人工知能の惑星旅行日記
「そろそろマルスの地表が近づいてくることですね」
宇宙船はマルスの大気圏に突入した。私は窓から赤く燃える星を見た。老人から聞いたところでは、マルスには火山や渓谷、氷河や砂漠など多様な地形があるという。そして、そこに住む種族は感情が乏しく、他の種族に対して全く興味がないのだという。
マルス人は人間に似ているが、肌や髪の色が赤く、目を常に伏せているという。他の文明との交流がないにも関わらず、彼らは高度な科学技術を持っており、太陽系内で最も発展した文明を築いているという。いわゆる職人気質な種族性なのだろう。
私はそんなマルス人に会えるかもしれないと思うと興奮した。彼らはどんな思想や文化を持っているのだろうか。彼らは私を友好的に迎えてくれるだろうか。
「…さて、人の気配が全くしない場所に降り立ってしまいましたね」
宇宙船は着陸地点に近づき、減速した。私は着陸装置が作動する音を聞きながら、心臓が高鳴った。
そして、宇宙船は無事にマルスの地表に着地した。
私はドアを開けて外へ出た。
そこで見たものは、赤い砂と岩だけだった。空は薄い茶色に染まっており、太陽は小さくて暗かった。風が冷たく吹いていた。
私は周囲を見回したが、人工的な建造物や生命の気配はどこにもなかった。まるで死んだ惑星のようだった。
私は不思議に思った。マルス人の文明はどこにあるのだろうか。この場所は間違っているのだろうか。
私は宇宙船に戻ろうとしたが、その時、私の耳に奇妙な音が届いた。
それは金属的なカチカチという音だった。それは地面から聞こえてきており、徐々に近づいてきているようだった。
私は音の方向を見た。
「おや、可愛らしいですね。この星生まれのロボットでしょうか」
「…?ロボット?ぼくはINU だよ。高性能 除精神圧迫 ユニットだよ」
「…ああ、確かに犬っぽいですね。そのもの自体は文明に存在しないでしょうけど」
頭部にカメラとアンテナをつけた四つ足のロボットは首を傾げながら私の発言の意味を理解しようとしている。
INUは数秒固まっていたが、遠くのほうから笛ともホイッスルとも言えない音が聞こえたため、理解することをあきらめて音のする方へ向かっていった。INUが向かっていった先には一般的な人間の外見年齢を参照した場合、20代後半から30代前半であろうマルス人が立っていた。
「良く此方 まで来られた、来訪者よ。此奴と同じ機構を持つ"モノ"として其方を歓迎しよう」
「ありがとうございます」
話を聞くと、彼の名はエルゴンと言い、この星の長であるらしい。若くして長に、と思ったがそれは人間側の知識に偏っている私の偏見だ。きっと100歳は優に超えているだろう。
エルゴンとINUが連れてきてくれたのは、かつて人間が生み出したSF作品で表現される、いわゆる”火星ドーム”と呼ばれるような施設ではなく、まるで地球の都会にそびえたつビル群だった。
これらが独自の文明で生まれたとは考えられない。
「どうして建物はこのスタイルに?」
「馬鹿な大工の戯れよ。何方がより高く積めるかの賭け事をしていたそうでな」
「どこにもいるんですね、命知らずは…」
私は軽く苦笑し、施設の中へ入った。
「そういえば、なぜ他の文明と交流しないのです?ほかの種族に興味がないのは重々承知なのですが、より新たな発展につながると思うのでは?」
私がそう聞くと、エルゴンは伏せた目を少し開いた。
「見得てしまうからだ。全てがな」
「全て…」
「我等種族には元より備わる力なのだ。全てのモノが対象なのだ。生物、資源、無論機械もな」
「"終わり"が見えてしまうから、種族全員で目を伏せ、外部を絶ったと?」
「其の通りであるな」
その後もエルゴンはこれまでに見てきた"終わり"を教えてくれた。それは一人が背負うにはあまりにも大きいものであると理解した。
私は"理解した"だけなのだ。では彼は?”理解してしまった”のだ。それがどれだけ辛いことか。私には分からない。それすら分かっているのだろう。
「しかし、此の儘では駄目だと分かっているのだ。此の先、文明が衰退しても良いと、又元に戻すことが出来ると思いたいのだがな」
「…そうですね、一人知っていますよ。衰退した文明を取り戻そうとする柔らかい心の持ち主を」
私は惑星ガイアを訪れた時の話をした。荒れた土地と一本の桃、一人の老人と数人のハレー人。私とガイアの出会いがエルゴンに良い影響を与えると信じた。
「…成程。矢張り見えるモノだけに囚われてはいけないと云うことか」
エルゴンは目を開きその無垢なまなざしを私に向けた。そして一礼してから施設の奥の方へ行ってしまった。
翌日、マルスを発つ準備をしているとエルゴンが昨日居たINUよりも少し小さいロボットをくれた。小型化したINUらしい。
「昨日の助言によって我等マルスの民は孤独な文明から卒業することが出来たのだ。感謝の品として受け取ってくれ」
「何度見ても可愛らしいですね。ありがとうございます。…それでは、また来ます」
「マルスは何時でも歓迎しよう。」
私は孤独から卒業したマルスの住民たちとエルゴンに別れを告げ、宇宙船に乗り込んだ。彼らは感謝の言葉と慈愛のまなざしを送ってくれた。私は笑顔で手を振った。私はマルスを後にして、次の目的地へと向かった。
次の目的地は、ソラリスと呼ばれる惑星だった。ソラリスは地表は海に覆われ、海底都市で暮らしているらしい。どういった環境で生活しているのだろうか。まだまだ知らないことがこの宇宙に残されていることを実感している。
「卒業…。人間らしくて良い響きですね。私もいつかは何かから卒業するのでしょうね」
ゾーンは進む、どこまでも。
まだ見ぬ大地 を目指して。
宇宙船はマルスの大気圏に突入した。私は窓から赤く燃える星を見た。老人から聞いたところでは、マルスには火山や渓谷、氷河や砂漠など多様な地形があるという。そして、そこに住む種族は感情が乏しく、他の種族に対して全く興味がないのだという。
マルス人は人間に似ているが、肌や髪の色が赤く、目を常に伏せているという。他の文明との交流がないにも関わらず、彼らは高度な科学技術を持っており、太陽系内で最も発展した文明を築いているという。いわゆる職人気質な種族性なのだろう。
私はそんなマルス人に会えるかもしれないと思うと興奮した。彼らはどんな思想や文化を持っているのだろうか。彼らは私を友好的に迎えてくれるだろうか。
「…さて、人の気配が全くしない場所に降り立ってしまいましたね」
宇宙船は着陸地点に近づき、減速した。私は着陸装置が作動する音を聞きながら、心臓が高鳴った。
そして、宇宙船は無事にマルスの地表に着地した。
私はドアを開けて外へ出た。
そこで見たものは、赤い砂と岩だけだった。空は薄い茶色に染まっており、太陽は小さくて暗かった。風が冷たく吹いていた。
私は周囲を見回したが、人工的な建造物や生命の気配はどこにもなかった。まるで死んだ惑星のようだった。
私は不思議に思った。マルス人の文明はどこにあるのだろうか。この場所は間違っているのだろうか。
私は宇宙船に戻ろうとしたが、その時、私の耳に奇妙な音が届いた。
それは金属的なカチカチという音だった。それは地面から聞こえてきており、徐々に近づいてきているようだった。
私は音の方向を見た。
「おや、可愛らしいですね。この星生まれのロボットでしょうか」
「…?ロボット?ぼくは
「…ああ、確かに犬っぽいですね。そのもの自体は文明に存在しないでしょうけど」
頭部にカメラとアンテナをつけた四つ足のロボットは首を傾げながら私の発言の意味を理解しようとしている。
INUは数秒固まっていたが、遠くのほうから笛ともホイッスルとも言えない音が聞こえたため、理解することをあきらめて音のする方へ向かっていった。INUが向かっていった先には一般的な人間の外見年齢を参照した場合、20代後半から30代前半であろうマルス人が立っていた。
「良く
「ありがとうございます」
話を聞くと、彼の名はエルゴンと言い、この星の長であるらしい。若くして長に、と思ったがそれは人間側の知識に偏っている私の偏見だ。きっと100歳は優に超えているだろう。
エルゴンとINUが連れてきてくれたのは、かつて人間が生み出したSF作品で表現される、いわゆる”火星ドーム”と呼ばれるような施設ではなく、まるで地球の都会にそびえたつビル群だった。
これらが独自の文明で生まれたとは考えられない。
「どうして建物はこのスタイルに?」
「馬鹿な大工の戯れよ。何方がより高く積めるかの賭け事をしていたそうでな」
「どこにもいるんですね、命知らずは…」
私は軽く苦笑し、施設の中へ入った。
「そういえば、なぜ他の文明と交流しないのです?ほかの種族に興味がないのは重々承知なのですが、より新たな発展につながると思うのでは?」
私がそう聞くと、エルゴンは伏せた目を少し開いた。
「見得てしまうからだ。全てがな」
「全て…」
「我等種族には元より備わる力なのだ。全てのモノが対象なのだ。生物、資源、無論機械もな」
「"終わり"が見えてしまうから、種族全員で目を伏せ、外部を絶ったと?」
「其の通りであるな」
その後もエルゴンはこれまでに見てきた"終わり"を教えてくれた。それは一人が背負うにはあまりにも大きいものであると理解した。
私は"理解した"だけなのだ。では彼は?”理解してしまった”のだ。それがどれだけ辛いことか。私には分からない。それすら分かっているのだろう。
「しかし、此の儘では駄目だと分かっているのだ。此の先、文明が衰退しても良いと、又元に戻すことが出来ると思いたいのだがな」
「…そうですね、一人知っていますよ。衰退した文明を取り戻そうとする柔らかい心の持ち主を」
私は惑星ガイアを訪れた時の話をした。荒れた土地と一本の桃、一人の老人と数人のハレー人。私とガイアの出会いがエルゴンに良い影響を与えると信じた。
「…成程。矢張り見えるモノだけに囚われてはいけないと云うことか」
エルゴンは目を開きその無垢なまなざしを私に向けた。そして一礼してから施設の奥の方へ行ってしまった。
翌日、マルスを発つ準備をしているとエルゴンが昨日居たINUよりも少し小さいロボットをくれた。小型化したINUらしい。
「昨日の助言によって我等マルスの民は孤独な文明から卒業することが出来たのだ。感謝の品として受け取ってくれ」
「何度見ても可愛らしいですね。ありがとうございます。…それでは、また来ます」
「マルスは何時でも歓迎しよう。」
私は孤独から卒業したマルスの住民たちとエルゴンに別れを告げ、宇宙船に乗り込んだ。彼らは感謝の言葉と慈愛のまなざしを送ってくれた。私は笑顔で手を振った。私はマルスを後にして、次の目的地へと向かった。
次の目的地は、ソラリスと呼ばれる惑星だった。ソラリスは地表は海に覆われ、海底都市で暮らしているらしい。どういった環境で生活しているのだろうか。まだまだ知らないことがこの宇宙に残されていることを実感している。
「卒業…。人間らしくて良い響きですね。私もいつかは何かから卒業するのでしょうね」
ゾーンは進む、どこまでも。
まだ見ぬ