奏が始まった。
 子どもたちは元気に歌いだした。体のかゆみを我慢する子、声がうまく出せない子、あまり音が聞こえない子。みんなが頑張っていた。
 その様子に、大人たちは心を打たれていた。無論私も感動した。これがサフィーアが守りたい宝石なのだろう。
 今、この瞬間ソラリスには多くの宝石が輝いている。

 子どもたちの合唱が終わったあと、サフィーアが話しかけてきた。

「どうでしたか?子供たちのお歌」
「とても素晴らしかったです。皆さん頑張ってましたね」
「ええ。みんな、今まで見た中で一番輝いていらしたわ。実は発表会は定期的に行うことになったの。子どもたちの回復を知らせるためにもね」
「良い案ですね。次来るときにも見れるといいのですが」

 私は沢山の宝石に囲まれながらソラリスの住民たちとサフィーアに別れを告げ、宇宙船に乗り込んだ。彼らは感謝と賛美の歌を送ってくれた。私は笑顔と少しのハミングを返した。私はソラリスをあとにして、次の目的地へと向かった。

 次の目的地は「フー」と呼ばれる惑星だった。フーは寒冷な土地で、常に吹雪いているという。ここにも新たな人種がいるのか。見たことのない動物がいるのだろうか。

「歌…。久々に生声で聴きましたね。子どもたちも可愛らしかった。それはどんな生き物でも変わらないのでしょう」

 ゾーンは進む、どこまでも。
 まだ見ぬ大地フーを目指して。
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