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今日の夢見〜獏は密かに夢を見る〜

双子とは、その生き物が同じ母体から、そして全く同じ姿で生まれることである。
例外として****、又は****もこれに当たる。
〜ヒグル=ヴェルナー〜






この世は、奇妙なことが度々起こる。
双生児もそうである。
ある村の外れ、そこに双子の狼が生まれた。
決して狼は崇められるような存在ではなかった。言ってしまえば、忌み嫌われる存在であった。
さらにその村では危険な魔術が使われていたとか噂が流れていただけあってか、誰も近付こうとしなかったのだ。


「なぁ、俺たちってどう言う存在なんだろうな。」
『…(きっと褒められたものじゃ無いよ)。』
「ほんと、お前だけだよ。俺を信じてくれるの。」
『…(だって、僕には君しかいないから)。』
「…それは俺もだ。俺にはお前しかいないんだ。」
『…(でも、僕たちだけでも生きていけるよ)。』
「そうだな。たとえ親がいなくても、大人がいなくても、俺たちだけで生きて、生きて、生き抜いてやる!」



狼たちが生まれてから幾年か経った頃、狼たちは人狼となった。紛れも無い少年の姿で。
…ただ、それには問題があった。
『…(ね、ねぇ)。』
「ん?なんだ?具合でも悪いのか?」
『…っ。…(まだ、声が出ないんだ)。』
「!ほんとだ…。どうしてなんだ…?人狼になれば出ると思ったんだけどな…」

一匹は不完全だった。声が出せなかったのだ。
前から声は出なかったが、そこは双子のもつ力、以心伝心というやつか、聴こえていた。

『…(これじゃ、僕だけで街に出ることができないよ)。』
「…じゃあ、これはどうだ?俺は買い物に行く、お前は家事をやってくれ。仕事だって任せろ。」
『…(でも!それじゃ、割りに合わないよ!僕ばっかり家にいたら…)!』
「いいんだって!それに俺、言っちまえば家事苦手だし…それこそ俺がやるよりいいだろ?」
『…(そう…かな、それならいいんだけど…)』
「あぁ!もちろん!じゃ、俺行ってくる!」
『…(気を付けてね)!』

それでも二匹は仲良く暮らしていた。
"どうせ自分たちは許されざる存在なんだ。だったら自分たちだけの幸せな生活を送ればいい。他人に迷惑かけないのだから。"











それから数ヶ月経ったある日、一匹は街へいつも通り買い物に行くことになった。
そこで、とんでも無いことを聞いてしまったのだ。彼らにとっては触れてはいけなかった核心にも関わらず。

<ねぇ?森に双子の狼がいるの知ってるわよねぇ?>
「(…?俺たちのことか?)」
<もちろん!あの"実験体"のことだろう?覚えてるよ!何年か前に滅びた村のなぁ!>
「…っな!」
<?どうかしたのかい?少年>
「い、いや…ちょっと、気になって…」
<あら、珍しいわねぇ!この話知らないなんて!>
<教えてやろう。森の奥に住んでいる狼は知っているよなぁ?あいつらは実は双子じゃなくて、野生の一匹から作られた"クローン"なんだとさ!>

彼らは双子ではなかったのである。…否、たしかに双子だった。いくらクローンと言えど、所詮全く同じ細胞をもって生まれた生き物に違いない。
その後も彼は"兄の方が野生の狼であった"こと、"少しだけ複製に失敗し、弟の方は喋れなくなってしまった"こと、"クローン作成の助けになるのでは、と黒魔術を使ったことによって彼らは永遠に生き続けてしまう"ことを聞いた。
彼らは自分の身に起きているのだ。彼でなくても、動揺し、不安にかられるだろう。

「そ、そんな!嘘だ!お、俺たちは…!そんなこと信じない…!」
<お、おい!待ちなさい!まだ…!それに、俺たちってどうゆうことだ!>
<まさか…あの子、狼なの?>
「…っ!(どうして…!?俺たちは…!そんなはずない…!だって…)」





受け入れたくなかった。自分たちはなんだったのか。そんな混沌とした感情や疑問を抱えながら、周りの何もかもが見えないような速さで家に帰った。…周りが見えないのは速さだけではなく、涙が溢れていたからかもしれない。
それくらい、彼の心は擦り切れていた。




「…っはー、はー、…」
『!(どうしたの!?そんなに急いで…!何か、あったの…?)』
「…っ。おれたちは…ふたごじゃ、ないって。」
『…っ!(嘘…だよね…!?だって、僕たち、ずっと一緒だった…)!』
「おまえが、しゃべれないのも、どうぶつじっけんで、しっぱいしたからだって…。」
『…(そんな…)。』
「…っ。」

まるで時が止まったかのような感覚だった。
その沈黙を破ったのは、弟の方が自分の頬を叩いた時だった。

『…。(…ううん、駄目だよ!そんなの)!』
「っ!な、なにが…?」
『…っぁ!〜!〜っ!』
「おま、!なに…っ言いた…!」
『…(ねぇ、涙を拭いて?僕は喋れないし、君に迷惑かけるかもだけど、僕と君は紛れも無い双子なんだよ)!』
「…っ。…は。あはは!そう、だな!おれたちは、双子!」
『…ふ。…ぅ、たご…っ。』
「…っ!声っ!」
『ん…!(…まだ不完全だけど僕も頑張ってみるから、待っててくれる)?』
「もちろん!いつまでも待ってる!ずっと!…俺たちは永遠に一緒だから…!」




それから双子は自分たちの存在を改めるため、名前をつけることにした。

「名前か…、…わっかんねぇ!」
『じぁ、ぼ、ぅ…っける。』
「本当か!?じゃ、頼んだ!」
『ん!』

それから弟は、兄の方をエヒト…本物、と、自分をヒグル…鏡、と名乗ろうと伝えた。

『…っ。(これでいいよね)?』
「あぁ、…でも、人間には"苗字"ってのがあるよなぁ…?どうする?」
『ん…。わ、った。』

さらに、人間の名を真似て、"ヴェルナー"という姓を名乗った。






『…うん。これぐらいでいいかな。さて、仕事、仕事。』

一時間ほど向き合っていた書を閉じ、筆を置いて伸びをした。
そして、大分使い古した白衣に袖を通して、真新しい眼鏡をかけて彼は部屋の外に出て行った。
その本のタイトルは…
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