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人工知能の惑星旅行日記

「なかなかファンタジックですね」

 宇宙船の窓から見えたのはガス灯が並ぶとんがり屋根の街だった。ザラシアは万人が魔法を使える種族が住んでいるといわれている。姿かたちはエルフのような長い耳と、身体の一部に埋め込まれた宝石以外はほとんど人間である。私は少し離れた森の、ぽっかりと空いた木々の隙間に宇宙船を泊めた。

 街のほうへ歩いて向かうと、人々─と形容していいのか分からないが、ここではザラシア族とする─が様々な方法で移動していた。歩いて店へ向かう女性とみられる者、2人で並んで箒で学校へ向かっているであろう学生とみられる者、私では動力が分からない二輪車で荷物を運んでいる配達員とみられる者。流石魔法の存在する惑星だと改めて五感全てから思い知らされる。

 商店街は多くのザラシア族で溢れかえっていた。今日が休日かどうかは分からないが、地球の商店街とは世界観が大きく異なる。街行く人々の"魔法使いらしい"服装も相まって、アンドロイドである私が至極浮いて見えるだろう。
 商店街の店の一つに入ってみる。洋服屋ではないことは確かではあるが、商品の内容が全く分からない。

「すみません。この瓶に入っているのは?」
「…ꘕー。ꕍꘕ꘥Kꘛtꖵ?Ahh…、それ Nꖃs 尿路結石」
「…尿路結石?何に使う物なんですか?」
「マーヴ。真意 マーヴ珠 伝播 使う」

 ザラシアでは独自の言語と、少し地球の言葉が話せる人がいるようだ。ただ、話のニュアンスしか伝えることができないようだ。それにしてもまさか地球から遠く離れた地で、尿路結石という単語を聞くことになるとは…。

「持参 譲歩 この 押す。この ザラシア 過ごす 腹 生まれる 砂利 同時 成り立つ 添加。ꖾꖬꕄꖔ マーヴ 減少 添加」
「…、ありがとうございます…」

 店員が持ってきたのはカラフルな粉の入った小瓶だった。カラフルと言っても、淡くキラキラとしている、いわゆるパステルカラーだ。私はそのまま買いたいという旨を何とか伝え、代金を支払った。
 観光客ということで、サービスで魔法でのラッピングをしてもらった。ここの店員は、ファンタジー作品でよくある杖を用いた魔法ではなく、カードを用いた魔法陣式を使っているようだ。様々な触媒をカードの上に置き、それがカードに吸い込まれる形で魔法陣が浮き上がる。

「その マーヴ管 円 添加」

 店員は私の手を指さした。恐る恐る浮き上がった魔法陣の中央に私が購入した小瓶を浮かせると、青い煙がもうもうと螺旋状に上がり、小瓶を包み込んだ。店員が何かの粉を振りかけると、粉はリボンに変わり、青いラッピングの上に小さなちょうちょが止まった。
 丁寧にラッピングされた小瓶を手に取り、店員に会釈をすると、店員は笑顔で手を振ってくれた。

 広場に戻ると、大きなドラゴンや額に宝石の付いた小動物たちが子供たちと遊んでいた。流石魔法の星、ファンタジックな生き物までいるのか…。と思っていたが、よく見てみるとこれらも魔法で出した実体のあるホログラムのようだ。この魔法もカードと触媒を用いているみたいで、地面には何も描かれていない白いトランプのような髪が置いてある。
 私がドラゴンの横を通り過ぎようとすると、ドラゴンは首を大きく下げてまじまじと私の顔を覗き込んだ。

「異星人の私が気になるのでしょう。そもそも私は人ではありませんが」

 私が頭をそっとなでると、ドラゴンは満足そうに子どもたちのほうへ向き直ってしまった。私も船のほうへ戻ろう、と思った矢先視界の端に違和感を感じる。キラキラとした目と宝石が足元から精一杯私のことを見上げていた。

「カーバンクルたちですか。ウサギやリス、キツネ…、様々な姿があるんですね」

 私は片膝を着く形でしゃがんだ。瞬く間にカーバンクルたちは私の身体ボディの上で遊び始めた。一匹のカーバンクルは私の膝に乗り、腹を見せて耳をパタパタさせ、また別のカーバンクルは地面についた私の上着の裾をかじっている。

「個性豊かで癒されますね。ペットで思い出しましたが…、彼は今頃どうしているのでしょう。うまくやっているといいのですが」

 そんな思考を巡らせていると、大きな鐘の音が街中に響き渡った。その音に驚いたのか、ドラゴンとカーバンクルたちはカードのほうへ戻っていってしまった。
 子どもたちはカードを拾うと、私に手を振って、走り去ってしまった。私は手を振り返し、ザラシアをあとにして、次の目的地へと向かった。

 次の目的地は「オリアス」と呼ばれる惑星だった。オリアスでは、住民全員が芸術に造詣が深く、色によって感情を伝えることが主流の星だ。色彩に思いをのせる。全てが作品の惑星に心を躍らせた。

「このラッピングはそのままにしておきましょうか。中身が気になったら開けることにしましょう」

 ゾーンは進む、どこまでも。
 まだ見ぬ大地オリアスを目指して。
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