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今日の夢見〜獏は密かに夢を見る〜

この世には、人間界、魔界、地界、…と色々な世界が存在します。
その中でも"天界"は全てを統べると言っても過言ではないでしょう。

「…ぜんっぜん進まないじゃないか!」
「しょうがないだろ。お前がサボるからいけないんだ。」
「まあまあ、いいじゃない。私、こういうの好きよ?」

今、この部屋には三人の神様見習いがいます。

「俺はこんな作業嫌いなんだよ!」

彼はノエル、18歳。仕事は嫌いだが女の子は大好き。年頃なだけあって遊びたい盛り。

「だから、こっそり抜け出して女の子てんしと遊びに…」
(バコッ!)
「…〜ってぇ!ふざけんな!急に殴んなくても…」
「…言っておくが、この声は上司ガイア様にも聞こえてるからな。」

彼はミドラグル、22歳。神様見習いの中でも上位に立つもの。ノエルの世話係に任命され、渋々やっている。

「はぁ⁈マジかよ!終わった…」
「うふふ、諦めることね〜。それを聞き出すために私たちは貴方を手伝ってたのよ?」

彼女はミューリ、22歳。同期のミドラグルがノエルの世話係なので面白半分でついて来た。

「もう何も信用できねぇ…大体…ブツブツ…」

何故ノエルはこんなことになっているのでしょうか

〜数時間前〜



「(よし、誰も見てないよな…?それじゃ、早速抜け出して女の子と…♪)」
(カツ…コツ…)
「(…ん?誰か来んのか?ま、良いや!俺、関係ないし!)」
(ドンッ!)
「うわっ!」
「ん?あぁ、ノエルか。お前、企画書終わったのか?」
「あら!珍しいわね〜。あのノエルサボリ魔が終わらせるなんて〜」
「ギクッ…」
「何だ?その反応…お前、まさか…」
「あ"〜!それ以上は言わなくて良いから!そうだよ!終わってねぇよ!チクショウ!」
「あらあら、ダメよ?おサボりはいけません。」

と、まぁこんな感じでミドラグルとミューリは相変わらずサボろうとするノエルには苦労させられているのでした。


「んー…つってもあとこれだけなんだよなぁ…」

"      "企画書

「これって…空欄じゃないか!これ、明日提出だぞ⁈」
「あ〜、これね〜…大変だったわ。私、一週間かけたもの。」
「マジかよ!一週間かけなきゃいけないのを1日で書けっつーのかよ!」

「やらないお前がいけないんだ!」
「やらないあなたがいけないのよ」

「んだよ!二人揃って!はぁ…」


数十分後…

「で、できた〜…」
「本当か⁈」
「やればできるじゃない〜凄いわ〜。どれどれ…」

"GOD神ング‼︎"企画書

「…はぁ?ふざけてるのか?」
「いやいや!大真面目だ!ふふん、聞いて驚けよ…」
「まぁ、嫌な予感しかしないわ〜…」
「まず!GOD神ングは完全にダジャレだ!」

「だろうな。」
「でしょうね。」

「う…。と、取り敢えず!内容は"おれたちが人間の願いを叶えてやるんだよ!まさに『神様が来る』ってカンジだろ⁈」
「…お前なぁ…そんな簡単に言っても…」
「良いわぁ〜!楽しそうよ?そういう類の企画はみんな避けるから出てこないのよ〜。」
「ミュ…!そんなことしたら怒られるぞ⁈」
「大丈夫、大丈夫よ〜。私が何とかするわ〜」
「は、本当⁉︎やった!頑張って良かった!」
「はぁ…取り敢えず提出しに行くぞ。」

「はーい‼︎」
「はぁ〜い」





何とかして企画書を書き上げたノエルたちは、"GOD神ング‼︎"企画書を提出する為、彼らの上司に当たるガイアに会いに行きました。

「ガイア様ー!企画書、出来っ〜〜‼︎」
「おい!口の利き方に気をつけろ、ノエル!」
「うふふ、やっぱり面白いわぁ〜」



「…!はい!済みません、うちの奴らが…。それと…これがノエルが作った企画書です。」

………

「そうよ〜、ガイア様。ノエルが珍しく頑張ってくれて、面白いのよ?」
「っぷは!そうなんだ!俺、頑張ったんだぜ!ガイア様!」

…………!

「はい、はい…えぇ⁉︎嘘でしょう⁈この企画、実行するのですか…⁈」
「…!やった!そうとなったらさっさと神員じんいん集めだ!よっしゃああ!」
「あらあら、張本人は元気ねぇ〜」


ガイアは珍しい企画を条件付きで面白半分、真面目三割、えこひいき二割で採用しました。
これがノエルを変える一番の理由になったのはもうちょっと後のお話。


〜自室〜

「はぁ…本当に採用されるとはな…」
「うふふ、でしょう?ガイアなら採用すると思ったわ〜」
「俺チョーゼツ楽しみなんだけど‼︎ヤベー‼︎」
「取り敢えず、実行するから話し合いするぞ。」
「リョーカイ!」








「よし、それで決まりな!」
「う〜ん、楽しみだわ〜」

いろいろ話し合った結果、自分たちだけで任意の人間に会いに行って願いを叶えるということになりました。

「んじゃ、早速行こーぜ!」
「そうね〜」
「おい!もっと準備をしてから…!ったく!」




〜人間界〜


「わ〜!人間界ってすっげーかわいい子沢山いるじゃん!ここの方がてん…」
(ゴスッ!)
「全く、企画を実行しに来たんだろ…」
「あら〜あの人格好いいわ〜!ミドラグルとは比にならないわね、うふふ。」
「あのな…期限は1ヶ月だぞ?」

「「え」」

「知らなかったのか…」


この企画は危なすぎる、だから期限を決める。とガイアから出された条件として『1ヶ月間で一人だけ決める』ということに決まりました。


「ん〜、つってもなぁ〜候補が多すぎるな」
「あら、この子なんて良いじゃない。"孤児院育ちの子"なんて、願い事沢山ありそうじゃない?」
「それならこっちの"父子家庭の女の子"の方が現実味があるだろう。」
「え〜!俺、この"裏があるモデルの子"が良いんだけど!」

「「「…」」」
(スッ…)
「異論は無しだからな」
「もちろん!一回限りだからな!」
「うふふ。私、意外と強いのよ?」


「「「じゃ〜んけ〜ん…」」」

「ぐ〜‼︎」
「パー」
「グ〜よ」

「よし、決定だ。」
「ちょ、ちょっと待て!おま、後出…!」
「言い訳しても無理よ〜。ノエル、我慢しなきゃ」
「チクショウ‼︎」
「それじゃ、早速行くぞ」
「「は〜い」」

だいぶ時間はかかりましたが、願いを叶える人間を決めたようです。

【その少女は願うことなんてありませんでした。自分と父親だけの生活だけれど、つまらないことなんてなかったし、寂しくもありませんでした。ただ、ふとした時に母親という存在を意識してしまいました。】

「…ここだな!」
「そうみたいねぇ〜」
「じゃ、早速ご本人に〜…」
「駄目だ。」
「え?なんで?」
「まだ、父親が家にいる。本人以外との接触は危険だ。」
「そっか…んじゃ、待つか!」

【「…いってらっしゃい」
「あぁ、良い子にしてるんだよ、伶㮈れな。」
ガチャン…
「…お皿、洗わなきゃ」

"伏御星 伶㮈ふみほしれな"
それは私を表す唯一の記号であり、存在意義である。
私が生まれた時から母親はいなかった。私を産んだ時に死んでしまったとお父さんから聞いた。
「…学校、行かなきゃ。」
普段は学校に行かずに仕事をしている。何故か?…"いじめ"というやつだ。私が片親だから、いじめられる。ただそれだけ。でも、今日は行かなきゃ。"いく"って決めたから。】


「な〜んか、悲しい子ねぇ…」
「…絶対俺が何とかしてやるぜ!」
「お前、下心あるだろ?」
「なっ…!そ、そんなことないし〜?別に、可愛いから、付き合いたいとかじゃ、ないし〜?」
「バレバレよ?」
「うっ…」
「…ねぇ、さっきから煩いんだけど」
「あら、気付いてたのね〜。うふふ、可愛いわ」
「…やめて」
「君が伏御星伶㮈さんだね、話があるんだが…?」
「…危ない気しかしないんだけど」
「ダイショーブ、ダイショーブ!俺たち、いたって健全だから!」
「うふふ、一番信頼されてる私が説明するわ〜」



勝手な判断で一番安全視されているであろうミューリが自分たちは何者か、自分たちが来た理由、どれくらいの期間いるのかを説明しました。

「…願いを叶えてくれるの?」
「そうだぜ!なんでも叶えてやるよ!」
「なんでも?…でも私、願いなんてない。」
「「「え」」」
「そ、それじゃあ駄目なんだって!俺たちだって仕事だし…!」
「ないって言ったらないの。諦めて」
「…本当にないの?本当になんでも良いのよ?」
「…殺して。」
「は⁈お前、自分から死ぬなんておかし…」
「ミドラグルは黙ってて〜?誤解を招いちゃうのよ、貴方」
「う…。わかった。」
「私じゃなくて、クラスの奴らをみんな殺して欲しいの」
「…でも、それは…」
「何でも出来るんでしょう?…嘘吐き」
「ち、違っ…!」
「じゃ、私が死ぬ」
「そんなの駄目に決まっているだろう⁉︎」
「…じゃあ叶えて?」
「うーん…流石に厳しいわ。ちょっと考える時間を頂戴?」
「…わかった。じゃあ、明後日までは待つ。待ち合わせは、私の学校の屋上。」
「屋上…⁈でも…!」
「ノエル‼︎…明後日だ。…一旦帰ろうか」
「…おう。」

少女が提示した願いは神様としては叶えてはいけない願いでした。
"一人の人間の願いのために、沢山の命を奪う"その願いを叶えてしまったらノエルたちは神様としての命を絶たなければなりません。

「…どうすれば良いんだよ‼︎俺、伶㮈の事を殺す事になるのか⁈何で…‼︎」
「お前はこういうの知らないだろうからな…"叶えて良い願い"を言われる場合があれば、もちろん"叶えてはいけない願い"を言われる場合もある。」
「そういうのも含めてガイア様が企画をOKしてくれたのよ?"彼への勉強に"って」
「…嘘だろ…?もう、なんなのかわかんねーよ…」
「頑張って考えてみよう。考えないことには始まらないからさ」
「…おう。」
ノエルにとって、願うこととは"お金が欲しい"とか、"〇〇が欲しい"などの物欲だけだと思っていたのでした。だからこそ、このような願いを聞いて混乱しているのです。

叶えてあげたい。叶えなければ伶㮈が死んでしまう。でも叶えてしまったら自分の立場としても無くなってしまうし、沢山の命を奪うことになる。いつでも能天気でサボリ魔だったノエルにはとても辛い選択でした。

「…約束の日は今日よ?どうしましょう?」
「…」
「ノエル、ノエル!」
「…え⁉︎あ、ああ…ごめん、聞いてなかった…」
「放心状態か…。しょうがないだろうな…」
「だって…俺、伶㮈のこと…」
「ごめんなさいね…私のせいよ。貴方の企画を軽視してたのは私だもの」
「…そんなことないよ、ミューリ。俺が悪いんだ」
「…やっと来たの?それで、どうするの?」
「…っ」
「…ねぇ、ノエル」
「なに…?」
「私ね、あなた達に会えただけでも良かったと思ってるの」
「どうしてだ…?俺たちは伶㮈の願いを叶えられないのに…?」
「うん、知ってたの。だって私は沢山の命を奪うことを望んだ。だから、代償を払わなきゃ。」
「意外と達観してる子なのね。偉いわ」
「ありがとう、ミューリお姉さん」
「あら、嬉しいわ」
「…ミドラグルは特にない」
「…だろうな」
「…嘘。貴方は私の事を気遣ってくれた。それだけで嬉しかった。…私が死んでもお父さんは笑ってくれるはずだから。」
「待って…!俺、まだ考え…!」
「…もう、待てないの。ごめんね…。ノエル。三日間、私のことかんがえてくれて…」
「まだ…!ねぇ!待って…!」
「さようなら。すこしでもわたしのことをすきになってくれたひとたち…」
「れな‼︎‼︎」
(………ドスッ)


そうして少女は自ら命を絶ってしまいました。これは誰かに変えられることではありません。少女は最初から死ぬつもりだったのですから。ノエルたちが来なくても少女は"逝く"つもりでした。





「…はい…はい。わかりました。書類、まとめます。」
「…あれから、ノエルはとても変わったわね。」
「そうだな、今日でちょうど三年か…。まだ少女のことを考えてるみたいだ」
「…なんだよ、お前ら。二人でコソコソ!」
「あらら、バレちゃったわ」
「さて、仕事に戻るか」
「は⁈なんの話してたんだよ!…もういいし!遊びに行くから!」
「うふふ、どこへ?」
「どこでも良いだろ!行ってくる!」
(バタン!…)






「…っと、ここだ…。なぁ、久しぶりだな。」

伏御星家乃墓



ノエルが来たのは伶㮈が埋められた墓でした。

伶㮈が落ちてしまった後、学校の職員室にいた教師が窓の外を落ちて行く伶㮈を見て校庭に見に行って、警察に連絡しました。出血多量で即死だったそうです。

「もう三年も経ったんだな。俺、まだ克服出来てないんだ。伶㮈が俺の目の前で落ちてから、ずっと部屋にこもって泣いてたんだ。"伶㮈のこと助けられなかった"って。でもさ、前は向けてるんだ。良かったら天界に遊びに来てよ。…俺は待ってるから」




「…ふふ」
「⁉︎な、なに⁉︎」
「…全部聞いてた。」
「な…!っ〜〜!…か、帰る!」
「…恥ずかしいの?顔、真っ赤…♪」
「うるさい!」
「…一緒に行く」
「あっそ!…、勝手についてくれば…」
「…うん」
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