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今日の夢見〜獏は密かに夢を見る〜

 今日は何でもない日。そんなの毎日じゃないかって?確かにそう思うかもしれない。けど違う。今日は確実に、絶対に"何でもない日"なのだ。

 意識がもうろうとする中、ぼやけた視界に集中する。おなかが冷たい。…服がめくれてるだけだった。こんなんだから風邪が治らないのだ。実際鼻は痛いし、鼻の通りも悪い。
 めくれた服と掛布団を直し、階段を下りる。テレビは面白くないバラエティーと代り映えのないCMを流していた。
 家族と他愛のない話をする。その後、机に置いてある朝食の残りを手に取り口にねじ込む。美味くも不味くもない。時計は10時30分を指していた。

 パソコンの前に座る。今日もしょうもないことをツイートして、ゲームをして、友達と通話をして──何かやらなきゃいけないことがあった気がするが知ったことではない。だって今日は"何でもない日"なのだから。

 出かけるわけでもなく、かといって家族でなにかをするわけでもない。唯々だらだらと家にいる。全国民がそうしているのだ。

 それがこの国の法律だからだ。

 『憲法12章35条 4月1日は"何でもない日"を徹底しなくてはいけない。これに反した場合、即座に終了される。また、4月1日に関して、追及することを禁ずる。これに反した場合、即座に終了される。』

 終了、つまり殺されるということだ。なぜこの法案が通ったのかわからない。いつからあるのかも分からない。でも誰も聞くことが出来ない。

 時刻は12時ちょうど。テレビはいまだニュースの一つもやっていない。やっているのはお昼の生放送。人相の悪いお笑い芸人と握手券だけで売っているアイドルがクイズをしたり食レポをしている。

「それにしても、今日は調子がいいわ~w僕の中で今日は特別な日ですわ」

 お笑い芸人が笑いながら放った言葉を合図に「しばらくお待ちください」と画面に表示された。画面が花畑から元のスタジオに戻ったときには、アイドルが顔を青ざめながら笑顔を張り付けて足元の血だまりから目を背けていた。

 ああ、"終了された"んだな、と家族と一緒にぼーっと見る。司会はそのまま番組を進めていた。

 何もないまま時間は23時。まだ眠くないのでパソコンをいじる。YoutubeにTwitter、たいして面白くもない、惰性でプレイしているゲームを行ったり来たり。
 そろそろだ、とTwitterで『ツイートをする』をクリックする。
【今年も何ともなかった。そりゃあそうだよね~"何でもない日"なんだもん。そういえばお昼のテレビで終了者が出てたなあ。久々に見ちゃった。"特別"にしちゃいけないんだから…。まあでも、いい一日だったよ】

 青い楕円のボタンを押す。1秒前の投稿。デジタル時計には24と0が4つ。
 あれ、じゃあ投稿したのは4月1日…?

 その疑問はうなじに感じたひんやりとした感覚と歪んでいく視界と共に消えた。
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