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今日の夢見〜獏は密かに夢を見る〜

2XX9年、日本を始めとする世界の国々では未知の生物"クリムズ"に襲われていた。その事態を収束させる為、日本ではヒーロー育成の為の高等学校を各都道府県に3校設立する事を政府は義務づけた。

ピピピピ…ピピピピ…ガタッ!《おはよう!今日も元気にクリムズを退治して、君もノーグレンジャーズの一員だ!》
目覚まし時計は豪快に落ちながら止まった。壊れてはいないようだ。
「…〜ん?…ん⁉︎うわぁぁぁ!ヤバイ!遅刻だぁぁ!」
彼は空戸 朝月くうど あさつき。彼もまた、ヒーロー育成高等学校に入学する一人だ。
「うわぁ…。入学式に遅刻するとかありえねぇ!クッソ…!いつもならキキョウが起こしてくれるのに…!」



「…っ。あいつ、遅いな?…!ま、まさか─!」
「〜!ぜぇ…はぁ…っ!お、お〜い!キキョウ!」
「朝月!お前─!あれほど言っただろう!」
「だ、だって…!キキョウが起こしてくれないから…!」
なんとかギリギリで入学式に間に合った朝月を待っていたのは霧蒼 桔梗むそう ききょう。朝月の幼馴染である。
「はぁ⁈お前が"オレは華卜ヒーロー高校の生徒として自力で起きてやる!"って言ったから俺は信じたんだぞ!」
「ごめんって!でも、校門前で待っててくれたんだな?」
「勿論だ!お前が遅れたら俺まで恥をかく羽目になる!」
多少のいざこざはありながら、彼らは華卜ヒーロー高校への入学に心を躍らせていた。

「こ、ここがオレのクラス…!うぉぉ!楽しみだぜ!」
「全く、お前は何も変わってないな…。だから馴染めないんだ。」
「そ、そんなことねぇよ!」
「おはようございます、皆さん。さぁ、席についてください。まずは─」
担任が話し始めたが、朝月はクラスのメンバーが気になり、話を聞いていなかった。

案の定、自己紹介の時間になった。クラスには26名のヒーロー志望者が緊張しながら席についていた。
「は〜い☆ルルは〜、荊棘いばらルルって言いま〜す☆みんな、よろしくね☆」

「はい!オレは空戸 朝月!夢はノーグレンジャーズみたいなヒーローになることだ!よろしくな!」

「え〜と、あ─僕、ですね。僕は照野 八朔てるの はっさくって言う─ます。サク─うん、サクって呼んでください。よろしくお願いします。」

「…わっ!次、私だ!えへへ〜。えっと!私、双葉ふたば みくり!食べるのが大好きです!よろしくね!」

「霧蒼 桔梗だ。ここを志望した理由は、ヒーローとして自らを鍛える為だ。宜しく。」

そんな自己紹介をしてから真新しかった制服が少しずつ馴染んで行く頃、実習のためのチームを組むことになった。
「なぁ、キキョウ。誰と組めばいいんだ?」
「はぁ…。その辺は俺がやるから、お前は俺が言った奴のところに行って話して来い。まずは照野が良いところだろう。」
「分かった!サクだな!」


「サク!」
「うひゃぁ!もう!何よ!いきなり酷いわ!」
「…え?あ、間違えたか?ごめん!」
「─!ち、違うよ!ごめん!び、びっくりしたから…」
「そうか!なら良いんだ!あ、そうそう!オレ達とチーム組もうぜ!」
「え…ま、まぁ良いよ。僕、誰にも誘われてないから…」
「よっしゃ!じゃ、また後で話しかけるからな!」

「桔梗〜!OKだったぜ!」
「ん、よくやったな。次は双葉に話しかけて来てくれ。」
「了解!」

「…う〜ん、フタバ、見つかんないな〜。…ん?」
「…もぐもぐ。」
「何食ってんだ?美味しそうだな!」
「ふえぇ⁈なんれふは⁉︎あ、あげまふぇん!」
「ん?別にいらねぇし、チームに誘おうと思ったんだけど…ま、その気になったらオレ達のところに来てくれよな!」
「…ふぇ?…わかりまひた。」

「フタバにも話して来たぜ!」
「返事は?」
「ん〜、何か食ってたし組むならオレ達のところに来てくれって言っといた。」
「そうか、じゃ、次は荊棘だ。アイツは人気だろうから別に居なくてもいいが─」
「了解!行ってくるぜ!」

「もぉ〜☆ルル、どこに入れば良いのかわかんな〜い☆」
「おーい!イバラ!」
「あ"あ"?…ッチ、ウゼェ…。なぁ〜に?ルル、今とっても忙しいのぉ☆」
「そうだったのか…ごめんな!チームに誘おうと思ったんだけど、キキョウも"別に誘えなくても良い"って言ってたし。じゃあな!」
「はぁぁあ⁈このウチに話しかけておいて要らねぇだと⁈─るさねぇ。おい!そこの赤髪ィ‼︎」
「ん⁈なんだ?組むのか?」
「あぁ!入ってやろうじゃねぇか!」
「本当か⁈ありがとな!じゃ、また後で集まろうぜ!」

「…おい、朝月。」
「ん?何だ?」
「荊棘、あんなキャラだったか?」
「ん〜、あんなんだったと思うぜ。」
「(朝月は鈍感過ぎる、絶対恨まれてるな。)」

そして、顔合わせの時。昼休みであるため屋上には誰もいなかった。
「朝月、有難うな。中々な面子が揃った。」
「へへん、キキョウが選んだからな!」
「お前に任せたら秩序が乱れるからな。…さっそくだが、色を決めたいと思う。」
「は、はい!あ─僕は紫が、良いです…。」
「オレは赤が良い!ノーグレッドみたいな燃えるような赤!」
「わ、私!黄色が良い!プリンと同じ色…えへへ。」
「じゃ、俺は青にする。荊棘、お前はどうするんだ?」
「ルルは〜☆ピン─」
「そうだ!なぁ?サク」
「な、何…?」
「ピンクって除いたほうがいいよな?紫と近いし…」
「え⁉︎えっと…そ、そう…だね?」
「…はぁ⁉︎ウチと言えばピンクだろぉが!何省いてんだよ‼︎」
「ひぃぃ…!ご、ごめん…!」
「荊棘は緑で良いんじゃないか?」
「そうだな!そっちの方がイバラっぽいと思うぜ!」
「…わ、分かったよ…!もうどうにでもしやがれ…」

無事に色は決まり、荊棘ルルの素の顔がバレないように接しようと心掛けるのであった。



「さて、皆さんが入学して早くも3ヶ月が経ちました。」
「もう3ヶ月か〜、…ってことは!そろそろ実習やるよな⁉︎」
「煩い、朝月。先生が話してるだろう。少しは静かにしないと憧れは。」
「う…」
ヒーロー育成高等学校には3つのコースが存在する。
1つ、"ヒーロー育成学科"。勿論、彼らが所属しているコースで、社会で活躍するヒーローを育成する学科である。
2つ、"ヒーローアシスト学科"。名の通り、ヒーロー活動を支援する為の技術や知識を学習する学科だ。
3つ、"普通学科"。ここは直接的にヒーローと関わるわけではないが、専門公務員としてクリムズの知識を持った人材を育てる為の学科だ。

勿論、この学校に入る理由は"ヒーローになりたい"という男子生徒が7割。朝月もこの7割の中の一人だ。又、女子は2割。そして、残りの1割は公式ヒーローからの推薦である。

「あ、あの…桔梗さんのお父さんって、ヒーローなんですか?」
「そうだぜ!キキョウの父さんはノーグレンジャーズの"ノーグブラック"だ!」
「…あんまり父さんの話はしないでくれ。好きじゃないんだ。」
桔梗が父親に抱いている感情は少なくとも良い感情ではなかった。が、それはまた別の話。

実習では指定区域内でクリムズを退治する演習を行なう。期間は一週間。七時三十分から十八時まで、昼休憩一時間を除くの七時間半の間、実習を続ける。途中棄権も可である。

実習のあれこれを復習しながら朝月達の指定区域に着いた。
「へぇ〜、結構広いんだな…」
「お、お菓子足りないかも…」
「うぅ、少し怖い…です。」
《チームメンバー五人が指定区域内への入場を確認しました。これより、実習兼試験●●●●●を開始します。》
「はぁ⁉︎聞いてねぇよ!なぁ、キキョウ⁉︎」
「いや、言ってたぞ。」
「そ、それより、変身しなくても良いの─ですか⁉︎て、敵が─!」
「おっしゃ!なら、行くぜ!」

朝月が合図を出し、四人は頷いた。
「太陽の赤はヒーローの赤!炎に包まれ、いざ、緋桐ひぎり!」
「凍み鋭く、鮮やかに深く堕ちて行く青!竜胆りんどう!」
「黄色でみんなを笑顔に!甘〜く柔らか、白妙しろたえ!」
「…もう、アタシは隠したくないの!半分ずつの紫、際限なく見せてあげるわ!栴檀せんだん!」
「…は⁉︎え、ちょ!本気で言ってんの⁉︎…あ"〜もう!…怖いやつらなんてルルが倒しちゃうんだから☆見ててね、緑のスポットライト☆花筏はないかだ☆」
「オレ達の力を合わせれば勝てないものなんてない!オレ達は─!」

「バンシセンコウ!」
「万紫千紅!」
「万紫千紅〜!」
「万紫千紅…!」
「万紫千紅☆」

「へへっ!上手くいったぜ!おっしゃあ!オレの力を見せるぜ!」
「あんまり騒ぎすぎるなよ、今回は指定区域内のクリムズを全滅させる事だ。効率よく、考えて動けよ。」
「オイ、栴檀!さっきはいきなり何なんだよ!ウチの前のくせに─!」
「ご、ごめんなさいねぇ…アタシ、オネェなの…」
「ふぇえ⁉︎そ、そうだったんだね…!わ、私…嫌な思いさせちゃったり─」
「嫌だわ!白妙のことをそんな風に思ってるわけないじゃない!」

そんな話をしている間にもどんどんとクリムズは数を増やしていくのであった。
「─ンなんだよ!いくら倒してもキリがねぇ!ウチはもう我慢の限界だ!…お願い☆ルルに手を貸して…☆"ソーン オブ ウィップ荊棘の鞭"☆」
「…んもう!本当にキリがないわ!一体どれだけ出て来るの⁈」
「うわぁ〜ん!こ、こっちに来ないでよぉ〜!」
「…っ!緋桐!後ろだ!」
「おっしゃあ!ナイスだぜ!キ─じゃなかった、リンドウ!」
「お前は昔から危なっかしいんだ。いつかとんでもない怪我をするぞ。」
「モチロン!怪我なく助ける!それがノーグレンジャーズの代名詞だからな!」

「…ま、まだいんのかよ…。ウチももう限界だ…!」
「私、お腹すいた…死にそう…」
「まだ…!諦めちゃダメよ…!」
「…っはぁ、っく…緋桐、済まない…」
「…っ、みんな…オレは、…っ」
チームワークを見せつつ、敵を着々と減らしていたが一向に減る気配はない。緋桐…もとい朝月は時間が経つにつれ、疲労と怪我が増していく仲間を見て自分の力の無さを感じていた。


「…うぅ、ひっぐ…」
『あっはは!なんだこいつ!泣いてやがんの!男のくせに!』
「や、やめろよぉ…。オレは─」
『なんだよ、お前が何か出来ることなんてあるのかよ!ははは!』
「やめろ。」
『は?…っぐぅ!』
「なっ…ダメだよ…!」
「煩い。お前はこいつらに殴られたんだぞ?だから俺がこいつらを殴った。異論はあるか?」
「イ、ロン…?」
『…お、おい!こいつ、ノーグブラックの─!』
「…っ!おい、行くぞ」
「え…?でも…!」


「(オレはキキョウに助けられて、勇気をもらって、ヒーローを目指した…。オレは、もうヒーローなのに、まだ助けられてる…このままじゃ、いつまでもキキョウに頼ってちゃダメだ!)」
「オレだって…!みんなを─!赤く萌える緋桐の花よ!オレに力を貸してくれ…!"花山連剣かざんれんけん"!」
決め台詞を言い終わると、朝月の手には真赤な剣が握られていた。
「でやあぁぁ─!」
「はあぁぁぁぁ─!」
「おらあぁ─!」
朝月が剣を振りかざすと、その場にいた全てのクリムズは姿を消した。それと同時に数え切れないほどのクリムズが姿を現した。それを何回も、何回も繰り返す中、桔梗が口を開いた。
「…!…っ緋桐!…上だっ…!アレを壊せ…っ!」
桔梗の指差す方には浮遊する黒い物体があった。朝月がクリムズと戦っている間、桔梗は"何故クリムズが減らないのか"を調べていた。
緋桐が花山連剣を振りかざすたび、クリムズが倒される。そして出現するとき、その黒い物体は小さく閃光を放つ。それを桔梗の目は見逃さなかった。
「わかった!アレだな!せいやぁぁ─!」

朝月と花山連剣の力は超合金を持ってしても防げなかった。黒い物体は轟音を立てて崩れ落ちた。と、同時にブザー音が辺りに響いた。
「ま、まだ何があるのか…⁉︎もう、ウチは戦えねぇよ…。」
「うぅ…お腹…空いたぁ…。」
「アタシも…無理だわ…。」
《試験完了条件を満たしました。かかった時間は五時間四十九分です。暫定一位●●●●です。》
「…おっしゃぁぁあ!やったぜ!キキョウ!オレ達、暫定一位だって!」
「…っ!わかっ、たから!揺さぶるなっ…!」
「や、やっと、お菓子が食べれる…」
「みくりちゃん、後で一緒に買いに行きましょう!」
「あ"〜…やっと終わった…早く寝たい…」

そして全てのチームの試験が終わり、結果が廊下に張り出された。周りには自分達のチームの順位みたさに人だかりが出来ていた。
「うーん…オレ達は─!あった!」
「え〜☆どこどこぉ〜☆」
「あ、あった!ココょ…です!」
「み、見えないよ…」
「ここだ。─っ一位。」
「おっしゃー!って事はあのまま抜かれなかったんだな!」
朝月達のチームは一位のまま残れた理由は、あるチームはチームワークがなっていなかったり、タイムオーバーをしてしまっていたり、違反行為をする生徒がいたからであった。
「ありがとう!みんなのおかげだ!キキョウも、フタバも、サクも、イバラも!みんな、大好きだぜ〜‼︎」
「…うわぁ!び、びっくりしたぁ…!えへへ、ありがとう!」
「…っ!お前─!急に抱きつくな!」
「うふふ、楽しい─ね!ア─ぼ、僕も…!」
「ぎゃぁぁぁ!…はぁ…ルルもぉ☆」
一見するとバラバラだが、お互いのことをきちんと理解できている彼ら。これからもっと強い敵、多い敵達、新種の敵と戦うかもしれない。だが、彼らはきっと勝てるだろう。

昔に夢見て今もなお思い続けるあのヒーローになるまで。
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